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一章 十七話 『限界』

「魔獣の襲撃!? この国で!?」


 声を上げたのはカイ。予想外の事態に動揺。


「こっちだ。オレが先陣を切る」


「俺もこのメンツなら前衛に」


 即座に反応したのはリベラ。続いてミツキ。経験値と、反射。それぞれ別の要因で颯爽と動く。


「いこ、カイ」


 これに続くはゲルダ。ミツキが動くのを見て反応する。


 以外にも動きあぐねたのはカイ。自動車酔いが尾を引いていた、というわけではない。

 彼の長所は事実から推論を導くこと。故にこの獣の国(アニマ)では魔獣の襲撃などないと高を括っていた。それに反しての襲撃に、動揺ののち、ついその理由を探ろうと足を止めてしまう。頭が回る彼だからこその欠点。それが如実に現れた。


 しかし幸いにも彼にはゲルダがいる。魔法以外は感覚派の彼女がカイのその欠点を即座にカバー。行動に移る。



「──ありえない。あの女、何を考えていますの」


 

 最も動揺していたのは、ディアーナ。そして。


「随分と動揺しているな、女狐。何か気になることでもあったか?」


 その動向に注視するアテナ。この二人が集団の最後方を行く。


 ディアーナは答えない。この事態の原因を探るために、ひたすらに思考を巡らせる。




    ◇



「ここか。数は少ない。魔獣の警備も機能しているようだ。オレたちの出番はなさそうだな、ミツキ」


「一応撃ち漏らしには警戒しときましょうか。あの中に加わったら間違えて味方のはずの魔獣も攻撃しそうだ」


 二人が見たのは、魔獣と魔獣が争う光景。この世界においてもそうそう見ることのできない圧巻の一幕。


 両手に鋭い爪を持ったモグラのような魔獣、裂土竜(さきもぐら)。それを押さえつけ制圧しているのは赤黒く燃えるような鬣の獅子、紅狛(こうはく)の群れ。


 獅子はやがて土竜の首に食らいつき、その息の根を止めた。


 似たような光景が、デスパレートの大通りで散見される。


「問題は、範囲が広いってことですね。残党か追加があるかもしれないす。用心しましょう」


「よろしい。オレが指示を出す必要もないな。追加で怪我人の存在に気を配れれば上々だ」


 それに向かったのはゲルダ。自身の魔法が大規模に影響を与えるものであることから、街中での行使を制限。回復魔法での支援に動く。魔法関係においてはピカイチの思考力。


「周囲の警戒、終わりました。大丈夫です。残党はいませんよ。地下の音も探ったので間違いないかと」


 言い切るカイ。使用したのは天駆風・天耳通(てんにつう)


 音、それはすなわち空気の振動である。カイは周囲の空気に魔力を流し、自身の耳へと伝達経路を形成。周囲の動向を探った。常人であればその情報量に脳が耐えられない。しかし使用するはカイ。ただの音の処理など雑務にもならない。



「おう、あんたたち随分いい動きしてやがるな。ただの観光客じゃねえのか。まあそりゃそうか。ここはデスパレート。元犯罪者のための街。好き好んでくるやつは居ねえ」


 同じように周囲を警戒していた男が話しかけてくる。熊のような耳をした大がらの獣人。


「いや、我々は観光客だよ。王都まで向かう予定なんだ」


「ほー。それでこんなとこまで。ご苦労さん」


「犯罪者……」


「ミツキさん、ちょっと」


 その男が言い放った言葉に気を取られるミツキ。道中でのディアーナとの会話があったから、なおさら。


「構わねえよ。まあ昔のことだ。身よりもなくてな、メシも食えなくて、盗んだ。そこをルナリア女王に拾ってもらって、ここでまあ看守みたいなことやってる。とは言っても、みんなやむをえずになんかやったやつばっかりだ。心底わりぃやつはどこにもいねえよ。おかげで暇してたんだが」


「今みたいなことはよくあるんですか?」


「まさか! 女王サマが居んのにこんなことそうそう起きてたまるか。年に二、三回、もっとしょぼいのがあるか、くらいだ」


 しれっと情報を集め始めるカイを横目に、ミツキは思案する。


 また現れた女王の新たな表情。


 常に怒りを放つ女王。子供相手にその怒りを抑える女王。魔獣を使役し人間の負担を減らす女王。そして犯罪者に居場所を与える女王。


「昔からの伝統ってだけだと説明つかない気ぃする」


「それよりも、今の会話で重要な話があったの、ミツキさん気づいてます?」


「ちょっと待ってね、思い出す……」


 記憶をたどり、その中にある違和感を探る。知らないことは分からないままのことも多いミツキでも、知っている情報であれば。


 カイもそれを理解している。だから促す。いざという時に一人でも大丈夫なように。


「……あった。多分だけど、年に二、三回ってとこ」


「合格です。言葉にしていただいても?」


「えと、女王の能力って、魔獣を完全に操れるわけじゃん? それなのに、効果範囲内のこの国でも、昔からはぐれの魔獣は現れた。ってことはつまり」


 ミツキは言葉を探す。試験の問題を解くように、一つずつ答えに近づける。


「──限界。女王の能力にはそれがある……ってことで良い?」


「はい。僕もそう思います。もっと言うなら、その限界は今も変わらない。無限の魔力を持っているのに今、それが起きましたからね」


「──見落としていないか、弟? 奴の性格は苛烈だぞ。少年と接触したことを受けて危険を感じ一芝居打ったやもしれん」


「疑い始めたらキリがありませんが、正直そこは気にしなくて良いかと。あの女王は性格は悪そうですが」


「カイに言われちゃって、女王さまもかわいそうだね」


「ねー」


 少しついていけなくなったミツキ。そして怪我人の手当てを終えたゲルダが茶化す。


「……それでも国防を疎かにしてまでこんな芝居は打たないでしょう。わざわざ結界のシステムを使って敵の目を自身の住む王城に向けてるような方です。そこは、変な言い方だけど信頼して良いのでは」


「オレも同意見だな。この国の機構は徹頭徹尾住民から危険をそらすように出来ている。女王が力を向けるのが外、と言うことは前提において良いと思う」


 意見が一致し始めるが、そこで出てくるのは一つの違和感。


「じゃあやっぱり、外の魔獣騒ぎ、女王さまのせいじゃないんじゃない?」


 限界があり、それが今も変わらないのであれば、今までなかった魔獣侵攻を手引きすることもないのではないか。ゲルダの意見はそういった考えに基づいている。


「そこはまだ結論が出せないよ、姉さん。無限の魔力で得た余力を外に回して、内はいつも通りにした結果かもしれない。どちらにせよ、限界は残ってるって言うのは変わらないけど」


「ここで出せる結論はここまでだろうな。だが何にせよ、いざ戦いになった場合にも突破口はありそうだ」


 戦いになることを意識するものと異なり。


「限界、か。やっぱり、一人でできることにはそれがあるよな。多分、どんなに強くっても」


 無限光(アインソフアウル)。それを以てしてもなお残る余白のような力のスキマ。ミツキは自身の夢の果てしなさに考えを巡らせていた。



    ◇



「予想外の事態もありましたけれど、今日はここで休息にして、明日の出発に備えましょう」


 ディアーナが久しぶりに声を出す。


「ここって観光するところあります? 報告書用に何かあるなら見ておきたいんですけど」


「うーん、大したもんはねえよ? あるとすれば、そうだなあ」


 ミツキがさっき出会った獣人に訊ねる。一応研修の名目。恐らくあの団長のことだから報告書もしこたま書かせてくる。ミツキは以前書いた反省文を思い出していた。


「学校。あそこはいかがでしょう?」


 横から、ディアーナが答える。


「ああ! あそこなら歴史的にも意味がある! あんたの勉強にも使えるだろ!」


 学校。観光としてはそぐわないようなその名前。ミツキはどんな珍しいものか心していたが。



    ◇



「普通の学校だ……」


 ミツキが前世で知っていたものと同じ、グラウンド、校舎、体育館。そんな、言ってしまえば普通の学校がそこにはあった。


「しかしそうでもないんだ、ミツキ。この学校はね」


「初代が、学ぶ機会の与えられなかった犯罪者のために勉学を説いた場所ですのよ」


 犯罪者の更生にも尽力した男が、晩年に行ったのがここでの学習会。多くのものが無駄な時間と謗った偉業。


「あー。それは確かにすごいな。聞いてくれるかも分からない。聞いてくれても、みんな同じ学力かも分からない。それでもその人は」


「……尊敬しますね」


「うまくいったわけではありませんのよ。ただ、それでもここで学んだ者の一部が、次代のために、もっと。そんな意気込みを以て築き上げたもの。連綿と連なる想いの結晶ですわね」


 ミツキは思う。人の歴史と、繋ぐ思いを。


 人の限界。それを超えて成された強い願いを。

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