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一章 二十四話 『舞踏会』

「流石にボディーチェック厳格だったね。俺らはディアさんの護衛ってことだったけど、武器の持ち込みもできてないし」


 王都に着いてから二日目。王城、その入り口でミツキたちが話す。


「ちょっと厳しいですけど取り上げられただけ。魔法もありますし、いざとなったら取りに戻れば」


「監視厳しくない?」


 王城の監視は二種類。魔獣によるものと、人力によるもの。この国では珍しく人間の警備が置かれている。それもそのはず。この王城は最後の砦。念には念を。決して落とされぬように。


「まあ、一つ手があるので。僕だけしか隠せませんが」


 それでもカイにはその監視を掻い潜る策があるという。頼もしく思う反面、ミツキはカイを危険に晒しかねないことに怯えもある。


「それは一旦置いとくにしても、この雰囲気、なんだかヘイデイを思い出すよね」


 往生で開かれる舞踏会。その参加者が階下にひしめいている。そこに獣人と獣人ではない(プレーンの)人間との区別はない。全員が等しくめかしこんで、その空気を味わっている。


「やあ、若い君たち。一体どこの家の子かな? 初めて見る顔だが、家業は何を? 私は獣人の強固な体毛を生かした仕立てを起こしてね。先月からここに呼ばれるようになったのだが、ご存じだろうか?」


 おそらく狐であろう獣人の男性が二人に話しかけてくる。


「えー、と」


 一応口裏は合わせているが、ミツキは上手くやる自信がないのでカイをチラリと見て合図。丸投げの意思を示す。


「私たちはディアーナ殿に懇意にしていただいておりまして。将来を見据えて学業の合間にこのような社会経験を、とのことで特別に参加させていただいたのですが、恥ずかしながら昨今の情勢には疎く。貴殿のことも詳しくは存じ上げておりません。不躾をお許しください」


 すらすらと嘘を並べ立てるカイにミツキは若干引いていた。どこでこんなスキルを身につけたのか。カイははぐらかすばかりで答えてはくれない。


「なるほど、それは。しかしよく出来た子だ。名刺を渡しても構わないかな? キミの将来が楽しみなのだが、主人に悪く思われないだろうか」


「ふふ、フィリップ様。それはお手つきですわね。あまり、お行儀がよろしくないのではなくて?」


 横からディアーナが現れる。普段から高貴な雰囲気を纏う彼女であったが、ドレスに身を包んだ姿はそれをより一層引き立たせる。何も知らない者に彼女が一国の主人といえば信じるだろうと思うほど、美しく、妖艶であった。


「おや、これは失礼。怒られてしまったね。では、私はこれで。諸君もしっかり楽しんでいくといい。得難い経験になるだろう」


 フィリップと呼ばれた獣人が軽く一礼して去って行った。物腰の柔らかく人当たりが良い人物。仕事を起こしここまで上り詰めたという事実に説得力がある。


「ディアさん。お帰りなさい。やっぱりレディーの準備は大変すね」


 ディアーナが一旦ミツキたちから離れていたのは、自分の身だしなみを整えるため。それと。


「そうですわね。その分、準備を終えた後の楽しみがより大きくなるというもの。あなたたちも、そう思うでしょう?」


「いやー。俺はまだそういうの良くわかんなくて。カイは知ってそうだけど」


「そうですね。ミツキさんよりは。多分ディアーナさんが言いたいこともわかってます」


 ミツキはディアーナの姿に若干見惚れていた。前世では一切縁のなかった高貴な女性。しかも非常に見目麗しい。思春期の男の子には刺激の強い出会いで、頭からもう一つ忘れていることを消し去ってしまうほど。


「ふふ、ミツキさん。誰か、忘れているのではないかしら?」


 それでも。


「あ──」


 その隣にいた純白の少女は。


「え、と。どう……かな? 似合ってる……?」


 そんなこと関係なくなるほどに。


「うん、姉さん、きれ」


「──きれい、だ」


 ミツキにとっては輝いて見えた。



    ◇



「ミツキさん。まあ良い反応だったんですが、加減ってものも必要ですよ?」


 ミツキの一言を受けて、ゲルダはしばらく真っ赤になって動けなかった。


「いや、ほんと。違くて。俺も思わずというか。誠に申し訳ないというか」


 それはミツキも同様で。不意に出てしまった言葉だったので、言った本人にも関わらずしばらく顔を覆って座り込んでいた。


「そこで謝るのは減点ですわね。せっかく百点に近い反応だったのに」


 さっきまでは感心していたディアーナが肩を落とす。だが見たかった反応が見れて満足のようで、顔はにやにやと笑顔を作っている。


「うぅ……なんかはずかしくなってきた……帰りたいよぅ」


「ほら、姉さん照れてないで。そろそろ始まるよ?」



 ミツキたちがてんやわんやになっている最中、場内の雰囲気が変わり始める。少しずつ静かになり、少しずつ、その姿に気づくものが増えていく。


 大広間。その階上に姿を見せるのは、やはり彼女。ルナリア・ディード・アニマ。


 あの時とは異なる笑顔を蓄えて、階下の人間の熱い眼差しに手を振り応える。


「女王陛下!」「ルナリア女王陛下!」「相変わらずお美しい」「変わらぬ美貌の秘訣、私も知りたいわ」「監査を終えたばかりというのに、熱心な方だ」


 そしてあの時と違うのは女王自身だけではなく。


「なんだか、みんな女王のこと怖がってないんすね」


 怯え切っていたフェアウェルの住民と違う。讃え、礼賛する声。息もできなかったあの時とは明らかに違う光景に戸惑うミツキ。


「あの女王、こういったパーティーの類の時は露骨に機嫌が良いの。全く、大した女だと思いますわ」


「かわいいところあるんだね、女王さまも。無邪気なのかな?」


 女王の登場に沸く会場の空気で冷静になったゲルダ。


「ミツキさん。今なら注目が女王に向いています。動くなら今だと思うのですが」



 カイの奥の手を用いた諜報活動。それが今回の王城潜入任務の一の矢。


 女王が保管している奇跡(ギフト)無限光(アインソフアウル)。それがどこに保管されているのかを探り、あわよくば──


「うー。なんか盗人みたいで嫌なんだよなぁ」


「言ってる場合ですか。これはもうあなただけの問題ではないんですからね」


 ミツキが持っていた奇跡だから取り返したい。しかしそれだけではなく、女王がそれを持つことによるパワーバランスの崩壊。そしてそれより生じる侵攻の可能性。それを防ぐ。今回の旅の目的。それを達成する手段が、機会が、そこにある。


「でも、俺はやっぱりこの国の女王さまが」


 侵攻などするとは思えない。ミツキが旅を経て得た結論。だからこそ、せめて対話でそれを持つに足る人物であるのか知りたい。もしそれにそぐわなかった場合に、やむをえず盗むのなら受け入れるが、そうでないなら。


「……分かりました。時機も逃しましたし、ここは抑えましょう。でも、覚悟は決めておいてくださいね」


 女王が一度後ろに下がる。それをきっかけに人々は再び歓談を始め、警備の目が階下に集中する。


「……姉さん」


 誰にも聞こえないように、カイがゲルダに声をかける。


「うん。了解。作戦通りに、だね。任せて」


 ミツキがカイの提案を断る。それはカイも、ゲルダも想定していた事態。


 だからこそ放つ秘密の二の矢。この二人だけが知る不可知の策。


 

 無限光奪還作戦、開始。

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