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一章 十三話 『束の間の観光』

「うまー! ミツキくん食べた? これ、カイが作った焼き鳥よりおいしい!」


「姉さん、ちょっとそういうことはさあ……」


「うお、まじだ! こっちの方が全然うめえや」


「……言いますね、珍しく」


 ミツキたちは先ほどの露店で早めの昼食を摂っている。店頭に掲げられているのは揚げた鶏肉。分かりやすく言うならば唐揚げのようなものだ。テイクアウトも受け付けているようで、食べ歩きができるように少し大きく、長くカットされた鶏肉を、手が汚れないように紙で持ち手を作った形をしている。衣はさくさくと食感が楽しく、肉にはじわりと火が通っているため柔らかい、しかし弾力のある食感。噛めば肉汁の溢れる至極の一品。


 他方、ミツキたちは店頭に並べられた食事用テーブルでの食事を選んだ。そこで出てきたのは、骨付鳥、それを丸々揚げたもの。細かくしたものと比べてより丁寧に火が通せるからか、内に閉じ込められた肉汁の量は食べ歩き用のそれを遥かに凌駕する。口に頬張れば、半日漬け込まれたタレの旨味の染み込んだ肉が肉汁と共に鼻腔を刺激する。食べれば食べるほどに食欲の出てくるような、魔法のような逸品。


 ゲルダもそれを食べていたが、少し大きかったのか、少しずつミツキに齧らせていた。異なる味付けを選んでいるのもあってミツキも遠慮なくそれを受け入れている。


「カレーっぽいね。なんか懐かしいかもだ」


「ほう、ミツキの前世にもカレーはあったのか。オレも野営の時はよく作っているよ」


「あたしはカレーよりシチューの方が好きだなあ。あれ食べると、あったかい気持ちになれるの。このお肉はすごく美味しいけどね!」


「姉さん、店の中で無い食べ物の話するのはどうかと思うよ」


「構わないよ! いっぱい食べてくれてるし、そのくらい気にしないさ」


 店主が持ってきたのはドリンク。メニューを見てミツキがまず目につけたのは。


「すげえ、本当にコーラじゃん! やっぱりチキンにはこれだよな!」


 コーラ。前世でミツキほどの歳の子供であれば大半が好むであろうそれ。


 この神造世界に来て、ミツキが驚いたことはいくつもあるが、最初に目を見張ったのは「文字」である。一見すると全く覚えのない文字だったが、よくよく見れば、ミツキのよく知る文字、日本語に似ていることが判明した。ひらがなをベースにより角張った形に変化しているが、名残はある。その上、発声はまるきり同じもの。


「俺以外の前世返りが作ったのかも」


 文字にせよ、食文化にせよ、自身の知るものが意外と身の回りに溢れている。輪廻転生など前世では完全には信じれていなかったが、どうやら向こうにも昔からあって、それも頻繁に混線していたことを知らしめる。


「人間の文化というのも……なかなか……侮れないとは思って学んではきたが……これは確かに……」


「アテナさん、流石に遠慮なく食いすぎじゃねえすか? あなた俺らと違って完全な無一文でしょ?」


「構わないとも。竜種(ドラゴン)と食事を共にするだけでなく、奢ることができるなんてね。男なら、いや、その寓話に触れたならば、間違いなく皆喜んで差し出すさ」


 アテナが積み上げるのは空の皿。骨まで綺麗に食べ切り、見る見るうちに会計の伝票が厚くなる。


「ここでその名を出すのは控えておけ。誰に聞かれているか分からん」


「流石。警戒を怠らぬその姿、オレも見習わなければ」


「口の周りに食べ残しついてなかったら締まるんですけどねえ」


「姉さんだけじゃなくて、ミツキさんも大概怖いもの知らずですよね」


「ミツキくん、あたしと一緒だってー!」


「いいもんねー。地頭良い組には負けないもんねー!」


「──それならば、ゲルダはこちら側だろう、少年?」


 アテナがその名を呼ぶのはゲルダのみ。あまりにも距離が近いからか、アテナの方も自然と対応が優しくなる。


「……情報収集、しましょうか」


 旗色の悪くなったミツキは、ここに来た本題に移ることにした。



    ◇



「女王がどんな人か、だあ!? そんなこと聞いてどうすんだよ?」


 食事を終え、会計に来た店主に話を振る。


「あー、えっ、と……」


「この人が、あまりに成績が悪くて。学校からここでの研修を命じられたんです。ここなら歴史も学べるだろう、って。それで、帰ったら報告書書かないといけないので、何か聞けることがあれば嬉しいのですが」


 ミツキの穴を埋めるカイ。もはやこのコンビネーションはパーティーの伝統芸能のようだった。コンビネーションとは言ってもカイが尻拭いをするだけなのだが。


 カイが用いたのは全くの嘘ではなく、伏せるべき情報のみを伏せた虚言。即席でこれを出したのではなく、ミツキがボロを出すことを前提にした策だった。


「ああ、そんであんな話を。そうだなあ。うーん。難しいねえ」


「どんな些細なことでも構わないんだ。例えば、貴方から見て彼女がどんな人柄か、とか」


「それが難しいんだよ。あの人はコロコロ雰囲気変わっちまうから。機嫌良いって日もあれば、めちゃくちゃ怒ってる日もある。まあそれだけなら普通の人なんだが、同じ感情でもなんか違う気がしてよお」


「と、いうと?」


 リベラが率先して会話に入る。何かあった時に、子供たちではなく自分が責任を取れるように。


「怒ってることは多いんだが、怒り方が違うってえか……キレてるか、追い詰められてるか、みたいな?」


「追い詰められてる……?」


「それ最近の話なんですか? 僕の知る限り、獣の国(アニマ)って確か」


「ああ、()()()の監査は、追い詰められてる感じあったな。その翌日の声明は、まあキレてるっぽかったが」


「一月前……それなら」


 獣の国では月に一度か二度、抜き打ちでの監査が行われる。監査と言っても女王が王都から順に街を巡り、上手くシステムが回っているかを確かめるだけのものなのだが、住民はそれが始まったと聞くとピリつき始める。


「昨日あたりにナレッジって聞いたから、多分今日にはヘイデイ、となると明後日あたりにフェアウェルだろうな。まあ女王見れるなんて滅多にねえから、あんたたちももし居られるなら、そこまでいることをおススメするぜ。結構、覚悟しねえと恐いが」


「明後日……か。ありがとう。おかげでこの子のいい勉強になる」


 こうして一行は店を後にした。



    ◇



「で、ここが女王に替わり最初の洗礼を受けたという泉。名前はそのまま『洗礼の泉』だ。今では、女王の座を手に入れた彼女にならい、願い事をすると叶う、との迷信が語られているよ」


「似たようなん聞いたことあるわー。人間考えること一緒だな」


「なにお願いしようかな……やっぱりミツキくんの……いや、うーん」


「僕は姉さんの健康でいいや」


「良い心がけだ。迷信、ひいては伝説。それらを信じることは先人への敬意にも繋がる。不躾なやつはここを理解せずにやれ根拠がないだの、やれ理屈に合わないだの。学者など特にだな」


「そういう話ならオレも。そうだな、殿下の幸福にでもするか」


「俺は、やっぱり」


「「「みんなが幸せでありますように」」」


「──バレバレか」


 店を出て後、一行は二日フェアウェルに滞在することを決めた。女王の監査、その際の振る舞いや雰囲気を見て今後の方向性を定めるために。


 それまでフリーの時間になるため、気分を一新し、観光に専念することになった。


「そいえばリベラさん。獣の国で大きい都市ってそんなにないんでしたっけ」


「そうだね。まず王都ラストボンド。次に知識の街ナレッジ。交流都市ヘイデイに、小都市デスパレート。そしてここ、観光都市フェアウェル。この五都市が主に人の集まる所だ。それ以外は基本的に小さな農村や山岳部だね」


 ミツキはその都市の名に聞き覚えがあった。しかし、上手く思い出せない。


「なんだろ、因果集積(フェイタル・チェイン)あるから忘れたりなんかしないはずなんだけど……引っかかるなあ」


「我々が目指すのは王都だ。そこまでの道は、順当に行けばこの全てを経由していくことになる。これは国防のため、敢えてそうしている、でいいな、騎士?」


「はい。王都の結界式はこれらの街を経由したものにのみ開かれます。そうやって強度の穴を作ることで他の経路に対する強度を上乗せしているんです。そして侵攻路の限定により、国民の避難を分かりやすく農村部に向ける意図もあるのでしょう」


「──本当に、そうなんでしょうか。それが事実なら、僕にはこの国が──」



「陛下だ! ルナリア女王陛下がいらっしゃった!」


「! 馬鹿な、聞いていた話と違う!」


「どこかで連絡がズレたみたいすね。リアルタイムの通信機器も無い伝言ゲームだから、仕方ないけど」


「行こう。恐らくさっきの大通りだ」


 ミツキたちは、声のした方へと駆けていった。

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