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あの日の続きを言うために  作者: 岩谷衣幸
第一章 憎悪と愛情
2/2

第2話 ステータス

 目を開けるとそこには何も無い空間がただ広がっていた。深海の様に暗く静かな空間。地面も無く、身体にはふわふわと浮遊感があった。まるで暖かい何かに包まれているような感覚。どんどんと底の無い海に沈んでいく。


(あぁ……俺はもう死んだのかな……凛香の返事、聞きたかったなぁ。)


 俺は告白の途中で命を落とす事に心残りを感じながら意識も沈めていくのだった。


………

……


 身体が暖かい何かに包まれているのを再び感じると、意識が急速に浮上する。

 目を微かに開けると眩しい光が視界に差し込んできた。俺は手で光を遮りながら上体を起こして周りを見渡す。

 俺の視界に映ったのは暗く湿った洞窟でも、淡い光が微かに差し込んできている海中でも無く、町だった。

 まるで中世ヨーロッパの辺境地。建築物がそこら中に建てられて、俺の倒れていた丘から町を一望出来る。


「……何処?此処。」


 俺は目の前の綺麗な景色を眺めながら思わず口から漏れた。確か、凛香の告白の最中に誰かに海に突き落とされて偶然洞窟に辿り着いた筈だ。なのに何故か中世ヨーロッパの辺境地の様な町で倒れていた。


(これは……夢……か?)


 俺は自分の頬を抓ってみた。


(……痛い。)


 どうやら、夢では無いようだ。だが、夢で無いとしたら一体俺に何が起こったのかさっぱり分からない。


(まさか……告白が夢、だったのか!?……いや、だとしても、何で俺がこんな所で倒れてたんだ?……う~ん……)


 完全に堂々巡りだ。今俺が何を考えたって仕方が無い。

 とりあえず、立ち上がろうとする。


「……んっ……ん~ん……」


 だが、俺のすぐ横から呻るような声がして動きを止めた。そして、俺は声がした方に目を向ける。

 そこには、俺に寄り添う様に寝ている女の子がいた。見た目は俺と同じ高校生位で、肩甲骨辺りまで伸ばした濃藍の髪が日の光を浴びてキラキラと輝いている。


「……誰?」


 思わず出た俺の声が聞こえたかのように女の子が薄らと目を開ける。女の子は目を擦りながら上体を起こして周囲を確認した。

 すると、俺の黒瞳と彼女の空のように澄み切ったパステルブルーの瞳がかち合う。


「……ん~?……おはよう……ふぇ!?」


 彼女は始めは寝惚けていたが、暫くして間抜けな声を出した。寄り添う様に寝ていたため、俺と彼女は鼻先が触れそうなほど顔が近付いていたのだ。

 彼女は今の体勢に気付いて急いで俺から離れる。


「ご、ごごご御免なさい!」


 彼女は顔を真っ赤にしながら綺麗な土下座をした。

 俺はそんなに気にしていないから、額を地面に擦り付けている彼女を見ると逆に申し訳なくなる。


「う、うん……とりあえず顔上げて?そんなに頭下げられても困るから……ねっ?」


 俺は頭を下げ続ける彼女を宥める。

 彼女は漸く落ち着いたようでゆっくりと立ち上がった。


「えっと……私はロベルタ・サリバン。貴方は?」

「俺は北条悠哉。悠哉で良い。」

「うん、私もロベルタで良いよ。よろしくね。」


 ロベルタの笑顔は控え目に言って可愛かった。凛香に会っていなければ若しかしたら惚れていたかもしれない程に。まぁ、俺には凛香がいるから万に一つも惚れるなんて事は天地が引っくり返っても有り得ないのだが。


「ねぇ、ユウヤは何処から来たの?見た所この町の近くって訳でも無さそうだし、それにずぶ濡れで傷だらけだよ?」


 ロベルタの疑問は尤もだ。この町は見た所、山に囲まれている盆地にある。俺の制服からは微かに潮の香りが漂っているため、湖に落ちたとは考えにくい。


「俺は神奈川から来たんだけど……どうやって来たのかは覚えてないんだよ。」

「カナガワ?聞いたこと無い地名ね。それに記憶が曖昧なの?」


 此処で俺は不審に思った。ロベルタは間違いなく日本語を喋っている。出身が日本じゃなくても日本語を喋っている以上、日本の都市位は知っている筈だ。それに神奈川県は海外でも有名な港町。日本語を喋れない人でも知っている人は多い。


「……あぁ、記憶が混同してるみたい。で、此処は日本の何処?」


 どっかの盆地である事は判るが、日本は火山帯国。盆地なんてごまんとあるから今の情報量だけではこれ以上推測することは出来ない。


「……ニホン?何言ってるの?此処はヴィッカー王国の辺境地の町、ヨーイドンだよ。」


 ヴィッカー王国?、ヨーイドンの町?どう考えても日本の地名では無い。それに俺の知る限りでヴィッカー王国何て国は知らない。


「ユウヤ大丈夫?記憶喪失にでもなってるんじゃないの?」


 俺が思案顔をしているとロベルタが心配そうに見つめてくる。

 と、そこで俺は閃いた。此処が現実だろうと夢であろうと現状を把握するためには圧倒的に情報量が足りない。このまま何の当ても無しに情報を集めようとしても、大した情報は得られないだろう。だが、俺が記憶喪失であると言えば、ロベルタから情報が得られる可能性は充分にある。ロベルタを利用するようで罪悪感はあるが背に腹はかえられない。


「……かも知れないね。良く考えてみれば自分の名前以外何も思い出せないかも。さっきの地名も何となく出てきた単語でそれが何処なのって訊かれたら答えられない。頭に靄がかかってる感じかな?」


 俺は白々しく記憶喪失の振りをする。


「そっかぁ……じゃあ、私の家に来なよ。きっと父様と母様も許してくれるし。」


 ロベルタが俺の予想を上回る発言をした。

 流石に今出会ったばかりの女の子の家にお世話になる程図々しくは無い。情報が得られればそれで良かったのだ。


「い、いや、流石にそれは……」

「でも、当ては無いんでしょ?」


 俺が遠慮しようとするが、言い切る前にロベルタが訊いてきた。

 確かにロベルタの言う通り、俺に当てなど無い。だが、だからと言って世話になる訳にはいかないのは確かだ。


「で、でもそれは流石に申し訳……」

「私の家の家訓はね、『困っている人がいれば手を差し伸べろ、そうすれば巡り巡って自分に返ってくる』なの。ユウヤは今困ってるでしょ?」


 ロベルタは又もや俺の台詞を遮って、強引に手を掴み、町の方に走る。

 俺はロベルタを止められないと思ってとりあえず付いていくのだった。


………

……


「……と言う訳でユウヤを暫く家に泊められませんか?」


 町の一角にある家に入った俺とロベルタはロベルタの両親らしき2人と対峙していた。ロベルタと同じように空のように澄み切ったパステルブルーの瞳にロベルタ以上に伸ばしたモーベットの髪を首元で一つに纏めて前に垂らしている女性と、情熱の籠もったアジュールブルーの瞳と濃藍の髪をタオルで巻いている男性。


「「あぁ(えぇ)、勿論良いぞ(わよ)。困った人には手を差し伸べるのが家の家訓だからな(ね)。」」


 始めは娘が男を連れて来た事にあたふたしていた2人だったが、事情を聞くと何の躊躇いも無く、声を揃えて歓迎の意を表した。


「で、でも……迷惑じゃないですか?やっぱりお世話になるのは……」

「子供が大人の好意を受け取らないで如何する。」

「私達は迷惑だなんて少しも思ってないのよ。寧ろ、ロベルタが連れて来た男の子だもの、ちゃんとお持て成ししたいわ。」


 ロベルタと同じように俺の台詞を遮る2人。もう俺がお世話になるのは確定な雰囲気だし、ロベルタも両親も意志は固そうだ。


「ありがとうございます。

 俺は北条悠哉と言います。暫くの間ですが、お世話になります。」


 泊めて貰う以上、挨拶と礼儀はしっかりしなければならない。俺はロベルタの両親に深い御辞儀をした。


「俺はオリヴァー・サリバンで、彼女がミア・サリバン。よろしく、ユウヤ。」

「さっさっ、こんな所で立ち話は何だから入って。」


 ミアさんに招き入れられて家の中に入る。家の中は中世ヨーロッパの様な建築様式になっていた。現代の様なエアコンやテレビといった電気家具は物は一切無い。


「ユウヤくんは記憶喪失何だっけ?」


 リビングのソファーに勧められて俺、ロベルタが座り、机を挟んだ反対側のソファーにオリヴァーさん、ミアさんが座る。


「……はい、自分の名前は覚えていますが、どうやって来たのか、何処から来たのか、此処が何処なのか……」


 俺は目を伏せた。記憶喪失の振りをするためでもあるが、こんなに優しくしてくれたサリバン一家の3人に罪悪感を感じたのが1番の理由だ。


「そう……なら、記憶が戻るまで好きなだけ家にいれば良いわ。何なら、ずっと家にいてくれても良いのよ?」

「いや、そんなにお世話になる訳には……」

「あぁ、そうだな。ロベルタが連れて来た男の子だ。これから長い付き合いになるかもしれないしなぁ。」


 サリバン夫婦は人の話を聞いていないのだろうか。とんとん拍子で話が進んでいく。


「ロベルタ、ご両親に俺の話を聞くように……」

「父様も母様も長い付き合いになるかもって、ユウヤと私はそんな関係ではありません。」


 若干、顔を赤らめながら両親の言葉を否定するロベルタ。さっきの添い寝の事を思い出したのだろう。

 結局、ロベルタも俺の話を聞いてなかった。1番の当事者である俺を置いて3人だけで盛り上がっている。


「あ、あの……お世話にあるのでせめて何か手伝わせて下さい。」


 3人に聞こえるように大きめの声で3人の話を遮る。


「う~ん……だったら、家は鍛冶工房を営んでいるからそこで手伝って貰おうかな。因みにユウヤはステータスカード持ってる?」

「……ステータス、カード?」


 俺は聞いたこと無い単語に鸚鵡返しをして、首を傾げた。


「自分のステータスが表示されたカードなんだけど、ポケットとかに入って無かった?」


 ステータスカード何て物は間違いなく、地球には実在しない。ゲームやアニメの想像上の物だ。益々、現状が判らなくなった。

 とりあえず、服を探ってみるが、勿論そんな物は無い。


「まぁ、ステータスカードは冒険者ギルドで発行出来るから問題無いか。」


 又もや地球上には実在しない単語が出てきた。


「じゃあ、冒険者ギルドに行きましょう。私もユウヤのステータス気になるしね。」


 ロベルタが嬉しそうに俺の腕を掴む。


「その前にユウヤくんの傷を治してからにしましょう。服もボロボロだわ。旦那の昔の服が残ってる筈だから。ロベルタ、ユウヤくんに回復魔法をかけてあげて。」


 ミアさんは立ち上がって着替えの服を取りに行く。

 ロベルタは返事をすると俺の腕を放して、俺に向けて手を翳した。


「万物を癒す天の輝きよ、我が根源たる力を以て、かの者の傷痍を癒やし給え “治癒の光(ルス・ヒール)”」


 と、次の瞬間、ロベルタの翳した手に魔法陣が形成され、俺の身体が彼女の瞳の色と同じパステルブルーの光に包まれて、身体中にあった傷が治っていった。

 暫く呆然とする俺。だって、傷が見る見るうちに塞がっていくんだよ?現実じゃ有り得ない事が俺の身に起こっている。


「……えっ?い、今のって……」


 俺は未だに呆然としたまま。


「今のは初級回復魔法。私は回復魔法に適性があるの。」


 今、ロベルタが魔法と言った。

 地球で使える筈の無い魔法。空想上の概念。まさにファンタジーだ。良く考えてみれば、この町の風景も如何にもファンタジー小説とかで出て来そうな雰囲気だったし、ステータスカードとか冒険者ギルドとかも同じ様にファンタジー要素満載である。

 つまり……


(……これはあれか……異世界転生って奴か!?いや、どっちかって言うと、転移か?…でも、そんな事があり得るのか?……だけど、確か……俺が意識を失う直前、魔法陣ぽい物はあったよな。あの魔法陣が発動したからか?でも俺は魔法の使い方何て知らないし……抑も、ロベルタ達は日本語喋ってるし……)


 新しい情報を得る度に疑問がどんどん増えていく。


「……ユウヤ?……ユウヤ……大丈夫?」


 ロベルタは思考に没入していた俺を心配そうに見つめる。


「……あ、あぁ……大丈夫。

 それとありがとう、ロベルタ。さっき会ったばかりの俺に手を差し伸べてくれて。回復魔法もかけてくれた。本当に、ありがとう。」


 俺は本心で本当にそう思っている。ロベルタには感謝の念しかない。だから、社交辞令の笑顔では無く、自然の笑顔を俺は無意識に浮かべた。


「……どう、いたしまして。」


 顔を真っ赤に染めたロベルタは語尾が窄んでいった。


「ユウヤくん、服、旦那の古い奴しかないけど、これ使って良いからね。」


 リビングの奥の扉からミアさんが服を持ってきてくれた。

 服は現代の服と変わった様子はあんまり無い。手触りも柔らかく、サイズも少しだけ大きめな程度。


「ミアさん、ありがとうございます。何処で着替えれば良いですか?」


 俺は服を手に取りながらお礼を言って、着替える場所を聞いた。ロベルタもいるし、リビングで着替える訳にはいかないのだ。


「あら……()()()()()()()着替えたって良いのよ?ユウヤくんだったら大歓迎だわ。」


 ニマニマとにやけながら変な所を強調したミアさん。

 そして、その言葉に顔を真っ赤に染めながら反応する人が1人。


「か、母様ぁ!!ユウヤとはそういう関係では無いと言いましたよねっ!!」

「そうかしら?ユウヤくんはそうかもしれないけど、貴方はそんな事無いんじゃ……」

「な、なななななな何を言っているんですかぁ!!??」


 ミアさんはどうやらロベルタで遊んでいるようだ。ロベルタは気付いていないだろうが、ミアさんの表情は明らかにロベルタの反応を見て楽しんでいた。


「だって、さっきユウヤくんにお礼言われたとき、貴方、乙女の顔を……」

「してませんっ!!!」

「あの、結局何処で着替えれば?」


 母娘の仲が良いのは良い事だが、俺は今ずぶ濡れの制服を着ているので早く着替えたい。


「あら、御免なさい。2階の突き当たりに来客用の部屋があるから、ユウヤくんの自由に使って頂戴。」

「何から何までありがとうございます。」


 俺は再度お礼を言って、階段を上がる。「ロベルタの部屋」「オリヴァー&ミアの部屋」と見たこと無い文字で書かれた扉を通り過ぎて、突き当たりにある何も書かれていない扉を開けた。

 部屋の中は家具が綺麗に整頓されていて、窓から差し込む光が部屋全体を照らしている。掃除も定期的にされているようで塵1つ無い。

 俺はずぶ濡れの制服を脱いで、渡された服に着替える。少し袖や裾が長いが、生活する上では問題無い。なんかゲームの世界に入った気分だ。


「ユウヤー、冒険者ギルドに行こう?」


 下の階からロベルタの声が聞こえて、俺は制服をハンガーに掛ける。


「はいはい、今行くからぁ。」


 俺はそう言って、1階に降りた。


………

……


「なぁ……何でロベルタは俺の横で寝てたんだ?」


 真上まで昇った太陽?の光を浴びながら俺とロベルタは並んで歩いていた。目指すのはこの町の冒険者ギルド。俺のステータスカードを発行するためだ。

 ロベルタは案内役でもあるが、俺のステータスが気になる御様子。そんなルンルンなロベルタに俺はずっと疑問だった事を口にした。


「……えっ!?……何でって……何が?」


 ロベルタは俺の疑問に対して疑問で返し、気まずそうに視線を俺から逸らした。


「何が?じゃなくて……何で会ったことも無い俺の隣で寝てたのかなぁって。普通、知らない人の隣で寝たりしないじゃん。」


 しかも、俺は男で服もずぶ濡れ。あからさまに不審者だ。そんな不審者の隣で無用心に寝る人なんているのだろうか。


「い、いやぁ……暇だから散歩してたら、あの丘で寝てるユウヤを見つけてね。気持ち良く寝てたから私も段々眠くなってきちゃって、何時の間にか……」

「寝ていた、と。」


 俺の呟きを「うんうん」と肯定するロベルタ。


「気を付けてね、ロベルタ。君みたいに可愛い子が無防備に寝てるとそのうち誰かに襲われるよ?」

「……か、可愛い!?」


 俺の発言に顔を赤く染めるロベルタ。ロベルタは直ぐに表情をコロコロと変える。見てても飽きないからミアさんがロベルタで遊ぶのも頷ける話だ。


「そう言えばさ、ステータスカードって何が表示されるんだ?」


 俺はロベルタを弄るのは辞めて、真面目な話題に変えた。


「ステータスカードに表示される項目は知力、筋力、体力、防御力、魔法力、魔法防御力、敏捷力、魔法、スキル、装備の10つ。そのうちの知力、筋力、体力、防御力、魔法力、魔法防御力、敏捷力の7つは数値で表示されるの。

 知力は頭の良さ、筋力は力の強さ、体力は粘り強さ、防御力は体の堅さ、魔法力は魔力の保有量、魔法防御力は魔法に対する堅さ、敏捷力は体の素早さを表していて、『1』が最低位魔物のステータスの数値なの。人間の平均は夫々の項目によって変わるけど、大体500位かな。

 魔法とスキルはレベルがあってレベルを上げるとより高度で大規模な干渉が出来るわ。」


 ロベルタが一気に説明した。

 だが、この説明だけでは不十分だ。疑問も幾つかある。ロベルタもそれが分かっているのか、質問しても良いよみたいな視線を送ってきた。


「最低位魔物って何なの?」

粘魔妖(スライム)よ。この辺の森にもいるけど、人間の子供でも1擊で倒せる程弱いわ。偶に変異種(ユニーク)って言う強いのがいるけどね。」

「魔法とスキルの違いは?」

「魔法は魔法陣と詠唱をする事で魔力を操作するけど、スキルは魔法陣も詠唱も必要無いわ。抑も、スキルは魔力を使わないからね。スキルは鍛冶スキルや隠密スキルなんかがあって、本人の技量が要になってるの。

 ……あ、此処がこの町の冒険者ギルドよ。」


 ロベルタが指差した場所には他の建物よりも大きい立派な建物が建っていた。本当にゲームに出てくる冒険者ギルドのよう。入口の上にはでかでかと見たこと無い文字で冒険者ギルドと書いてある。

 そのまま、ロベルタは何の躊躇いも無くその入口の扉を開ける。中は奥に窓口らしきカウンターが設置されていて、俺達から見て左川の壁にクエストボードらしき物が、反対側に飲食店のカウンターがあって、中央にテーブルが規則正しく置かれていた。恐らく、冒険者ギルドは飲食店も併設されているのだろう。

 ロベルタは迷うこと無く、奥の窓口カウンターまで歩き、俺はロベルタについて行く。


「ミンさん、彼にステータスカードの発行をして欲しいんですが……」


 ロベルタが話しかけたのは端っこの窓口カウンターで机に突っ伏していたスチールグレーの髪をボサボサにした男性だった。果たして、窓口の仕事をする気があるのだろうか。

 その男性はロベルタに話しかけられて、ゆっくりと顔を上げる。


「……あぁ、ロベルタちゃんか……彼って言うのは隣にいる……ロベルタちゃん、やっと彼氏出来たの?」


 ぼけぇっとした表情で気力が抜ける様な声。海松色の瞳は疲労で濁っており、目の下にはくっきりと隈があった。


「ミ、ミンさんっ!母様と同じ様な事言わないで下さい!!ユウヤとはそんな関係ではありません。」

「ふ~ん……ロベルタちゃんの彼氏はユウヤくんと言うのか。君、この町1番の美少女をゲットしたんだ、泣かせたりしたらこの町の男性全員を敵に回す事になるから、大事にしろよ。」


 ミンさんと呼ばれた男性はロベルタの言い分に耳を傾ける事無く、俺に話しかけてきた。


「俺はロベルタの彼氏ではないんですが……北条悠哉です。」

「……あぁ、俺はミンミン・ダッハー。ミンで良い、よろしくな。」


 彼の名前を聞いて、真っ先に徹夜する時に飲む強烈なカフェイン入り飲料が思い浮かんだ。見た目からしても実際に飲んでいそう。


「……で、ユウヤくんにステータスカード発行するんだっけ?えっとぉ……ステータスカード何処に置いてあるんだっけ……」


 ミンさんは窓口の奥に入ってごそごそとステータスカードを探し始めた。此処でもない、彼処でもないと探し回っている。


「……あぁ、此れだ此れ。」


 ミンさんがステータスカードを探し始めて5分程経って、漸く奥から戻ってきて俺に1枚の金属製のカードを渡した。そのカードは表にも裏にも何も書かれていない。


「このナイフで自分の指をちょっと切って血をカードに垂らせば、自分のステータスが表示される筈よ。」


 ロベルタの説明を聞いて、俺は窓口カウンターに置いてあった小さいナイフで自分の指を切ってカードに血を垂らす。1滴の血がカードに落ちた瞬間、血がカードに広がるように波紋を広げ、文字が浮かび上がってきた。


「おぉ……凄ぇ、どういう原理なんだろう……」

「このカードには、解析スキルが付与されていて垂らされた血をそのスキルが解析して表示してるの。」


 俺の呟きに丁寧に説明してくれるロベルタ。

 本来ならミンさんが説明しないといけないのでは?と思うのだが、ミンさんは既にカウンターに突っ伏して寝息を立てているため、それを口に出す事はしない。


「で、ユウヤのステータスはどんな感じ?」


 俺はロベルタと共に文字が浮き上がったステータスカードに目を向けた。






--------------------

北条悠哉(ホウジョウユウヤ) 17歳

種族:人間

誕辰:7月25日

血液型:O型

知力:12,580

筋力:820

体力:760

防御力:470

魔法力:1,250

魔法防御力:430

敏捷力:1,610

魔法:火炎魔法(Lv.1)、水流魔法(Lv.1)、気流魔法(Lv.1)、石巌魔法(Lv.1)、清浄魔法(Lv.1)、汚穢魔法(Lv.1)

スキル:純愛スキル(Lv.90)、意思疎通スキル(Lv.23)、水流耐性スキル(Lv.15)

装備:普通の服(Lv.100)

--------------------






「ち、知力が12,580!?ユウヤどんな頭脳してるの?王国筆頭博士でも5,000位なのに……それに敏捷力も平均を大きく超えてる……魔法もLv.1とは言え、全7属性中6属性に適性があるし。ユウヤ、本当に何者なのよ……って自分でも覚えてないんだった。」


 恐らくこの世界は魔法が発展したため科学があんまり発展していないのだろう。俺がバリバリの理系高校生だったのも相まってこの世界では無類の知力を有していると言う事だ。それに、俺は体を鍛えていたから筋力や体力が平均より高いのも頷ける。特に短距離走は自信があったから敏捷力が高いのはそのお陰だろう。

 だが、魔法力の数値が高いのは疑問だ。地球では魔法何て使えるわけが無い。だからステータスを見るまでは、魔法力が0であるという可能性は充分に考慮していた。だが、蓋を開けてみれば平均の二倍近い量を保持していたのだ。


「……と言うか、知らない文字なのに読めるってどうしてだろう?今思い出せば、ロベルタの家の部屋の扉に書かれてた文字も冒険者ギルドの看板の文字も何でか読めたし……」

「あぁ、それはスキルにある意思疎通スキルの効果ね。言語や文字が異なっていても理解出来るようになるスキルよ。

 その言い方だとユウヤのいた国はヴィッカー王国じゃないようね。」


 それならば、此処が異世界でもロベルタやこの町の人と会話出来る訳だ。だけど、何故このスキルを所持しているのかという疑問が新たに出てくる。もう1つの水流耐性スキルは海に落とされたから獲得したのも頷ける話だ。純愛スキルは……良く分からん。

 それにこの意思疎通スキルがあれば英語で必ず100点を取れる。だが、俺は高校入学してから行った7回の試験で英語満点を取ったのは4回しかない。まぁ、そんな事気にしても仕方が無いだろう。


「そう言えば、魔法の詠唱とかって俺知らないから誰かに教わらないとだね。」

「その必要は無いわよ。」


 俺の呟きに対して即座に否定したロベルタ。


「ステータスカードの魔法の欄をタップすると、各魔法の詠唱や効果が表示されるわよ。」


 俺は試しにステータスカードの魔法の欄にある火炎魔法をタップすると、ステータスの表示は消えて代わりに火炎魔法の詠唱と効果が表示された。


「最初は初級魔法しか使えないけど、熟練度を上げてLv.30を超えると中級魔法、Lv.60を超えると上級魔法、Lv.90を超えると最上級魔法が使えるようになるわ。あと、Lv.100になるとレベルはリセットされるし詠唱も長くなるけど、上位魔法が扱えるようになるわ。」

「……詠唱しないと魔法って使えないの?」


 正直、17にもなって厨二病ぽく詠唱するとか俺にとってはハードルが高い。でも、折角6属性に適性があるのだから魔法は使ってみたいと思うのは当然の事だろう。


「魔法陣さえ展開出来れば詠唱無しでも魔法は使えるけど、威力や強度が低いから不意打ちや速攻攻撃の時に使う人が多いかな。戦闘職以外では使う人はあんまりいないわね。」


 とりあえず、詠唱無しでも魔法を使える事に俺は内心安堵した。


「因みに、ロベルタのステータスはどんな感じ?」


 俺は興味本位でロベルタに訊いた。他の人のステータスがどれ位なのか知りたかったからだ。


「他人にステータスを訊くのはマナー違反だよ?」

「……俺のステータスをガン見してた人が言う台詞ではないね。」


 白々しく言うロベルタに俺はジト目を向けた。俺のステータスだけ見て自分のステータスは見せないと言うのは不公平ではないだろうか。


「もぅ……そんな目で見ないでよ。見せないとは言ってないでしょー。」


 ロベルタは不貞腐れたような表情を浮かべながら俺にステータスカードを渡してきた。元々、見せるつもりではあったようだ。






--------------------

ロベルタ・サリバン 15歳

種族:人間

誕辰:12月9日

血液型:A型

知力:1,180

筋力:400

体力:640

防御力:390

魔法力:570

魔法防御力:830

敏捷力:460

魔法:回復魔法(Lv.47)、清浄魔法(Lv.24)

スキル:家事スキル(Lv.41)、鍛冶スキル(Lv.32)、鑑定スキル(Lv.25)

装備:普通の服(Lv.100)

--------------------






 スキルにも色々な種類があるようだ。ロベルタは主に生活で役立つスキルを習得している。


「ユウヤのステータスは知力や敏捷力が飛び抜けているわ。此だけのステータスなら何処かの国の学舎に通っていた可能性が高いわね。

 ま、それは追々考えるとして……それじゃあ、帰ろっか。」

「そうだね。丁度お昼時だし。」


 俺は空腹感を感じながらロベルタと共にサリバン家に帰るのだった。






          to be continued……

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