残響 『404』
彼は、たった一人で生きていた。
この世界で求められる才能は何もなく。それを憐れんだ父が殺そうとした。それを哀しんだ母が遠くに捨て去った。中途半端な善意が、彼の命を救い、中途半端な善意のせいで、彼は苦しみ生きていくことが決まった。
彼を拾い上げたのは騎士。何の変哲もない一人の騎士が、騎士団で育てることを決めた。
彼はこうして居場所を得た。だが、同時に恐怖する。再び一人になることを。またしても、失敗だと捨てられることを。
だから励んだ。見よう見まねで。才能もないのに。ただひたすらに剣を振るい、己を鍛え上げた。
夢があった訳ではない。楽しいとも思わない。あるのは苦痛。恐怖。焦燥。
これさえも出来なければまた。これだけでも出来なければやはり。彼には、剣を振る以外選択肢がなかった。
だから鍛えた。朝から晩まで。夜から朝まで。どうせ眠ることもできない身だからと、気絶するまで身を削り幼い日々を生きてきた。
三つの時に師が着いた。七つの時に王が認めた。十の時には隊長となった。
暫くして、「神童」が現れる。彼の師の血を引くまさに天才。自分より若くとも、勝ち星を奪っていく彼。空っぽの中身で、やっと手に入れた場所を奪っていく彼。
負ければ、また一人に戻る。もう一人で生きられるのに、彼は恐怖から抜け出せれない。
強く、強くと願いながら、自分はいつまでも弱いまま。苦しみ続けた心は、すでに限界を迎えていた。
そんな時だった。
「兄弟だと思って仲良くするといい」
出会いがあった。
「よろしくお願いします。殿下」
暗闇にいた彼を、同じように暗闇にいた少年が。
「……何が、怖いの?」
見出す。見つけ出す。
「ボク、みんなに嫌われてるから。ちょっとだけ、キミのこと分かるよ」
剣しか認められなかったと思う彼。隠してきた心根を掘り当てる。
「ボクは、キミを嫌ったりしないよ。だからキミも、隣に居てね」
彼という存在。消そうとしてきた彼という個に目を向ける。
「これから、よろしくね。リベラ」
「リベラ」という、人間を。彼は初めて見てもらえたような気がした。
だからリベラは慕い続ける。フィルの優しさに人生を救われたから。
フィルのためなら国を捨てられる。平民を見捨てられる。剣だって、捨ててみせるだろう。
愛情。敬服。尊敬。慕情。親愛。友愛。敬愛。
彼は決して、フィルを裏切ることはない。
◇
Not Found
◇
世界が憎い。仕組みが憎い。世相が憎い。有様が憎らしい。
形が気持ち悪い。機構が気持ち悪い。風潮が気持ち悪い。信仰が、気持ち悪くて仕方ない。
恨めしい。羨ましい。妬ましい。
変えたい。消し去りたい。無くしたい。正したい。
報われたい。救われたい。救いたい。与えたい。
今の世界が、あり得ないほどに、醜い。
こうして天秤は傾いた。
これは残響。彼が無くした思いのカケラ。世界に残った認識の残滓。




