二章 幕間 『神童は夢を見ない』
少年は、剣の才に恵まれていた。
傑作だと持て囃された。神童だと持ち上げられた。神域だと囃し立てられた。
彼はそれを鼻にかけることもなく。かといって、謙遜することもなく。
ごく当然の事実だと受け止めた。至極当たり前なのだと言い聞かせた。
なぜなら環境が違う。人生が違う。運命が異なる。
生まれながらにしてそうあることが決定づけられた。だとしたら、自慢も慢心も。謙虚も忌憚も。彼にとっては空虚な言葉。
ひたすらに剣を振るった。生まれながらに剣を握った。最初に認識したものは、間違いなく剣であった。
だが彼には欠けていたものがある。
──夢。希望。望みの類。
ひたすらに剣を振るうのは何のためか。身体に鞭打つのは誰のためか。彼にはてんで分からなかった。
人々を守るため? ──違う。それすら考えないうちから剣を振るった。
勝利するため? ──違う。競う相手など、始まりの場所には居なかった。
自らの誇りのため? ──違う。誇りなど、身に宿る前から歩んでいた。
そうだ。彼には何も無かった。隠れていたのではなく。無くしてしまったのでもなく。真実、空虚なまま剣を振るってきた。
空っぽ。抜け殻。がらんどう。剣を振るだけの人形のようなもの。
それで勝ててしまった。それで叶ってしまった。それで、認められてしまった。
なぜなら才能があったから。少年は、剣の才に恵まれていた。
だが、出会いは人を変えるもの。
彼は出会う。
環境が違う。人生が違う。運命が、全く異なる。
見下しなどしなかった。憐れみなどできなかった。同情など、もってのほかだった。
そんな彼が放つ輝きに、彼はいつしか夢を見た。ないはずの夢。得る運命になかった夢。
──もしも、許されるのならば。
使命からは遠い。役割からは逸れている。きっと、求められるものとも異なる。それでも。
──それでも、叶えたいから夢なのだ。
こうして彼は、人間になった。




