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一章 四話 『即戦力試験』

「ようこそ、国を守ろうと望む若者たちよ」


 魔性の国(ファタール)から北、少し外れた地にある自警団の駐屯地。声を上げるのは長身、剛健の大男。硬い髪質の薄く緑が覗く黒髪がぼさぼさと伸びている。その身に纏う筋肉は軽装から顔を出して、風貌と相まって集まった者を威圧していた。


「『外套の魔道士』が死んだ今、大人しくしている魔獣どももいつ牙を剥くかわからない」


 ここはミツキにとって、苦い思い出が残る地。そこで。


「願わくば、諸君らが『彼』に負けない才能を、未来を、手に入れんことを。そして、そうでなくとも。人のために戦える勇者であらんことを」


 自警団の即戦力試験。それが始まろうとしていた。




    ◇



「即戦力試験?」


「そう。今自警団は若手の育成に尽力しているが、そう悠長なことも言っていられない。魔獣はいつ活動を活性化させるか分からん。そこでこれを並行して行う施策を考えた」


 それが、即戦力試験。入団希望者を集め、試験形式で実力を測り、優秀な者を即戦力として雇用。それ以外の者は即戦力として選ばれた者を目下の目標として研鑽を積ませる。


「あの団長の考えそうなことだ。ああ見えて、実に効率重視だからね」


「それ、俺が受かると思います?」


 不安。これをパスできなければ、しばらくは育成枠として自警団の予備隊に加わることになる。そうなると、奇跡(ギフト)を取り戻す旅が、遠のく。


 血の滲むような努力を経ても、報われない記憶がミツキをその懸念から逃さない。


「? 当然だろう?」

「? 当然ですよね?」


 アダンとカイが珍しく言葉を同じくする。


「そうじゃなきゃ」


「私が、こんな話持ってくるわけないだろう?」



    ◇



「と、まあ」


 集まった参加者はざっと二十人。ミツキの想定よりも少ないが、国の規模から考えると、これでも多数集まった方である。それもこれも、「外套の魔道士」が与えた影響によることを、ミツキは知っている。


「前置きはここまでだ! 試験は簡単! 駐屯地の中に捕らえている影狼(カゲロウ)。その数四十。これを倒せ」


「四十って……さすがに僕たちじゃ……」


 受験者の中から多く弱気な声が聞こえ始める。腕に覚えありと声を上げたといえど、その誰もがまだ子供。不安に思うのも当然である。


「当たり前だ。お前たちではまだ足りん。だから」


 演説を続ける男の後ろに屈強な男性が九人現れる。


「──俺たちを援護して、戦え。それがお前らの実践での仕事になる」


 その男、自警団団長ディエス・オーグが試験の内容を告げた。




    ◇



「俺たちが使う武器は殺傷性の低い模造のものだ。必然的に、制圧には時間がかかる」


 もちろん念のために真剣も持つが、と付け足す。


「これをどれだけ縮められるかが評価要素だ。いいな? じゃあ、始めるぞ」


 参加者に求められるのは単純な力量のみにあらず。最も重視されるのは、周囲を見る力。


 ──カバーリング能力。


「──開始!」



 団長の声を皮切りに試験が始まる。団員たちはいち早く駆け出し、一人当たり三、四体の影狼を相手取る。


「よっしゃ! 根こそぎ倒してやるぜ!」


「俺だって!」


 息巻く参加者が、少ない数を相手にする団員の近くに行き、援護に入る。理由は簡単。数が少ないほど団員の実力が発揮され、より高速化が期待しやすいから。


 援護は人が多い箇所に集まる。理由は単純。その方が火力が集中され、評価要素に寄与するから。


 しかしそうなると必然。


「おいおい、あっち行った方が良くないか?」


「そうかも……でも実践じゃないし、団員の人なら大丈夫だろうし……」


 ムラが出来る。援護の過多が露骨になる。とりわけ、一人で七体を相手取る団長。そこには数が少ないと気づくものは少なく。


「ちっ。まあこんなもんか。しゃあねえ、さっさと……」



「雷光」


 声に出し、魔法を放つ。直線の雷撃。単純な魔法。それが七体のうち一体に直撃し、動きを止める。最小限の魔力で期待した効果は足止め。


「──! へえ」


 負担を軽く。メインは自分ではなく前衛。群がる影狼を少し切り離し、動ける範囲を広げる。


「っらあ!」


 一撃。足の止まったそれではなく、先頭の相手に食らわせたそれにより、二体分の圧が減る。


「迅雷」


 さらに魔法を唱える。速度重視の雷撃。雷光よりも効果は薄いが、発生速度、進行速度共に優秀なそれを二発。これで都合四体分。


「よし」


 その言葉で援護を切り上げ、他の部隊に向かう。シンプルな合図。それでも意図を読み取れるのは。


「──こんなところで経験が生きるとはなぁ」


 ミツキが持つ、類まれな視野の広さ。それが原因。


「でもやっぱり──雷光!」


 五体相手取る団員へと近づき、だん、と足を慣らして合図。気づいた男は体を逸らし射線を通す。同時に乗せるは狙うべき相手。ミツキの魔法は見事これに命中する。


「魔法の名前叫ぶの、恥ずかしいんだけど!」



    ◇



「前も言ったと思うけど、魔法っていうのは想像力だから」


 ゲルダの講義。炎、雷、そして光。ミツキが現状扱える魔法。その全ての基礎を終えたタイミングでゲルダが言う。


「どんな時でも頭回せるように、いろんな工夫があるの。その一つが、名前」


「名前とイメージを直結させて、想像を楽にする、か」


「そう。それに加えて、大変な魔法は詠唱を加えることもあるけど、たぶんミツキくんにはいらない」


 イメージは強固に脳内で形を持つ。ミツキの特異性。一度でも使ってしまえばみるみる定着する。だが、それでも。


「やっぱり実践だと、目の前の景色が強く頭に残るから。想像の補助は要ると思う」


「つまり?」


「魔法の名前。考えて、ちゃんと発声しましょう」


「うわあああああ!」



    ◇



「勇生の黒歴史見てるから、むず痒くなるぅ」


 自身には経験のないことだったが、弟の勇生が一時期魔法使い設定で黒歴史を量産していた。その光景を思い出し、鳥肌。次いで自分が今、それと同じようなことをしている事実に脳が痒くなる。


「慣れろ慣れろ慣れろ慣れろ! 頭から離れろ! 迅雷!」


 煩悩を振り払うように魔法を放ち、援護を続ける。すると駐屯地の魔獣、その担当数がフラットになった。


「火力集中させるんじゃなくて、広く受け持つ……ちょっと効率悪く思えるけど、多分」


 その意図。ミツキだから分かる狙い。


「より多くの被害を食い止めるため、だな」


 殲滅よりも、守護を。火力を集中させることで穴が生じるのを良しとしない。それが恐らく自警団の基本スタンス。


「だいぶ減った。これなら」


 手が空く団員が生じ始め、戦場が密になる。援護に躍起になっている参加者たち。戦況が、十分見えてはいないようだ。それも当然。誰もが、今初めて実践に出る。


 ただ一人、ミツキを除いて。


「引くように号令……は反感買うだろ。じゃあ……」


 密になった戦場では誤射のおそれがある。主力の魔法は放ち辛い。そうなれば。


「っし」


 脚に限定して魔力を通し、強化。駆け出し、腰に携えた模造のナイフを構えた。


 速度に乗ったまま魔獣を斬る。他の団員が攻撃を振り切った合間、その一瞬で攻撃し離脱するヒットアンドアウェイ。これにより少しずつ数は減り。


「おい! あの短刀使いみたいに動くぞ!」


 参加者も徐々に動きの統制がとれ始めた頃に。


「──以上! 総員停止」


 終了の合図。そして。


「そこ、気をつけろよ。周囲に残党がいないか、目視で確認。それが終わるまでは油断するな」


 最後の審査が終わると、長いようで短い即戦力試験が。


「よし。これで試験は終わりだ。結果はこの後、すぐに伝えるから帰らないように」


 ようやく、終わりを告げた。



    ◇



「おい! お前すごいな! なんであんな動けるんだ!」


「違う違う! 動きよりも対応だって! 私見てたもん!」


「あー、うん。ありがとう。結構頑張って訓練してきたからさ。思ったより動けて、みんながそう言ってくれて嬉しい」


 ミツキを囲む参加者たち。尊敬の眼差しで見る彼らの中に、ミツキを羨むような者はいなかった。


「でもいいもん見れたー! ミツキをとりあえず目指せばいいってことだもんな!」


「そうでもねえぞ」


「! 団長さん!?」


 気配もなく現れたディエスに全員驚く。たいそうな大男のはずだが足音どころか気配一つ感じさせない動き。


「こいつ最後に欲張って近接連携に加わりやがったが、あれは危ねえ。気にはしてたが、それでも遠距離の援護より練度がいる。即席でやるのは避けろ。いいな?」


「うっ、すみません」


「まあ、それで上手く入り込んだのは一応褒めてやる。魔法だけ鍛えてたわけじゃなさそうだ」


「? それってどういう?」


 訊ねるミツキを手で制し、ディエスが声を張る。


「お前ら! 結果発表の時間だが……俺からは何も言わねえ」


「!?」


 予想外の言葉に、特にミツキは驚愕する。まさか最後のが響いたのか、と不安になる。



「──即戦力になれると思うやつ。なれないと思うやつ。お前らが、誰よりもわかってるはずだ」


 だから聞く、と言葉をつなげる。


「ふさわしいやつはいるか、居たらそれは」


「──キ」


 声が上がる。ポツリポツリと。


「ミツキ」「ミツキくんでしょ!」「あの短刀使いだ!」「俺はまだまだだった!」「やる気出てきたよ! ありがとな!」「早く追いつきてえ!」


「みんな……」


 その声に、一人。何も言えない少年。


「おい。あと一人。声が聞こえねえぞ」


 促す。その期待に応えるようにと。ここにいる全員の期待を背負って、守るようにと。


「──はい」


 手を挙げる。そして。


「俺は、自警団の即戦力を希望します」


「──よし」


 自警団第一回即戦力試験。合格者は。


「これからは俺たちの一員だ、ミツキ」



 ミツキに、決まった。

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