一章 二十三話 『王都へ向かう』
「結局、特に目ぼしい手がかりは無かったな。ごめん、二人とも。変に期待させちゃった」
ナレッジの図書館での情報収集。結論から言えば、ゲルダとカイの故郷、それについての情報は得られなかった。
ただし収穫無しとも言えず。
「ううん。大丈夫。それに、ここ『金太郎』とか『浦島太郎』とかもあったね。でも、リベラさんもアテナちゃんも知らないって」
彼女の有する知識。それが非常に。
「俺の前世に近いな。もしかしたら、ゲルダたちのお母さんも『前世返り』か?」
だが全く確証はない。一応忘れないように口に出して音にして、脳に様々に焼き付ける。
「少しでもお役に立てたならこれ以上嬉しいことはありませんが……如何でしたか?」
「はい、全く何もなかった状態から比べたら格段に。僕からもお礼を。ありがとうございます、ディアーナさん」
珍しくカイがディアーナに礼を言う。警戒はまだしているようだが、それでも長旅を共にした仲。情が芽生えるのも当然のこと。
「良かったですわ。では、いよいよ明日から王都に向かいます。みなさまにはもう鍵が備わっていますので、結界も抜けられる。あとは舞踏会に参加して女王に会うだけですわね」
長かったようで短い旅が終わりに向かう。全員が少し緊張しているように見えた。
◇
翌日。王都への移動は一日かけて行うことになる。そのため早朝に支度し歩を進める。
「今回はぜったい! アテナさんは運転しないこと! 絶対ですからね!」
カイの必死の懇願によって自動車のハンドルはリベラに返還されることになった。アテナは残念そうにしていたが日程のズレが起きては困るということで全員に説得されて渋々後部座席に座っている。
「特に何もなければ、今日の夜に王都に着いて、明日一日休息に当てられると思いますわ」
道中でディアーナが言うには、王都周辺は警備も特殊で、この国で唯一人間の兵士が巡回を行なっている。そのため他の地方ではあり得たはぐれ魔獣の攻撃も格段に少ないらしい。
「良かったー。この旅、たのしかったけどやっぱりちょっと疲れたもんね。決戦の前に、エイキをやしなわないと!」
「決戦て。まだどうなるか分からないよ、ゲルダ。出来れば戦いにならない方がいいし」
ミツキはまだ決めあぐねている。女王は悪辣か、それとも善良か。
旅の途中でさまざまなものを見た。初代の作り上げた平等、それを実現するための施作。そして、それを変わらず維持し続けるのは、女王。
「……ミツキさんは、やはり戦いはしたくないというのが本心ですのね」
「……はい。仕方ないなら仕方ないけど。もし可能性があるなら、避けたいです」
「では、もし」
ディアーナが問うは、ミツキが見ないふりをしたこと。
「無限の魔力を見逃せば戦わないと言われれば、どうなさいます?」
「──ディアさん、そのこと……」
突然の話。ミツキたちも気をつかって漏れないようにしていた話題。それに触れてくるディアーナ。何故知っているのか。
「驚きました? 私も風の噂で聞いただけでしたが、その様子だと真実のようですわね」
「……俺、は」
疑問がないわけではない。しかしそれよりも突きつけられた問いに思考が囚われる。
ミツキがここまで努力してきたのは、彼の奇跡を取り戻すため。もし、それから手を引けと言われれば。
恐らく難しい。自らの根幹を成すものを諦めるなんて、きっとどんな聖人でも迷う。
「……少しイジワルでしたわね。でも、忘れないでいただきたいのです。争うことが避けられないこともある。そんな事態が、この世界でもあり得るということを」
ディアーナにミツキたちが情を抱き始めているのと同様に、ディアーナもミツキたちを思い始めている。
最初は利用するための関係だったのに。
だからあえて、不必要なはずの問いをミツキに投げかける。いつか直面する現実。それが迫った時に狼狽えずに済むように。
「ありがとう、ディアさん。俺一人じゃ考えなかったことかもだ」
迷い、考えさせるための問い。それなのに、何故だかディアーナには、そう答えるミツキの顔が、とてもすっきりしたものに見えた。
「お待たせー。あれ? リベラさんは?」
自動車組に遅れてミツキたち魔獣車組が到着したが、そこにリベラの姿はない。それだけではなく、彼が運転していたはずの自動車も無くなっている。
「騎士なら忘れ物があるとか言って戻っていったぞ」
「忘れ物? 明後日までには戻れるのかなあ?」
「多分間に合わせるつもりもないのでしょうね。初めから舞踏会には出席しない予定でしたし。恐らくあの人がやろうとしていることに必要なものなのでしょう。それと、ミツキさんに伝言が」
監視をすると言っておきながらそれが果たされないことを気に病んだのだろうか。リベラが残した言葉は。
「『くれぐれも無茶はしないこと。ただ、自分の心には従うといい』、だそうです。正直、伝えるか迷いましたが」
「……自分の心、ですか。さすがリベラさまですわね」
「あの人には世話になりっぱなしだったな。ひと段落ついたら改めてお礼言わなきゃだ」
観光や運転、数は少なかったが戦闘の指揮も。リベラという年長者がいなければ瓦解していたかもしれない。感謝してもしきれないと思うほどにその存在は彼らの柱となっていた。
「それと、少年。明後日は私も残る」
「え? どうしたんすか? せっかくドレスも買ったんでしょ?」
リベラに続きアテナの離脱表明。それに驚くミツキだが、心の中ではその理由に思い当たるものがあった。
女王ルナリアの魔力生命体に対する命令権。それを危惧してのことだろう。直接対面することになれば、そして万が一戦闘にでもなれば。操られミツキたちの敵になる可能性が残る。それを避けるためだろう。
「騎士と相談したのだが、奴のやることを手伝うことにした。元々一人では厳しかったようでな、先ほど私に打診してきた」
未だ強くディアーナを警戒しているアテナはそのことをぼかして説明する。ただ完全に嘘ということもなく、舞踏会の間リベラを手伝うというのは事実。暇を持て余す気は毛頭ない。
「では、私の責任は重大ですわね。ミツキさんたちのこと、しっかりお守りいたしますわ」
「じゃあアテナさん、後でいっこ頼み事お願いしてもいいすか? 一緒に行けないならやっときたいことがあって」
「ああ。それくらい構わん。私にできることならばな」
こうして最後の地、ラストボンドでの組み分けは決まった。
ミツキ、ゲルダ、カイ、ディアーナの王城潜入組。
アテナ、リベラの別行動組。
それぞれが、この旅の終着に向けて歩き出す。
「では、みなさま。入りましょう。絆と孤独の地。最後に得た親愛の都。王都ラストボンドへ」
眼前、薄く煌めくベールのようなもの。これが王城の結界。無遠慮に踏み込むものを拒む防御の要。
しかし、ミツキたちにはすでに、これをくぐる資格がある。
「特別なこととか何もしてないすけど、ほんとに入れるんですよね? なんかちょっと怖くなってきちゃった」
「うん。だいじょうぶだと思うよ? これまで辿ってきた街全部に複雑な魔法が残されてた。その場では解析できなかったけど、この結界見たらなんとなく分かった。あれが鍵なんだ、って」
「姉さんが言うなら間違いないでしょう。まさか信用できないとでも?」
「意地悪いなあ、カイ。それ言われたら何も言えないんだけど?」
いつもの調子で前に進む三人。
王都、決戦の時は近い。




