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ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね  作者: 二葉ベス
第2章 気になるあの娘の気持ちがこぼれ落ちるまで
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第20話:時を刻む絆時計

「今日はありがとね、幸芽ちゃん!」

「……別に。ちょうど街に出る用事があっただけです」


 またまたぁ、素直じゃないなぁ、幸芽ちゃんは。

 誘ってから数日。意外にも彼女のほうからOKの連絡がやってきた。

 心胸躍るわたし。高鳴る胸をぎゅっとこらえて、わたしはデートの計画を立てていた。


「わたしさ、行きたかったところあったんだ」

「どこですか?」

「んー、ひみつ!」


 にっこりと笑って誤魔化す。

 昔から、それこそ生前から気になっていた場所があった。

 そこは三大ガッカリ名所だとか、周りの景観がすべてを台無しにしているだとか、そんなのばかりだけど、魅力はあって。


「とりあえずご飯食べよ! ニックでいい?」

「たまには食べたい気分でしたし、いいですよ」

「やった!」


 軽くジャンプしながら、両腕でガッツポーズを小さく作る。

 そうだ。物は試しだ。ちょっと自分たちが恋人であることをちらつかせながら、こういうお願いをしてみよう。


「ね、幸芽ちゃん」

「今度はなんですか?」

「……手、つないでもいい?」


 瞬間、幸芽ちゃんの動作が止まる。

 やっぱりダメだったかな。不安で文字通り心臓を動かす。

 大丈夫。わたしは大丈夫。ちょっと傷ついても、そこは大人なわけですし。

 首元に手を置いて、あははと曖昧に笑う。

 だが、彼女の返答はわたしの想像していたものとは違っていた。


「……いいですよ」

「へ?」

「私も、確かめたいことがありましたし」

「そう、なんだ。そうなんだ。そうなんだ!」

「だいたい、いつも抱き着いてきてるんですから、慣れっこです」

「そうかなぁ。えへへ」


 わたしからしたら、幸芽ちゃんが結構嫌そうに見えていたんだけど。

 で、でも嬉しい。幸芽ちゃんからそういうこと言ってくれるの、すっごく!


「つながないんですか?」

「ありがとね、幸芽ちゃん」


 今は真夏だからか、手のひらが少し汗ばんでいる。

 だけど汗自体はさらさらと、脂っこくない爽やかな触り心地をしていて。

 なんだろう。美少女ゲーム特有の何かだろうか。それにしてもこの子本当に肌がすべすべしてる。

 モチ肌の触感。見た目相応に、肌も見た目同様にやや幼くふっくらしていた。

 要するに、触ってて気持ちいい!


「癖になりそう」

「なにがですか?」

「幸芽ちゃんに」

「警察呼んでいいですか」

「いやですー! そんなこと言ったら、幸芽ちゃんだって可愛すぎる罪でわたしに永久就職ですー!」

「うわ」


 いや分かってる。さすがに今のは自分でも気持ち悪いって思ったわ。

 軽く謝罪を入れて、ドン引きする幸芽ちゃんの頬っぺたをくにくにする。たのしい。


 ニックにも行って、お腹いっぱいとなった私たちが次に行き場所。

 それはといえば、先ほどの行きたかった場所だ。


「時計台ですか」

「そうそう。昔から来てみたかったんだよねー」


 当然のごとく、地元民がいかない場所トップテンぐらいに入る観光名所。

 けどわたしにとっては、今が修学旅行の延長線上にいるイメージなのである。

 この場所も、わたしからしてみれば素敵なデートスポットだ。


「ここって中はこんなだったんですね」

「幸芽ちゃんも来たことなかったんだ」

「まぁ歴史なんてあまり使わないですからね」


 それは分かる。

 歴史を知れば常識と人の動き方が分かる。

 でもそれだけと一蹴してしまえば、そのとおりだ。

 半ば歴史の博物館となっている時計台の中を見ていく。


「幸芽ちゃん、歴史好き?」

「嫌いではないです」

「わたしは苦手だったなぁ。覚えることいっぱいだし」

「……なんで過去形なんですか」

「え? ……あっ」


 まるですでに経過してきたかのような言いぐさだったけど、思い出した。

 わたしは今が学生だ。だったとか、知ってきたような言葉遣いをするべきではない。


「あ、えっと……。ほら! 一年の頃! 一年の時はすっごく大変だったなーって!」

「記憶ないですよね」

「うぐっ!」


 墓穴を掘ったのは、わたしでした。

 正体看破RTAに対して、明らかなガバプレイング。

 正直しんどかった。やってしまったと感じてしまった。嫌だなぁ、正体ばれるのとか。なんて言われるか分かったもんじゃない。


「怪しいのは確かですけど、姉さんは姉さんってことにしておきます」

「それって天然って言いたいの?!」

「違うんですか?」

「違います―! わたし賢いですー!」


 実際かしこめだけど、それ以上のアホだってのは知ってる。

 頭のいいアホを演じているに過ぎない。そう、あんまりかしこく見られたくないから!


「でもなんか変な感じだね、内側から時計の音が聞こえるのって」

「話そらしましたね」

「違うよー! 時計台っていうからには、やっぱり時計の音がするだねって」

「……二階あるみたいですよ。行ってみますか?」


 あるんだ、そういうところ。

 わたしは誘われるがまま、二階へと歩を早める。

 階段を上り切れば、教会のように無数の長椅子と、真ん中にある大きな歯車。

 カチ、カチ。と一秒ごとに時を刻む時計台の音色は、心を休ませる。


「なんか、いいね」

「えぇ。初めてですが気に入りました」


 秒針の音。たまに聞こえる長針の動く声。歯車が刻む時を、わたしたちはいま噛みしめている。


「なんか眠たくなっちゃいそう」

「起こす側の気持ちにもなってくださいよ」

「幸芽ちゃんだから安心してできるの!」


 多分涼介さんじゃダメだ。幸芽ちゃんじゃないと、嫌だ。

 壁に寄りかかりながら、まるでゆりかごに乗ったように時を刻む時計。

 こくりこくりと、わたしの頭も時を刻み始める。


「そういうことにしておきます」

「だから……。ふあぁ。寝るね」

「また起きた頃にでも会いましょう」


 上手いこと言った、みたいな声色に内心笑みを浮かべながら、わたしはまどろみの海に飛び込むのであった。

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