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二章 十四話 『struggle days  -ディエスの場合①-』

「どらあ!!」


 大剣を振るい地面に叩きつけるディエス。模造のものといえど彼にかかれば必殺。大地に小さく穴が穿たれる。


「大振り。無駄。大剣であっても丁寧に」


 正面にいたはずの少女。赤毛の長髪。カイと同じくらいに小柄な彼女。一瞬前までその間合いに捉えられていた彼女はその軌跡の一寸横に。見切って躱す最小限。


「っちぃ! だが」


 少女が持つはディエスと同じ模造の大剣。それを小さく振りかぶり最小限で振り抜く。ディエスのガラ空きの体、その中心目掛けて吸い込まれるような剣筋。


 対するディエスは余裕の表情。なぜなら彼には起死回生(アブソープション)がある。人力の衝撃など余裕で耐えてみせると豪語する。これを受け、その衝撃を利用し突撃、吹き飛ばしてから相手の剣を落とすのがディエスの策。


「ぐ、ぅっ!?」


「!? これは!?」


 思惑とは裏腹に、身体に走ったのは衝撃。すなわち痛み。久しく遠ざかっていた苦痛に腹を抱えうずくまることしかできない。


 対して剣を振るった少女。その表情は困惑。遠くまで弾き飛ばさんと力を込めたはずなのに、正面になお居続ける姿。それに理解が及ばない。


「言っても聞かないなら、痛みで知ってもらうしかないですよね、ディエスさん?」


「くっ、そ……アルバート、てめえ、何しやがった……?」


 離れた地点で隊員を指導しながら様子を窺っていたアルバート。それが呆れた様子で近づいてくる。


「アルバートさん。この男は」


「ヴェント。君も学んだかい? 相手を侮るな。目に見える物が全てではない。君は少し視覚に頼りすぎだよ」


 先の戦闘訓練。誰が見ても勝ったのは、今しがたヴェントと呼ばれた少女だと判断するだろう。しかし、当の本人はそう思っていない。


「……あんた。名前は?」


 ディエスに向かい手を差し伸べながら訊ねるヴェント。


「さっきアルバートが呼んでたろうが、クソガキ……ディエス。忘れんなよ、ヴェント」


 それをとって立ち上がるディエス。


 この二人の因縁は、三十分前の話。



    ◇



 四日目。ディエス視点。


「今日は国外の見回りですね。遠方まで向かう場合は車。今日のところは近場のみなので徒歩です。これも経費削減のため。世知辛いですよね」


 そう言って笑うアルバート。本日の彼の担当は隊員とディエスを引き連れて国の外で警備、兼、訓練。そこに。


「おーっす、団長! なんか久しぶりみたいだな!」


「おう、きたかお前ら。失礼がねえようにしろや。どいつもこいつも学がねえんだからよ」


 魔性の国(ファタール)、自警団の面々が魔獣に乗ってやってきた。


「せっかくの国外訓練の機会ですので、皆さんにも合流していただきました。魔獣を警戒しつつ、連携訓練を主に行っていきたいと思います」


 こうして訓練が始まったが。



「うん、悪くはありません。ただ」


「遅い。鈍い。反応が悪い。死なせたいのか。死にたいのか」


「──なんだ、てめえ」


「ヴェント、やめなさい。これは方針の違いだ。そこを擦り合わせるための訓練で」


 自警団の団員は思いの外騎士団の戦い方についていけている。問題があるとすれば。


「様子見。それが過多。多少は戦える。ならば前に出るべき。臆病」


「おい、一言多いんじゃねえか、クソガキ」


 守ること、死なないことをあまりにも重視しているが故の、積極性の欠如。それもこれも、ディエスが陣頭に立っていることが原因。


 奇跡(ギフト)の効果で受けに回っても問題ない彼はそのスタンスでしか他人を指導できない。結果として統一した方針にはなっているが、今回問題として露見した。もっともアルバートの言う通り、方針が食い違っているだけで明らかに間違っていると言うことはないのだが。


 ヴェントは齢十九にして三番隊隊長にまで上り詰めた天才。原動力は魔獣に対する敵意。目の前で妹を食い殺された彼女は、有り余る怒りを隠せない。攻め気のないことに加えて魔獣に乗って平然としていた彼らに八つ当たりじみた言葉をぶつける。


 それを黙ってみていられないのがディエス。単に戦闘で遅れをとっている事実を叱咤されただけなら黙っていただろう。しかしディエスは目ざとい。ヴェントが必要以上に怒っていることを見抜けてしまう。そのせいで起こる激突。


「二人とも、隊員がみている手前喧嘩は──いや、なるほど」


 それをみていたアルバートが仲裁に入ろうとして、止まる。


「そんなに喧嘩したいのなら、実力で示してください、二人とも」


 隊員に持たせていた荷物の中から模造の大剣を二振。投げて二人に渡す。


「勝利条件はどちらかの戦闘続行不能。気の済むまでどうぞ」


「アルバート隊長、それはいくらなんでも」


 隊員は口々に不安を声に出し始めるが、一動作、手を横に伸ばすだけでぴたりと静止する。


 アルバートには狙いがあった。二人がぶつかることで、二人ともが成長できるような、そんな化学反応。


 師匠であるリベラのように、できるはずだと。



    ◇



「なるほどな、やっぱり奇跡の効果か。俺に打撃が通るなんておかしいと思ったぜ」


「僕も。僕の攻撃。本来なら受けれないから」


 お互いの奇跡ゆえに、それぞれの種がありありと分かる。隠していても仕方ないと、暴露。


「『起死回生』。確かにあれなら」


「『不可抗力(アンチレジスト)』ってやつか。自分に向く抵抗力、それを無視できる、だろ? それで奇跡同士が対消滅しやがったわけだ」


「正確には僕の邪魔するものの無視。考え方次第。僕は疲れも無視できる。あんまり使うと怒られるけど」


「なんだそりゃ! むちゃくちゃじゃ……ねえ、のか……?」


 疲れすら自身に向けられた抵抗と解し、どんな状態でも万全に動けるようにできるのがヴェント。彼女の良くも悪くもまっすぐな性格ゆえに可能となる拡大解釈。もっとも身体に残る疲労は消えない。あくまで感じないだけ。そのため過剰に機能させると死に至る危険が残る。


「でも今日分かった。目に見えないもの。僕は無視できるけど。考えないといけないこともある。人は人。そう言うこと? アルバートさん」


「ん? どうだろうね? 私には君の考え方は難しい。でも、間違っていないと信じているよ。ディエスさんはいかがです?」


「──ああ、分かった。奇跡にかまけて雑になってた。『悪癖』、な。攻めねえとダメな時もある。当然だ」


 アルバートの狙いは対となる奇跡の保有する者同士、戦闘させることでそれが機能しない状態を体験させ、実感としてそれを理解させること。二人の反応を見る限り、うまくいったようだ。



    ◇



「以上で本日の訓練は終了です。お疲れ様でした。自警団のみなさんはどうされます?」


 午前中で訓練所へと戻っていったアルバートに代わり、一番隊の隊員が音頭をとる。


「直帰するよ。団長のことよろしくたのんますわ」


 そう言って飛竜に乗り帰ろうとする自警団の面々。そこに。


「待ってー! あたしも! ちょっと乗せて!」


「なんだぁ! ゲルダ、お前自分の仕事は」


 五番街から特急で駆けつけたゲルダが。


「はあ、はあ。うん。ちょっと切り上げてきちゃった。どうしてもな用事があるの!」


「ゲルダちゃん、今から魔性の国に帰るとなるともう夜だぜ? 危ねえよ? ミツキとカイに怒られちまうぜ?」


「だいじょぶ、すぐ済むから! お願い!」


 必死に懇願する姿。たった一人で彼女が動く。それが意味することのわからない人間はいない。


「わあったよ、あいつらには俺から伝えとく。気の済むまでやってこい」


「ありがと、団長さん! 行ってきます!」


「大変だね。ディエス、さん」


 自警団全員のために訓練を体験し、子供たちの引率も。時にはその尻拭いまで。流石のヴェントも同情を禁じ得ない。


「ああ。でもな、これが意外と」


 ──悪くねえ。


 一生懸命。わからない日々を生きることは、彼にとっては何より幸福なようだ。


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