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一章 幕間 『決意の日』

「お父さま、おめでとう! これでみんな幸せになるのね!」


 私は無邪気に喜んでしまう。これから残る困難が見えてなんかいないから。


「そうだね。ようやくそれが目の前に来たようだ。全部、君のおかげ。私といてくれてありがとう」


 そうやって父は、相も変わらず優しい言葉をかけてくれる。きっと心ではこれからの日々に怯えているだろうに。


「うふふ、お父さまったら、ときどきウソみたいにだらしなくなるんだもの。私がいないと大変だものね」


 そんなこと思いもしない私は、ひどく上機嫌で。


 だって認めてもらえたから。


 少しずつ少しずつ、父の手伝いをする内に。


 少しずつ少しずつ、私を人間と認めてくれる人も増えていった。


 そのことがとても嬉しくて。


 望んだ幸福が、見たかった景色が、目の前にあるのが嬉しくて。



 それがいつか消えてしまうなんて、夢にも思っていなくて。



    ◇



「お父さま! また危ないことして!」


 父は一つのことを成し遂げた。


 だから、次のことを成そうとした。


「危ないこと? はて、この前君が私に黙って国の端まで行ってしまったことよりも?」


 私は認めて貰えたことが嬉しくて、国中の人と友達になろうと走り回っていた。


 今思えば恥ずかしい限りで、まるで王族の娘には見えないようなお転婆ぐあい。


「もう! はぐらかすのはダメなんだから! また悪いことした人のところに行ったのでしょう!?」


 それでも一番好きなのは、父であることは変わらなくて。


 そんな父が危険を冒すのは見ていられなかった。


「──それは違う。彼らはもうそんなことはしない」


 珍しく、父は強い眼差しで。すっかり衰えたはずの顔もその時だけは昔のままで。


「君だけは、それを言ってはいけないよ。どんな人だって変われる。それを一番知っているのは、他でもない君なんだから」


 私は何も言えなかった。私は何も分かってなかった。


 まるで自分は違うとでも言うように、自分のことを棚に上げて、彼らのことを悪く言って。


「じゃあ、私も連れて行ってくださいな? ──お父さまがいないのは、やっぱり寂しいの」


 それでも少し心配だから、甘えた子供のフリをして、父に着いて行くことにした。


 父の名誉を守ろうと、精一杯にお淑やかに。言葉に気をつけて。振る舞いに気を配って。



 父の言うことは本当で、彼らはきっと変われる人間。


 でも父の時間は短くて。彼らをすっかり変えてしまうにはそれは余りにも足りなくて。



    ◇



「お父さま! しっかりなさって! お父さま!」


 父と私。いるのは最初に出会ったあの場所。


 あの時とはすっかり変わって、きれいな街になろうとしている。


「ああ、大丈夫。ただ、少しだけ眠たくて」


 そんな場所で、父は。


 血を流して倒れている。


 立ち上がる力もすっかり消えて。


 私の腕に抱えられて。


「いや、いや! お父さまはまだ、やりたいことが!」


 そんなこと、彼が誰より悔しいだろうに。


「大丈夫。大丈夫。君にはもう友達がいる。私がいなくても大丈夫」


 たくさんのことを成し遂げて、たくさんの人を笑顔にして。


 そんな彼が、こんな簡単に死んでしまうなんて。



 その時に決めた。一つだけ。


 彼が残した街の名前を。


 そこに込めた万感の思いを。


 決して絶やさないように。


 そして、いつの日か、必ず私が──

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