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二章 四十話 『混ざる』

    ◇



 時は三十分前に遡る。


「……おっせえ。何道草食ってんだ、あいつら」


 傭兵の国の外にて、ミツキたちの帰りを待つディエス。すぐに戻るだろうと思っていたが、全くその気配はない。心配だが、迎えに動こうにもルナリアからの使いが来るまではそれもできない。


「参ったな……」


「どうした? 少年たちはどこにいる?」

「おわぁ!!」


 思索に耽っていたディエスは周囲の警戒を疎かにしていた。だから、忍び寄っていた彼女のことにも気づかないまま。突然声をかけられ素っ頓狂な声を上げてしまう。


「姉御かよ……ビビらせんなっての……あれ? ってことは」


「そちらが勝手に驚いただけだろうに。そうだ。不本意だが、私が使いだ」


 ルナリアがミツキを迎えさせるために送ったのはアテナであった。確かに飛竜をはじめ魔獣を付近に向かわせるよりも印象は良い。納得の人選である。


「……で、そちらさんは?」


「ごきげんよう。初めましてですわね。ただのしがない貴族ですわ」


 それが一人であったなら、だが。あろうことかルナリアもミツキたちを出迎えるために執務を放り出して傭兵の国(ガルディニア)まで飛んできていた。文字通り、アテナの背に乗って。


「ふん。一人でも来られただろうに。つくづく嫌味な女だ」


 アテナが了承したのは、ミツキに何かあればいけないから、と脅されたからである。アテナも与太話だと跳ね除けることもできたのだが、そうはしなかった。ミツキという少年が引き寄せる因果に、どことなく不安がよぎったからだ。


 ルナリアがわざわざ馳せ参じたのも同様。傭兵の国が抱える危機、それに飲み込まれていないかが不安で仕方なかった。


「? まあ何にせよ助かった。なかなか帰って来ねえから様子見に行こうと思ってたところだ。二人はちょっくらここでまっててくれや」


 これでディエスが待機している理由は無くなった。戻ってこないミツキの様子を見に再入国を試みる。


「──アテナさん」


「そうだな。それならば我々も行こう」


 「帰って来ない」。その言葉が二人の胸中をざわつかせる。じっとしていることもできずに、二人もディエスについて国に向かう。




「とりあえず、入国したら徒歩で……っ!? なんだこりゃあ!?」


 入国口を開けたディエスたちが目にしたのは、張り巡らされた結界。ここにきて、事件の継続が外の人間にも詳らかとなる。


「結界、か。おい、お前なら」


「……無理、ですわね。これは自然と消えるもの。その分時間内の強度は非常に高い。部外者がどうこうできるものではありませんわ」


 ラストボンドの結界を管理している彼女をして解除が不可能とされる結界、それが三人を阻む。ミツキたちが戻らないのもこれが一つの原因だろう。それと共に、何らかの事件に巻き込まれているのだとも。


「壁の上は素通し……魔獣ではなく人間の侵入を阻む……? 一体何が目的ですの? リベラさま? それとも王?」


 結界の性質からルナリアは事件の概要を解読しようと試みる。しかし、外部から知れる情報だけでは結論に至るには足りない。分かったのは人災であるということと、内部の人間を狙った犯行であるということのみ。


「……そんなら、壁登ってでも」


「いや、お前は自警団に連絡だ。この規模の事件、国家介入が正当化される程だぞ。戦力を招集できるお前が動け」


 状況が悪い。ただでさえ後手に回らされている今、できる手は全て打たなければ取り返しがつかない。ディエスは一国の戦力を動かせる立場。それならば招集に尽力するのが最善だとアテナは告げる。


 ディエスもそれは理解できている。その上で渋る。ミツキたちを渦中に置いて、自分だけ離れることが心苦しい。


「──おい。行くぞ」


「あら。大盤振る舞いですわね」


 逡巡するディエスを傍目に、アテナが小さく竜の姿を模る。非常に小さな、人一人乗せるのですら限界の姿。だが、それには人に無い翼がある。結界を越えることのできる翼が。


「あんたら、まさか」


「後で落ち合おう。少年は私たちに任せろ」


 アテナはわかる。だがディエスにとってルナリアは得体の知れない女。ミツキたちのために危険をおかす理由が分からない。


「安心なさって。私、皆さんには借りがありますの」


 彼らはそう思っていないだろうが、ルナリアはあの出来事を借りだと捉えた。それほど彼女が気付けたものには価値があって、ミツキたちへの想いには理由がある。言外の理由を、今はただ瞳に乗せて伝える。


「──あいつらを、頼んだ。」


 彼もまた、その眼差しに信頼を預ける。ディエスは車へと向かい、一目散に魔性の国(ファタール)へと走らせた。


「行きましょう」


 こうして二人の頂点は、傭兵の国へと飛び立った。視界にミツキを捉えたのはほんの数分前の話。


 彼の命が尽きるはずだった、わずか数秒前の話。



   ◇



「俺も……援護、を……」


 ふらふらと力なく立ち上がるミツキ。肉体の損傷は癒せても、疲労や疲弊は治せない。気力で立つことも難しい彼は、立ち上がってはすぐさま地面に倒れ伏す。


「今は休んでくださいな。あの方は、私たちが」


「はっきり言えば、今の君では足手まといだ。しばらく大人しくしていろ」


「……すんま、せん」


 言葉尻に違いはあれど、二人ともミツキを心配していることに変わりはない。それを受け取ってか、ミツキも意地を張らずに大人しくなる。


「合わせる。好きに動け」


「……こういうの、初めてですわね」


 ルナリアは不敵に笑う。彼女にとって共闘など未知の出来事。自分一人でと背負い込んでいたかつての自分では考えられない状況に、思わずこぼれた笑みが咲く。


 アテナも心中ではこの因果に嘆息する。自分を蝕んだ張本人と、肩を並べて戦おうとは。その未知は、彼女の体をたぎらせるに十分のものだった。



 ルナリアが地面を蹴り飛ぶように走る。その正面には竜鱗が三枚。ぴたりとついて離れない。アテナはルナリアの侵攻速度に合わせて、盾のようにそれらを操る。


 速い。ミツキの比ではない速度にリベラも一瞬だけ見失う。だが、すぐさま照準を合わせ剣を振りかぶる。


「ご、おっ!?」


 再度、視界からルナリアが消え、間髪おかずに腹部に蹴撃が突き刺さる。先ほどまでが最高速度ではなかったのか。さらに加速して残像ばかりが残る。否。彼女は確かに自身のもてる最高速をぶつけていた。それが消えたカラクリを、リベラは極限の思考の中で探り当てる。


(スケ)(イル)……!」


 ルナリアの加速には竜鱗が関わっていた。かつてナレッジにおいてアテナが見せた、反射を利用した加速。それをルナリアに施した。有言実行、その獣のような速度に合わせてみせたアテナはやはり巧者だろう。

 だがことこの場において称賛すべきはルナリアである。彼女は竜鱗に一瞥もせず、突然の加速へと体を完全に合わせてみせた。リベラが風で加速したのとは訳が違う。これこそが、死造神ダアトの写身、その真髄なり。


「はあっ!!」


「っがぁ! ──神風!!」


 そのままルナリアは接近を保ちながら縦に回し蹴りを見舞う。リベラは地面に叩きつけられ、一度弾む。二人の体が離れた隙に、リベラは風を放ち距離を取る。竜鱗の効果で跳ね返ってくる風すら利用して。


 ルナリアの攻撃はいずれも肉体の形が崩れかねない威力を込めている。以前ミツキに放ったそれらとはものが違う。リベラが五体満足を保っているのは、彼が持て余す魔力を体内でフルに回転させているから。強化と回復。一瞬でも怠れば臓物など全て弾け飛ぶだろう。



「甘いな、人間」


「っっ!! おの、れぇっ!!」


 距離を取った先、潜んでいたのはアテナだった。彼女は体を竜の形に一度変え、認識しづらい大きさに変質。ルナリアの攻撃から逃れるタイミングを見計らって再度人間形態に変化。攻撃を加える。


 殴る、蹴る。単純な暴力も、魔力の塊たる二人の前では凶器に変わる。リベラも剣で応戦しているが、アテナは刃に物怖じなどしない。まるで剣と剣とがぶつかり合うような高い音を響かせながら剣戟が、拳戟が続く。


「おおお!!」


「ちっ」


 リベラは「極虹」を中心に周囲へと氷の棘を生成した。咄嗟に放った魔法故に発動後間も無く形を失ったが、アテナはたまらず回避のために後ろに下がる。


 リベラであっても、近接戦でこの二人を同時に相手取るのは絶対に不可能である。それを打破するために彼が選択した作戦は魔法による遠距離制圧。奇しくもミツキが彼に対して取ろうとしていた策と同じもの。異なるのは属性。リベラは炎ではなく、慣れ親しんだ氷を放ち続ける。


「──形勢」



 アテナに向け四つ、氷の斬撃を放つ。深い蒼を放つそれは、途中で竜鱗に阻まれ力を失う。それでも、永遠に防げるわけではない。矢継ぎ早に氷を生成し、アテナの動きを封じる。


 彼は気づいていない。なぜ、先ほどアテナが接近を解いたのか。竜鱗で受けずに回避を選んだのは何故なのか。神に等しい力を前にして、興奮しきった彼の頭では捉えきれない。


「逆て──」


「耄碌なさったのかしら、『剣神』?」


「!?」


 頭上から、ルナリアの声。厳密には、自身を囲むように言葉が舞う。それもそのはず。ルナリアはリベラの周囲を飛ぶように舞っているからだ。


 アテナが竜鱗を使わなかったのは、これを仕掛けていたから。リベラを囲うようなドーム状に竜鱗を配置。それをジャンプ台、兼、加速板として利用しルナリアがリベラを翻弄する。


「っ!? が?? っは……ぁ」


 リベラを掠めるようにルナリアの拳撃が、蹴撃が、雨霰と降り荒ぶ。速度は次第に増していき、世界には彼女の残像が一つ二つと増えていく。


 一方的な蹂躙に思えた一幕。一瞬の終わりは突如として訪れる。


「おおおおああああああああ!!!!」


「っ!」


 リベラは自分を巻き込むほど大質量の氷を生成。ドーム内を押し潰すように魔法を放った。アテナは魔力の集中と同時にドームを解除。速度に乗ったルナリアは着地出来ずに受身を取って転がる。


「自爆……?」


「……いや。まだだ」


 出来上がったのはさながら氷の城。数秒と持たない脆さだが、その間はリベラを守り続ける。彼は氷の魔力を有するが故に冷気で死に至ることはない。自身を苛んだ氷が、皮肉にも身を守る盾として機能した。


 氷の城が崩れる。魔力の粒子がきらきらと輝く中、現れるのは樹木の群れ。アテナ、ルナリア、そしてミツキへと意思を持ったかのように襲い掛かる。


「少年!!」

「問題ないです!! 二人は自分のことを!!」


 動けずともミツキには炎魔法がある。木々を軽く燃やし尽くして自分の身を守りきった。


 この状況で危険なのはルナリア。打撃の衝撃を吸収しうる木の魔法は、彼女にとって相性が悪いように思える。


「貸しにしておくぞ?」


「っ!? 余計なお世話、ですわね!」


 ルナリアの正面を竜鱗が二つ遮る。向かいくる樹木を食い止めることに成功したかに見えたが、それらは地面を通りルナリアの体を執拗に狙い続ける。


 もっとも、それすら彼女には通じない。彼女は右手に魔力を集中させると、一撃。掻くような動作で木々を根こそぎ切り裂いて見せた。


「そんなことまでできるんすか!」

「はしたないのであまり使いたくありませんけれど」


 リベラを相手にしてもまだ隠し球を残して戦える強さに驚くほかない。ミツキは自分と戦っていた時とはまるで別人の彼女に憧憬を抱く。その強さは本来、人間を脅かすものだったというのに。


「絶雷・」


 轟いたのは雷鳴。その出所はミツキではなくリベラ。彼が放つのはミツキの魔法。


「斬!!」


 それをアレンジした、雷の斬撃。地面を這うようにその斬撃は走る。速度はミツキのものと全く変わらない。リベラは熟知したそれを選び、想像の強度を補った。


 狙うはルナリア。この場における主要火力。彼女の四肢を一つでも奪えれば十分に勝ちの芽が出てくる。


「もう一つ、貸し……」


「結構。準備を」


 アテナの助力を跳ね除け、ルナリアは体を沈めて構える。迸る魔力は右足の先に。黒々とした光を帯びる。


(ルナティック)


 目の前。避けることなく迎え撃つ。余波すら受けたくない。その技が彼のものであれば、それに自分を、仲間を、傷つけさせるわけにはいかない。


(ヘイル)


 蹴り上げた脚。それが描く弧線は黒の三日月。魔力の塊は、もはや斬撃と称されるほどの鋭さで大気を抉る。


 それは「絶雷・斬」と衝突したが、一才拮抗することなく消しとばす。そのまま雷撃の主人へと一直線に突き進む。


「怪物めぇっ!!」


 三度、氷の斬撃。その全てが砕け散る。氷の礫が光を放つが、何一つ黒には敵わず飲まれて消える。


 再度、氷の城。密集した氷の塊であっても、深く深くと爪が突き立てられる。削り、砕き、中心に立つ彼に届く。


 寸前。いや、軽くリベラの胴を掠めたところで、狂気の声は氷に阻まれてついに消えた。


 リベラは凌ぎきった。もう一度形勢を整えて、自分の全てを出し切る。出し惜しみはもうしない。全力で──




「出力拡張。雷光」


 氷の城、それに向かい雷が走る。今度こそ、ミツキが放つ。いつの間にか立ち上がっていた彼が。不屈の意志を乗せて解き放つ。


 されどもリベラは意にも介さない。ただの雷撃。強化は施されても、氷の壁で減衰する。氷が消滅するまでまだ数秒。動けないが、相手も手は出せない。やけになった攻撃など決して通さない。


「何か」

「忘れてませんかしら?」


 雷撃が、方向を変える。何かに弾かれたように斜め上に。勢いすら増して。


 方向変化には魔力球の準備がいるはず。痕跡はない。なのに、何故。


「私が、お前の殺した竜と同じとでも?」


 (ドラゴン)がいる。そこには、あらゆる智を凌駕する彼女がいる。リベラの思考すら彼女にとっては幼子のそれと同じもの。全て読み切って、とどめを指す形は整った。


 雷光を弾いたのは彼女の竜鱗。それは一つではなく、無数に。リベラの上空へと球を描くように集っている。


 弾かれた雷撃はその球に吸い込まれるように進む。内部で、雷が弾ける音がする。雷の成長する匂いがする。


 無数の鱗に背を押され、雷撃はいつしか、竜の轟と変わらぬほどに。それが。


「──!!」


 落ちる。リベラの体へと。落ちる。(そら)から氷すら貫いて。



 僅か数秒の永遠。雷鳴は空間を埋め尽くす。雷光は陽光を消し去った。

 

 氷が砕けたときその場にあったのは、真っ黒になって倒れ伏した男の体だった。



「ふー。お疲れ様でした。では、何があったかお聞かせいただいても?」


「えっと、クーデターで。あの人が主犯っす……そうだ! フィル助けに行かないと……っ!?」


 走り出そうとしたミツキの体が傾く。備えていたルナリアがそれを優しく受け止めると、ため息をつきながら語る。


「まだお休みになった方が宜しくてよ、ミツキさん。後のことは私たちにお任せください」


「ああ。最大の危険も取り除いた。あとは何とでも」





「ふ、ふふ。はは。ははは」


 ──体が軽い。久しぶりの感覚に笑みが溢れて止まらない。


「はははははははははははははは!!」


 ──頭が軽い。体の中に溜まっていた苦痛が、綺麗さっぱり消え去ったような。



「──」


「──よっぽど、化け物ですわよ、あなた」


 三人とも、言葉を失った。加減はしたと言っても、数時間は意識を失うはずの雷撃。それを食らって、まだ立ち上がれるのか。



「だが虫の息だ。次こそ仕留める」


 アテナが先に走る。理由は防御力。薄い鎧も砕け散り、もはや死に体のリベラを仕留めるのに、ルナリアほどの力は必要ない。


「──」


 何か、つぶやいた気がした。リベラは自身の右胸に手を当てると、色の灯っていない「極虹(きょっこう)」を手に構える。


 警戒は解かないまま、アテナはリベラに接敵。目の前に複数の竜鱗を構えて、万全の状態でリベラに右の拳を見舞う。


 剣には何の光も灯っていない。宝石には、一つとして光は残っていない。




 それが、あり得ない。



「──!! アテナさん!!」

「!?」


 声の限り叫ぶ。昂った感情は、声を上ずらせ、放った息と比べて小さな声しか残らなかった。ギリギリ届くか届かないか。アテナでなければ、聞き逃していたかもしれない声。


 ほんの一瞬だけ、アテナの足が止まる。彼の声に手綱を引かれ、無意識に。


 リベラの刃が鱗に触れる。全ての衝撃を弾き防ぐ、今生における最強の盾。「アテナ」の名を冠した彼女にふさわしい、無敵にも思える絶対の壁。



「──」



 それが、断たれた。


 たった一太刀。満身創痍の男が放つ一太刀で、無敵の称号は矛盾する。


 そして斬り裂く。剣に触れないよう引いた拳を。反撃に備えて鱗を残した右腕を。真横に斬り裂く。まるで、障子を破くように、他愛なく。



「──っっ!? 馬鹿な! あり得ん!!」


 味わった痛みに狼狽するアテナ。痛みそのものにではなく、痛みが走った事実に気が触れる。誰よりもその能力に自負のある彼女は、眼前の光景を矛盾と切り捨てる以外できない。確かに、()()()()()()()()()()()()()()


「──『剣神』……まさか本当に神に至ったとでも……!」


 ルナリアは思案する。彼女もまた長い時を経て得た知識がある。あるが故に、明後日の方向に思考を巡らせる。彼女は誰よりも、()()()()()()()()()()()()()()


「──ああ。不思議だ。全身痛みが走っているのに、とても気持ちがいい」


 リベラは一人、恍惚とした表情で剣を撫でる。生まれて初めてとも言える魔力の枯渇に、思考が澄み渡り重度の興奮状態となった。狂いそうな痛みを、興奮(アドレナリン)が全てかき消していく。


「──嘘つき」


 真実に辿り着いたのは、ミツキ一人だった。彼だからこそ届く答え。何故ならそれは。



「あるんじゃねえか、戦う理由──!」


 彼以外再現し得なかった、失われた秘術だから。





 焼け焦げたリベラの服。その胸元が顕になる。


 現れたのは()。淡くゆらめく炎のようなキセキ。


 彼が失くした、もう一つ。





「──万色(インク)融合(ルージョン)


 告げる。リベラは小さくその名を告げる。


 混ざる。再度灯った魔力の色は、混ざり合って透明になる。


 帯びる。剣はその刀身に光を纏い、見えない刃を周りに広げて。



 彼が放つは無色透明。魔獣を、魔力を消し去る「空色」の魔力。英雄()()以外なし得なかった唯一無二。


 ミツキがたった一度手にした全能の鍵。リベラは今、それを振るう。

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