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二章 十七話 『struggle days  -ディエスの場合②-』

 五日目。ディエス視点。


「ディエスさん。一戦」


「いいぜ。ちょうど試したいもんもあったしな」


 訓練所の広場でヴェントがディエスに模擬戦の誘い。ルールは前日と違って一本でも相手に入れた方の勝ち、というもの。ディエスの戦闘法からすれば不利に思えるが、提案したのはディエス本人。一つ、考えがあってのこと。


「じゃあ。行くよ」


「いつでも来い。前みてえにはいかねえぞ?」


 得物はお互いに大剣。ヴェントは膂力自体それほど高いわけではないが、「不可抗力(アンチレジスト)」の効果で重さを無視できる。それならばと威力の高い武器を選択したのが始まり。


 対するディエスの最適は斧。それを使わずに大剣を選んだのは決して慢心ではない。同じ武器だからこそ浮き彫りになる違い。そこを確認したい。



 先に動くのはやはりヴェント。先ほどまであった間合いは一歩で消失する。武器のリーチも相まってすでに射程圏内。大きくではなく、小さく、鋭く。あたかも軽い武器のように自在な軌道を描く。一割はその奇跡(ギフト)の賜物。残りの九割は、弛まぬ努力の結晶。


 天才と呼ばれる彼女を作り上げるのは狂気にも似た訓練の日々。疲れすら無視して身を削る。壊れることすら厭わずに刃を振るう。彼女を知るものは必ずその目を離さない。いつかその命すらも、邪魔と切って捨てかねないから。


 その点においてはミツキと近い。だが本質的に異なる。劣等感が原動力にあったミツキに対し、ヴェントの燃料は怒り。漠然としたミツキ。その一方で確固たる目的を据える彼女は、頂を見留めるが故に歩む速度を上げ続ける。ミツキをブレーキの壊れた車と称すならば、ヴェントは暴走する機関車。ブレーキがないのではなく、踏むつもりがないのだ。


「危ねえ、なあ!」


「!?」


 その剣に対してディエスが選択した対処、それにヴェントは目を見開く。受けることを前提とした攻撃。以降の追撃、その想定が崩れる。受けるのではなく、躱されたから。それはまるで昨日の自分のように。


 間髪も入れずに次の予想外。だん、と強く地面を踏み締める音。ディエスが右足を踏み鳴らしたと気づくのに多少の時間がかかる。軽く土煙が舞い、思わず目を細めるヴェント。


 その隙を逃さないディエスは、振るのではなく突き立てるように大剣を動かす。反応の遅れたヴェントは受け流すので精一杯。剣と剣がぶつかり合い、お互いに得物を振ることの能わない瞬間が生じる。現状はディエスが有利。しかし流された大剣、それに釣られるように身体もまた流れる。スイングの鋭いヴェントであれば、その隙に一撃打ち込むのも容易。ディエスの敗北は決定的だった。


「ここぉ!!」


 しかし、その一撃が届くことはない。ディエスは大剣の柄の部分、そこに掌を添えると。


 回転する。何かに弾かれたように大剣が地面と水平に、素早く。


「っくぅ!」


 攻撃体勢に入っていたヴェントよりも早く、その刃は体へと到達。ディエスが一本を掠め取る。



「っし。これなら実戦でもいけそうだ」


「ずるい。衝撃。溜めてたんだ。反則。卑怯。見損なった」


 最後の一撃はディエスの「起死回生(アブソープション)」によるもの。溜め込んだ衝撃を掌から放出し、僅かな動作で大剣を動かした。だが、疑問が生じる。一体いつ、ディエスは衝撃を吸収していたのか。ヴェントはそれが試合前だと判断して糾弾する。一撃受ければ負けのルール。それすらもトリックから目を欺く誘導。真剣勝負と思っていた彼女は落胆していた。


「ちげえよ、あの撃ち合いの中で溜めたっての。昨日、お前の奇跡に対する考え方聞いて、少し工夫してみた」



『正確には僕の邪魔するものの無視。考え方次第。僕は疲れも無視できる』



「戦闘の中……? あ」


 ヴェントが気づいたのは、不可解だった一手。震脚。土煙で惑わすだけならば蹴り上げの方が理に叶う。わざわざ足に負担をかけて大きな音を鳴らしたのは。


「足を通して、衝撃を溜めるため」


「そうだ。俺はずっと、他のやつから攻撃されねえと、って思ってた。でもちげえよな。痛みも苦しみも、自分が主体になることだってあらぁな」


 ヴェントが自身の中に溜まった疲労を邪魔するものと捉えたように、ディエスも外でなく内へと目を向けた。結果、新たな活用法をひらめくに至る。


 地面に向けた踏み込み。それに対して発生する抵抗力。それを利用して活用した。


「……じゃあ僕のおかげ。僕の勝ち。みたいなもの」


「おー、面白え。じゃあもっかいやってやろうじゃねえか」



    ◇



「あー、クソ! 結局三本しか取れなかった!」


 その後、同じルールで二十本、模擬戦を行ったところ、ディエスは大敗を喫することになる。当然といえば当然だが、最初の一本はヴェントがディエスの新技を知らなかったからこそできた勝ち方。勝負前にも、あえて一本先取のルールを提唱することで奇跡の使用はないと思わせる周到ぶり。そこまでしての一本。


「でも三本、とられた。強いね……昨日は、ごめんなさい。自警団も、弱くはない」


「あー? いや、俺も売り言葉に買い言葉だった。悪かったよ、大人気なかった」


 前日に有耶無耶になっていた喧嘩の話。良くも悪くも真っ直ぐなヴェント。認めることができれば、自分の非を認めるのも早い。


「いい光景だ。オレのいない間に随分と仲良くなっているな、ヴェント。お前は口が下手だから、どうなるか心配だったが」


「総隊長! 久しぶり。また僕と勝負して」


「お前、散々俺と打ち合ってまだ元気あんのかよ……凹むわ」


 ヴェントの表情が明るくなる。リベラの存在は若き隊員の憧れ。彼と一戦交えるチャンスを皆が欲している。分かってはいるのだが、自分との戦闘がまるでなかったかのように流されるのは多少堪える。


「だが、悪い。先客がいてね。少し、場所を借りたい。皆はラグナ殿について外で警備と訓練をして来て欲しい」


「やだ。僕も見てる」


 リベラは忙しなく各地を飛び回る身。どうしても逃したくないチャンス。テコでも動かないと言った様子のヴェントに。


「仕方ない、お前だけ、特別にだ。悪いが、君もそれで構わないか」


 諦めて後ろの人影に尋ねる。見物人がいては力が出せない、という人種もいる。それを案じてのことだが、その少年にはそんな心配微塵もない。


「ミツキ」


「うす! 終わったら感想とかよろしくっす、えーと、ヴェントさん!」


 彼の思い切った挑戦に、恐れってものがないのかと、思わずディエスは苦笑い。何かおもしろいものが見れそうだったが、ここで見てしまうのはもったいない気がして、リベラの言う通りラグナについて国外へと向かった。



    ◇



「ラグナの旦那。ちょっとその弓引かせてもらっても構わねえか?」


 訓練中、ラグナの弓の威力を目の当たりにしていたディエス。思いついたように話しかける。


「構わないが、これはかなり強く張っている。無理はしないように気を付けてくれ」


「どれどれ、っと……あー、確かにこりゃあ、ちょっと無理だな。でも……なるほど、こんくらいなら」


 ラグナの弓を弄りながら独り言を繰り返す。細部にまで手を伸ばして何かを確かめるような姿。


「どういう風の吹き回しかな、ディエス。君は弓になど興味がないように見えたが」


 今日この時に至るまでディエスはラグナに教えを請うようなことはなかった。ディエスとしてもそのつもりはなかった。今の自分の技術で十分。それほど弓を多用するわけではない。団員に教えられる程度の知識を見て学べば問題ないだろう、と。しかし、考え方が変わった。


「面白えやつが、面白えこと考えてる。それ見て考えさせられたんだよ。俺にはまだまだ出来ることがあるんじゃねえか、ってな」


 ヴェントと出会い、この歳になって自分の殻を破ることができた。ミツキを見て、恐れずに向かっていくことの重要さも知れた。そもディエス程度の年で限界を決めつけていたこと自体が間違いだったのだが。小器用な彼は見切りをつけるのも早かったのだろう。色々なことに手を出しては、限界に気づいてやめていた。そこから、踏み出すのが今なのだ。


「ふっ。そうだな。君も、俺に言わせればまだまだ若い。しっかり学んで行くがいい。これはそのための機会なのだから」


 若い彼らに当てられて、心が若返っていくものが、二人。青空の下で弓矢の談義を交わしていた。


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