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二章 二話 『信頼と罪と嘘』

「三国の連携……それ、大丈夫なんすか? 周辺五国のバランス崩すって文句言われるんじゃ」


 魔性の国(ファタール)に眠る貴重資源。それを巡り他国は緊張状態を維持している。現在のその緊張にヒビが入れば下手をすれば戦争の可能性も。


「すぐに戦争をふっかけてくる愚か者はいないでしょう。それにあくまで対魔獣の連携。魔性の国の内部に干渉するわけではありません。他の国も魔性の国に魔獣が侵攻して資源がつぶされるのは避けたいでしょうし、かといって自分たちが兵力を割くのも、面倒。反対があるとしても対内的な格好づけにすぎないと思われますわ」


 残るは感情。気に入らないからなどという理由で反対する可能性。


「感情的に反対する、なんてことも考えられるが、周辺五国はいずれも大国。そんな反応をする国ならば国力を増すこともなかっただろう。心配はいらない。問題があるとすれば」


「魔性の国側の意見ですか。僕たちはそれを決定できる立場にない。国民の総意が欲しいところですが……正直目に見えてますね」


 魔性の国も昨今の魔獣騒ぎでその力不足を痛感している。「外套の魔道士」がいなくなってからはさらに。国民は国を守る力を求め、力になることを望んでいる。だからこその自警団の人材補強。


「どうかしら、リベラさま。おおよそ私たち二国の兵力が中心になるでしょうから、我々だけでも早く方針を固めておきたいのですが」


「了解した。もとより我々には損のない話。魔性の国への兵力派遣は今も行っている。会議にかけずとも問題ありません。事後承認でも皆黙るでしょう」


 リベラもあくまで一国の軍隊の長。全面的な決定権などない。しかしリスクはあるが、損得を考えれば否定されることはないだろうと踏んで動く。


「では、申し訳ありませんがここからはシークレット、というやつですわ。ミツキさん、ゲルダさん、カイさん。ああ、それとアテナさんも。また後ほど」


「……ん? なんだ。話は終わったか?」


「アテナさん寝てたんすか……? 自由だなあ」


 国家間の話とみるやアテナは思考を停止。わからないからではなく介入しても意味がないから。人間の話は人間がすべき。そう考えた。断じて眠たかったわけではない。と思われる。


「あ、大事なこと忘れてた。カイ、ちょっと来て」


 部屋を後にしようとしていたミツキ。いったん踵を返し、カイを傍に呼んでルナリアに向き合う。


「ルナさん。俺らも、すみませんでした」


「……? いったい?」


 ミツキとカイが頭を下げる。ルナリアには心当たりはなかったが。


「勝手に城に忍び込んで物漁って。そんなことやっといてルナさんにだけ謝らせるのは違うから」


 取り返そうとしたのは元来ミツキのもの。それでも筋を通さず踏み入った。泥棒との誹りを受けても仕方ない。その上、そのせいで余計な戦力を使わせた。ミツキはそのことを気に病んでいたようで。


「……僕も、それは反省してます。考えなしだった。女王を敵と決めつけて。すみません。信じるべきだったのは僕の方だ」


「……確かに、犯罪行為は間違いないですわね。その上脱獄まで」


「うっ……言葉にされると胸が痛い……」


 やったことは消えない。理由があっても。ルナリアにそう言った手前お咎めなしは都合が良すぎる。ミツキは罰を覚悟する。


「……そうですわね……魔獣を食い止めたことを加味しても……ふふ」


 いたずらな笑みを浮かべるルナリア。どこか少女に戻ったような、それでも妖艶な雰囲気が残っているような。


「ええ。決めましたわ。ミツキさんとカイさんには獣の国の復興のお手伝いをお願いいたします」


「──え? それだけすか?」


 罰金、禁錮。そんな罰を予想していたが与えられたのはそんなこと。言われずともやろうとしていたこと。ミツキにとって、罰でも何でもない当たり前の話。だが。


「それと、ミツキさんには……」


「うえっ!?」


 名指し。カイと違ってミツキは脱獄もしている。当然と受け入れるミツキ。もっともそれはルナリアも手引きしていたわけだが。今の彼は気にする余裕もない。やきもきと落ち着かない気分。


「……また後で。楽しみは最後までとっておきましょう?」


 その状態が、残る滞在期間ずっと続く事が確定した。



    ◇



「ふう。ガレキ多いすね。もとが栄えていたから余計に大変かもだ」


 ミツキが向かったのはヘイデイ。陸路をいけば数日かかる場所も、ルナリアが飛竜を貸与したことでほんのわずかな時間での移動が可能になる。


 そこにあったのは以前訪れた時とはまるで異なる荒廃した街並み。ガレキが散乱し、煌びやかなネオンは見る影もなく。


 それでも挫けず復興に尽力する人々。そこに種族の隔たりはない。手を取り合う姿が視界に必ず映る。ギリギリの状況では人の本性が露わになるというが、つまりはそういうこと。人々の優しさは上辺のものではなかった。


「ありがとう。観光に来ていたのにわざわざ手伝ってくれて。これ、差し入れだよ」


「お! ありがとうございます! ちょうど疲れてたんすよ」


 差し入れに貰ったのは桃のジュース。この事件で痛んだそれらをまとめて絞った物。かといって味には変わりない。疲労した身体に甘味が染み渡る。


「にしても君、なかなか力持ちだね。見た目はそこまでなのに大柄の獣人たちと比べても遜色ない」


「あー、はい。よく言われます。これでも意外と鍛えてるんですよ」


 実際は異なる。ミツキも確かに鍛えてはいるが、筋肉量が増えづらい体質のようで因果集積(フェイタルチェイン)をもってしても体格があまり変わらない。


 それなのに力を発揮しているのは、魔力のおかげ。無限光。取り戻したそれの試運転も兼ねて肉体強化に全振りしている。バレたら碌なことにならないだろうと隠してはいるが。


「君も難儀だな。隠しながら生きるのは大変だろう? オレも少しは理解できる」


「うわっ! リベラさんいきなり来て怪しいこというのやめてくださいよ!」


 女王との会談を終え復興の手伝いに来たリベラ。今回の目的がそもそも無限の魔力の確認にあったことから彼に秘密を通すことは不可能だろうと、ミツキは真実を告げた。打算以上に、世話になった恩義が本心ではあるが。


「警戒しているなら周囲に気を配るんだな。見てごらん。みんな配給に向かってこの辺りには誰もいない。気を抜くというのにも気を使うことだよ、『外套の魔道士』どの?」


 そのままなし崩し的に「外套の魔道士」の正体も露見。あっという間にミツキの化けの皮が剥ぎ取られた。


「オレは誰かに言うつもりもないが、いつまでも隠して置けるようなことでもない。信頼できる者には早めに打ち明けるのをオススメする。隠し事は時間が経つほどに打ち明けるのが億劫になるからな」


「人生経験豊富な人に言われると滲みるっすね」


 確かに、今回のように誰かの協力を得ながら歩を進めるならば、少しずつ秘密にできない人間が増えていく。ミツキの性分は他人と関わりたがり。だからなおさら。早々に考えておかなければならない課題である。


「あ、あの……リベラさま……」


 誰もいなかったはずの空間に一人。猫の獣人と思しき若い女性が声をかける。


「ああ、あなたは。大丈夫ですか? 昨日の戦闘、怪我をなさっていたようですが」


「あ、覚えていてくださったんですね!」


 彼女はそう言って目を輝かせる。先日の戦闘。功労者であるリベラの名は知れているが、逆はそうではない。それでもリベラはそこにいた全員のことを記憶しているのだが、彼女からしてみれば接点のないはずの自分をわざわざ覚えてくれていたように見える。それが。


「あの! これ、昨日のお礼です! みんなに配っているものですみません……でも! お菓子焼いたんで食べてください!」


 リベラに慕情を抱く彼女であればなおさら輝いて見える事実。


「これは、ありがとう。大変な中でこんな貴重なものを……うん。美味しい。おかげでまた頑張れる」


「あ、は、はい! じゃあまた!!」


 足早にさっていく女性。すっかり部外者となっていたミツキでも分かるほどに顔を真っ赤にしていた。


「……俺もそういうスキル必要かなあ」


「なんだ、ミツキ。気になっている女の子でもいるのか? 相談に乗るぞ?」


「うわあ、あれ計算でやってるのこわあ」


 ミツキには似た人間に一人心当たりがある。それはカイ。人の懐に潜り込むのがうまい彼。


「あっちはあからさまに胡散臭いけどリベラさんは誠実そうなのが余計怖いや」


「君も大人になればわかる。これくらいできないと返って浮くぞ? でも、今はそれでいいだろう。自覚なしに繰り出される必殺の方が怖い。恋愛も、戦闘も」


 それでもこの文脈で戦闘の話が出るあたり根っからの騎士。ヘイデイには少し前に着いていたが先に行っていたのは戦闘指南。先の侵攻で危機感を覚えた住民に簡単な護身術を教えていた。


「さて、ミツキ。本題に移ろう。君を探していたのは他でもない。頼み事の話だ」


「はい。そうだろうと思ってました。断じて忘れていたわけではありません」


 忘れてはいなかったがこのタイミングとは思っていなかった。もっと緩い話をする空気だったが。


「君に。いや、君たちに頼みたいことは二つ。一つ。我が国内の簡単ないざこざ。それを解決する手助けになってほしい。それに割く兵力すら惜しい状況だ」


 一転、空気が締まる。この切り替えは騎士の長たる証拠。いかなる時も緊張状態に移行できる。


「おっけっす。カイとゲルダも来てくれるならそれくらいお安いごようっすね」


「ありがたい。そしてもう一つ……心苦しいことに、オレは未だ君に我が国の抱える問題を打ち明けられていない。さっきの話と重なるが国ぐるみで隠してきたことだ。オレの一存で打ち明けられないほどに大きくなった。君たちを信頼していないわけじゃないんだ。許してほしい」


 国家レベルの機密。それを外の人間。それも年が若く、素性も知れないミツキたちに告げろと言うのが無理な話。だからこそリベラは提案する。


「それでもオレは君たちに協力してほしいと思っている。君たち次第ではあるがな。しばらく三国での合同訓練をすることが決まった。そこで是非」


 ルナリアとの会談で決定した一部。連携の前提としての訓練。一朝一夕で連携などままならないことをミツキはよく知っている。それに参加するのはもちろんのこと。それに加えて。



「我々騎士団の信頼を獲得してほしい。これが二つ目の頼みだ」


 この世界随一の軍隊。それを信頼させるというミッションが加わった。

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