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理不尽料理人~Eat Them All!~  作者: SS二等辺
第一章~料理人とお嬢様~
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008~ウィレム日記~

この世界の価格は、十倍だと思ってください。

100ドゥート=1000円 という感じで。

 お嬢様の入った樽を宿屋へ預けて次に向かう先は、この町の守衛の一人であるケッチのところである。




 ケッチはウィレムの守衛だが、裏ではグローチス子爵に陰で仕える存在なのである。特命係という、胡散臭い名前の諜報を担う職らしい。


 らしい、というのは、俺が特命係というグローチスの暗部を正確に把握していないからだ。

 諜報を専門とする部署だけに、俺が長年に亘ってライデン王国で築き上げた草の根ットワークを用いても、全貌がつかめない。

 その精強さはライデン王国で最上位に位置するんじゃないかなって俺は考えている。何処で見張られているか見当がつかない……怖いなあ。


 で、今からその胡散臭い部署に属しているであろうケッチのところへ赴いて、此度の襲撃に関して情報を共有しに向かうわけだ。

 あいつは休日だと家で過ごしているはずだ……というか過ごさなきゃならないんだよね。

 緊急事態が発生した場合、確実に連絡が取れる態勢でなければ初動が遅くなり、それが致命的な事態を招きかねないからだ。

 実質的に休日が存在しないのでは……?と思うのだが、その分だけお給金貰っているだろうという事にしておく。お勤め先の待遇は関係ないからなあ。


 そんな感じの益体ないことを考えているとケッチの家へたどり着いてしまったので、木でできた扉にノックをする。

 扉の向こうから誰何(すいか)の声が聞こえたので俺の名を名乗ると、(かんぬき)を外す音がして扉が開かれたのでさっさと中へ入る。早いところ用事を片付けて、宿屋に戻りたいからな。






 ――30分も経たずケッチとの話し合いを終えた。

 お嬢様が襲撃され、俺が宿屋で匿っている話をしたら大層驚かれた。

 寝耳に水だったようで、急いでヘルデルスタッドへ遣いを送る手配をし、俺が進めている害虫駆除計画をケッチ自ら手助けしてくれることになった。

 動ける人間が増えると非常に助かるので、大いに頼らせてもらうことにする。動く人間が一人から二人になって、害虫駆除が著しく楽になりますなあ……




 暗くなる前に宿へ戻ると、屋台で準備をする。

 これの出番が無ければ良いのだが、用意して損することは無いので準備しちゃう。夜になって真っ暗な中だとやりにくいからね。明るいうちに出来ることはやっておくに限るのだ。


 さて、屋台の準備に移ろうか。

 まずは屋台のかまどに薪を大量に入れて、大きな鍋に水をたっぷり入れてかまどの上に載せておく。火はまだおこさない。

 次に、大きな木のボウルにトウガラシの粉末をたっぷり入れた後、蓋をしてサイドテーブルに置く。

 最後は、今用意した物以外の物品を、屋台から降ろして宿屋へ運び入れる作業である。

 これが一番時間のかかる作業だ。屋台を使うことになった場合、使わない物品はただの重しになってしまうので、宿屋の倉庫へ預けておく。


 屋台の準備もこんな感じでパパッと終えてしまったのだ。

 ……と言っても、終えるころにはすっかり陽が落ちてしまっており、街の明かりが無ければ真っ暗の状態だ。




 手早く外での準備を終えた俺は、夕飯を食べるため宿屋の食堂へ向かうことにする。

 今日は動き続けて自分で作る暇が無かったので、食堂で腰を据えてゆっくり夕飯を食べよう。

 事が起きた場合、ひょっとすると今日休めるのはこれが最後の機会か……?俺、働き過ぎじゃない?

 面倒事ってホント勘弁してほしい……




 俺は食堂に着くと厨房へ一番近い席に座り、厨房で動き回るダナンに注文を入れる。


「親父、定食を1つ頼むよ」


「自分で飯を作る暇が無かったみてえだな、すぐ出来上がるから待ってな!」


 注文を終えて食堂を見回せば、席の半分が埋まっている。

 酔っぱらいの声で声が通りにくくなる前に、俺は仕掛けることにした。


「そういえば、ブルージュから来る途中で()()()したんだよ」


 ……不思議そうな顔すんな!話を合わせろ!

 ダナンが気付くよう誘導を試みる。


「亜麻色の髪が長い綺麗な女の子でさ、この町の手前でウロチョロしてたから拾って来たんだよ。 女将さんが宿の受付をしてくれたから、親父は知らなかったんだろう」


 お、納得した表情に変わったぞ。意味が通じたようだ、一安心だ。


「へぇ~、珍しいことだなァ。 ……相部屋にしたのか? つけこんで股を開かせるんじゃねえぞ、このスケベ!」


 酷い言われようである。お嬢様のお世話で迷惑をかけている自覚があるので、強い反論はしないでおく。

 あと、演技臭いので少しハラハラしたりする。俺自身も演技臭くないか心配だなあ。


「んなことするか! ただ、ちょっと身体が弱ってるみたいでさ、後で胃に優しい食事を運んでくれるか? 部屋は2階の一番奥でとってある」


「おうわかった、後でカミさんに運ぶよう伝えておくぜ! ……お前さんも腹が減っているだろう、先にスープとパンを出すぞ」


 長年接客業を営んでいるだけあって、俺の空腹をそれとなく察して料理を渡し、自然と話を打ち切る。

 伝えることを伝え終えれば、ボロを出さないうちに黙るのが一番いいからなあ。




 さて今の会話。大声でやり取りをしたので、食堂で酒や食事を楽しんでいる客の殆どが聞こえたはずだ。


 今やったことは襲撃の結果、捕らえた獲物は盗賊の下で管理されているかと思ったら……実は宿屋にいるっぽいぞ!?と害虫が思うような情報を流したのである。

 慌てた害虫は確認と同時に獲物の確保を行うため宿屋へ手勢を差し向ける……ようにわざと仕向けたわけだ。上手くいけばいいなー、そうすれば面倒事を手っ取り早く潰せて俺の平穏が戻ってくる……はずだ。


 害虫の手勢がいなかったら?

 その時は宿屋でお嬢様を匿ったまま、俺が囮となった部屋で神経をはりながらヘルデルスタッドからの救援を待つだけである。完璧だと思いたい。


 そんな取り留めもないことを考えながら鶏肉と根菜のスープを啜り、優しい味わいが美味いな、と感じながら主菜が来るのを待つ。




 今日の夜に向けて、しっかり腹を満たしておかないとな――

次回から、料理人の理不尽攻勢が始まります。

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