003~玉ねぎと干し肉のスパゲティ~
お手軽スパゲティを作るお話です。
オイルソーススパゲティは基本的にお手軽なので、
自分は頻繁に作ります。
中華鍋に干し貝柱と水を入れ、薪を追加したかまどの上に置く。
「お嬢さん、夕食は食えそうか?」
毛布を敷いた長椅子へお嬢様を誘導し、水を入れた木のカップをお嬢様に手渡し俺はたずねる。
今になって喉がカラカラに乾いていたことに気づいたらしきお嬢様は、椅子に座るより先にカップを口元へ寄せ、一息に飲み干した。
「全力疾走の後に飲む水は生き返るよな。お代わりいるかい?」
俺は頷いたお嬢様からカップを受け取ると、水を入れ直し、またお嬢様へ渡す。
一杯目に比べ、二杯目は上品さを漂わせる所作で、お茶を飲むようにゆっくり飲んでいる。
夜の帳が下りていき、薄暗くなる平原の中、長椅子へ腰かけ淑やかに水を飲む裸足のお嬢様……
その情景に、ぐつぐつと、湯の沸く音が静かに周囲へしみるように響く。
うん、喧騒を逃れたお嬢様が牧歌的な日常に浸るような光景、絵になるなあ。
この情景に沿う料理を作るとすれば……そうだった、夕食の相談をするんだったわ。
「落ち着いたところでもう一度聞くが、夕食はどうする?食えそうなら準備するが。」
「お気遣いありがとうございます、是非与りたいです。」
「わかった。水が足りなければ屋台の後ろにある水樽から好きなだけ使ってくれ。」
盗賊を連れてきてしまった立場ではあるが、腹をすかせた状態ではお嬢様も落ち着いて話し合うことができないだろう。
加えて、せっかく料理を作るのだから、旅料理を二人で共に食べるのも悪くない。
そうと決まれば手早く作ることにしよう、無駄に動いて俺も腹が減ったしなあ。
まずは、沸騰したお湯に塩とスパゲティを二人分入れ、茹で始める。
次に、干し肉と玉ねぎを追加で刻み、油を足したフライパンへ入れ、かまどの上へ。
焦げないように火加減を調整しながら加熱していくと、食欲をそそる良い匂いが立ち込めてくる。
毎回思うが、玉ねぎと肉が焼ける匂いはズルイよな。お嬢様もソワソワし始めた。
具に火が通ったところで中華鍋のゆで汁を、おたまを使ってフライパンへ移し、塩と胡椒を入れた後、軽く煮立たせたところでフライパンを火から外す。
この時、フライパンの油とゆで汁を1:1の割合にするのが、オイルパスタソースを上手に乳化させるコツだ。
パスタソースが出来上がる頃スパゲティが茹で上がるので、お湯からスパゲティを引き揚げフライパンへ移す。
仕上げにフライパンを十数回あおってスパゲティにパスタソースを絡めれば、旅のやっつけスパゲティの完成だ――
良い匂いにあてられ、待ちきれなくなったお嬢様に盛り付けたスパゲティを渡した俺は、ゆで汁の残りに水を足した後、干し芋と特製ミックススパイスを入れる。
最後に燃える薪をいくらか抜いて弱火にし、ゆっくりと煮込む。
これは食後のスープになり、残りは朝温めれば、朝食でパンと一緒に食べるとこれまた美味しい……
温めるだけで済む美味しい食事は、忙しない朝にささやかな幸せを齎してくれる。
そう感じるのは俺だけだろうか?
スープの仕込みを手早く済ませた俺は、お嬢様の座る長椅子へ腰かける。漸く座れるわ……ん?
お嬢様がまだ料理に手を付けてないな。
「お嬢さん早く食べな、スパゲティは冷めると途端にまずくなるからな。」
「そのぉ……私が先に手を付けて良いものか悩んでいました。いただきますね。」
律儀で礼儀正しいねえ、少しだけ見直したよお嬢様。
「おう、遠慮しなくていいぞ。お代わりは無いがパンと食後のスープがある。欲しかったら言ってくれ。」
夢中でスパゲティを食べるお嬢様を視界から外して、俺も夕飯を食べるとしよう。
食事を終えたら聞きたいことが沢山あるしなあ……
ん?お前らも何か食いたい?目と鼻も洗いたいから水をくれ?
ダメに決まってんだろ!
ダボハゼ盗賊は大人しく黙って縛られとけ!