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ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね  作者: 二葉ベス
第2章 気になるあの娘の気持ちがこぼれ落ちるまで
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第15話:ラッキースケベと心配は紙一重

 拙者、現在の清木花奈。清木花奈は喪女である。

 前の彼女のことはちょこちょこっとは情報を仕入れてはいたものの、クローゼットの中身で確信していた。

 あぁ、この子。普通にファッション好きだなー、って。


「どうした?」

「いや、本当にわたしで大丈夫だったの?」


 電車にガタゴト揺られておおよそ十数分ほど。

 たどり着いたのは中心部の街。以前も幸芽ちゃんや涼介さんとやってきた商店街だ。

 目的は涼介さんの衣服探しだと聞いていた。


「いいに決まってるだろ。今さら何言ってるんだ?」

「そっか。あはは、お世辞でも嬉しいよ」


 きっとお世辞なんかじゃないってのは分かっていた。

 涼介さんはわたしに好意を向けている。

 その事実が変わっていないのであれば、このデートを誘った理由は何となく察しがついていた。


「お世辞じゃないんだけどな」

「じゃあ、そういうことにしておく!」

「ありがとよ」


 お世辞、っていうのは、そういう意味じゃないんだけどさ。

 わたしはファッションのフの字を知らない。

 こんなわたしだ。学生時代に春があったかと言われれば、NO。

 社畜時代はありえない。そんな灰色の人生を歩んでいたのがわたしだ。

 だから人が喜ぶかな、っていうファッションが分からない。分かるのは値段ぐらいだ。


 適当なお店に入って、ちらりとメンズシャツの値段を確認する。

 ……眩暈がした。


「涼介さん、いつもどこで買ってるの?」

「ん? ……あー、ごく一般的な大衆向け衣類店、あたりかな」

「あー……」


 つまり無理してここに来たと。

 いい感じにお洒落だしね、ここ。


「どうかなされましたか?」


 と、突如草むらから飛び出してきたのはアパレル店員である。


「えっ?! い、いや」

「お客様、いいスタイルしていますね! こちらなんかはいかがですか?」

「あ、わたしは。その……」


 アパレル店員に対して、日陰者というのは基本無力である。

 されるがままやられるがまま。背中を押されて試着室に取り込まれてしまった。


「あれ、花奈どこ行った?」

「彼女さんなら、先ほど試着室に」

「かのっ……! い、いやあいつは幼馴染で……」


 浮かれちゃって。わたしの恋人は幸芽ちゃんたった一人だっていうのに。

 知らぬが仏というべきか。あなたの義妹さんとお付き合いしてるんです、なんて機会がなければ言いたくないし。

 ワンピースのチャックを下ろして、試着用の服に着替える。


「……やっぱりスタイルいいなぁ、わたし」


 さすがに上書きされてから数日経ったからかは知らないが、だいぶ自分の身体にも慣れてきた。

 花奈さんのボディは言ってしまえば、出るところはしっかり出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。

 腰のくびれとか、生前のわたしにはなかったものだし、何よりこの胸!

 忌々しい。多分Eぐらいあるぞ。さすがは美少女ゲーム。こういうところは男性向けだ。


「わたしは幸芽ちゃんみたいなちんちくりんの方が、かわいらしくて好きなんだけどな」


 着替えながら、幸芽ちゃんのボディを想像していた。

 設定では、確か身長は百五十超えてなかったはず。その割には胸がCだったはずだから、結構大きいんだよね。

 そんな身体を上目遣いしてきた日には、わたしの死が確定してしまうわけで。

 ノックダウンアンドKOまでの道のりが見えてしまっている。


「花奈―、まだかー?」

「あ、ちょっと待ってて」


 というか、胸が引っかかる。

 Eともなれば、それだけいい感じに胸が大きいわけで。

 要するに、衣服が腰まで覆いかぶさらないのだ。

 裾を引っ張っても、おへそのあたりがどうしてもはみ出してしまうのだ。


「んっ! んんー!」


 引っ張っても、手を放せばポヨヨン、と胸が跳ねておへそが出てくる。

 これは、まずい……っ!


「大丈夫か?」

「あ、あーうん。ジョブジョブ!」


 訂正。大丈夫じゃない。

 腹巻欲しい。せめておへそを隠す布!

 さすがにここは出したくないというか、微妙に恥部じゃん!

 鼠径部までは見えないけど、へその緒というママンと繋がってた部分だ。恥ずかしいんだよ、そこ見られるの!


「ホントに大丈夫か?! 開けるぞ!」

「えっ、ちょ!!」


 カーテンに手がかかる。

 ま、まずい。これから先は本当に……!


「とりゃっ!」

「痛っ!」


 だがその手がカーテンを開けることはなかった。

 何者かの奇襲によって、涼介さんの頭にぱこーんとヒットする。

 思わず両手を頭に置いてしまうぐらいには痛かったのだろう。

 とりあえずカーテンから顔だけ出して、様子をうかがう。


「死んでない?」

「生きてるよ……」

「あはは。やっぱこれ似合わないから、元に戻すね」

「お、おう……」


 ため息をつきながら、試着室の椅子に腰を下ろす。

 今のがラッキースケベの前兆だったのかもしれない。

 危なかった。ここから先に行かれたらイベントスチル入りしてしまうところだった。


 それにしても、いったい誰が涼介さんの手を止めたのだろうか。

 元のワンピースに着替えながら、わたしは物思いに耽る。

 思い当たる節が見当たらない。檸檬さんも幸芽ちゃんも、ここにいるなんて知らないだろうし。

 うむむ……誰だったのだろうか。


 深まる謎と、ワンピースに着替えた安心感を胸に、わたしはカーテンを開くのだった。

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