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雑魚キャラに転生しても  作者: ばなむ
2/3

2話 見えてきた現実


見知らぬ女性の乳房を(無理やり)吸う苦行を迎えはや10年が経過した。


そこは30世帯ほどの集落。

周りは森で囲まれ村人は畑を耕しその日暮らしの生活を営んでいた。

その片隅でクヤンはひとり剣に模したクワを振り稽古に勤しんでいた。

陽が強く皮膚をじりじり焼いているのが分かる。こんな日は室内で練習するのが良いだろうがそうはいかない。なんせうちは超貧乏ボロボロ屋敷で前世の俺の部屋ほどの狭さだ。剣を振れば何かしらに当たる。

それでも僕がこの日照りの中で剣を振るのには理由があった。


「あら 今日もクヤン君は稽古? 偉いわね〜」


近所のローおばさん。小さい頃から面倒見てくれてる。


「うん 畑仕事も済んだし暇だったから」


「頑張りすぎないようにね 体を壊したら元も子もないんだから」


そう言い残してローおばさんは去っていく。そして僕は小さな声で呟く


「それでも無理しなきゃいけないんだ…」


この世界は死が軽い。

そう感じたのは3歳になった頃だった。親父が戦争に行ったっきり帰って来なくなった。母は当時とても落ち込んでいたが1日経てばいつも通りの母になっていた。

あまり愛し合っていなかったわけではない。1番近くで見てたからよく分かる。


これはしょうがない事なのだ



この世界の男子は16歳を越えると強制的に帝都に集められ5年にわたる訓練を積んだのち戦争に駆り出される。

父は5回目の出兵で命を落とした。

周りはよく生き残った方だと言う。

それから色んな事を母に聞いた。

世界の情勢。貨幣。常識。

僕はこの世界の事をよく知っていた


前世のゲームタイトル

"四国無双" の世界。


そして僕は


主人公たちがゴミのように蹴散らす有象無象の"雑魚キャラ"に転生したのだ






♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




"超級" …それは王族や貴族から生まれ一国に10名しか生まれない高貴な存在。

"平級" …超級じゃない者たちの総称。

備考 一般的に"平級1万人"に対し"超級1人"で同じ戦力と言われる。

これがこの世界の常識。紛れもない真実である。


「そんな事ーーー」


知ってるよと言いかけてやめた。

スルスルと絵巻の帯を締め棚に戻す。

現在タクヤは15歳になっていた。今年で16になる。


「おお ついにわしの全ての書物を網羅したのか さすがはクヤンくんじゃのぉ」


そう言うのはチャングおじいさん。目は垂れ胸元まで伸びた髭は色を失っている。この村の村長で家には大量の書物を保管しており僕は2年前から読み漁ってようやく今日全ての書物を読破した。


「ああ 知識は宝だからな チャングじい今までありがとう」


「いいんじゃよ お前はこの村の宝じゃからな うちの孫娘はお前にーーー」


「おじいちゃん!!」


奥の部屋から村1番の美少女であり村長の孫娘が言葉を遮ぎった。腰まで伸びた綺麗な赤髪が乱れている。

僕が声をかける


「やあ リン ごきげんよう」


「…」


ガン無視である


「おお リン今お前の話をーー」


「おじいちゃんこいつの前で私の話題は出すなって言わなかった?ボケてるとか言い訳にならないから」


僕に指差し彼女が言う


「……………………ほほほ…………」


チャングじいさんの横顔を見るとすでに色を失った髭がさらに薄くなっていた気がした。

ってかなんで怒ってんの?


「ってかなんで怒ってんの?」


「…ハ?」


しまった。つい思った事を口にしてしまった。女性に怒った理由は聞いちゃいけないってどっかの記事で読んだ気がする…

案の定リンはクヤンを睨みつける。


「ウチの本全部読んだんでしょ じゃさっさと帰ってくんない? ジャマだから」


「リン お前またそんな事を…」


バタン!と奥の部屋に戻っていった。


「「………」」


しばらく沈黙を破ったのはチャングじいだった


「すまんのぉ 悪い子じゃないんじゃが」


「気にしてないよ いつもの事だし」


事実、彼女はクヤンとはあまり口を聞かない。僕の親友とは普通に話すのに僕だけツンケンした態度をとる。

心当たりがあるといえばある。

数年前の出来事だ。

彼女が僕と僕の親友3人で遊びに行こうと誘ってくれた事があった。その誘いを僕は剣の稽古を理由に断りそれから段々と今のような関係になっていったような気がする。

それからしばらく経って彼女は僕の親友と付き合い始めた。今思えばダシにされた感があるが当時は剣の練習にふけっていたため全く気にしてなかった。それに僕の親友は2個下で村1番の美少年だ。昔は弟のように接してきてたため2人が付き合い始めたと聞いたときはむしろ自分の事のように喜んだもんだ。


「そういえば もうすぐクヤンくんは帝都じゃの」


チャングじいがさっきにも増して悲しそうに喋る


「うん もう一週間後だよ それまでにチャングじいの書物を読み終えて正直ホッとしてる」


「一週間後じゃと?! いつもなら1ヶ月後に帝都から馬車が来るはずなんじゃ」


「ああ 今年16になるのは僕ひとりだから馬車が出ないんだ だから徒歩で行く事になったんだ… って村長なんだから知ってるだろ」


「あ あぁ…」


そういえばそうじゃった という仕草でチャングじいが髭を触る。

村長は村で最長寿だ。ボケが入ってない方がおかしい。

そしてしばらく雑談したのち村長宅を後にする。




実家に帰ると母が台所で芋を蒸していた。


「あらクヤン おかえりなさい!」


「ただいま 母さん」


母さんは僕が3歳のときから女でひとつで育ててくれた。本当にいい母親だ。感謝しかない。


「はいどうぞ! 今日はお肉をいれました! お母さん奮発しちゃいました!!」


えっへん!と胸を張るその姿は50近い年齢を思わせない。


「ありがとう 嬉しいよ」


「ふふふ そうでしょうそうでしょう たくさんお食べなさい おかわりもあるからね」


そうして一週間毎日肉の入った料理が出てきた。





出発当日の朝 日本時間だと5時くらいだろうか。日が登り始めている。

見送ってくれたのは母さんだけだ。それもそのはず。村長以外の村人には今日村を出る事を伝えていなかった。

大勢に見送られるのは少し嫌なのだ。


山道に繋がる村の門まできた。次に帰ってくるのは5年後。僕は振り返らずにまっすぐ帝都に向かうと決意を固め歩き出す。

だがその決意はあっさりと打ち砕かれた。


「ま まって!!!」


後ろを振り返ると早足で追いかけてくる少女の姿があった。赤髪の彼女は僕の目の前で息を荒くしている。


「リン?」


「ハァ… あんたが… ハァ… 今日村を出るって聞いて… 」


「見送りに来てくれたのか… ありがとうリン」


「なんで… なんで黙ってたの…」


「ん? だってみんなに見送ってもらったら振り返らずに帝都に行く自信がないしな」


ははは といって誤魔化すように頭を掻く。

そんな僕を彼女は笑わずまっすぐ見つめてくる。さっきまで荒かった息はいつの間にか落ち着きを取り戻しており。凛とした表情でただただまっすぐ。


しばらくの静寂が場を制する


「えーと… それじゃもういくよ」


「あっ …ええ」


彼女が視線を下にそらす


「ああ そうだ僕の親友と末長く幸せになってくれ 村1番の美男美女だからな きっと神様も祝福してくれるさ」


「…」


急に黙り込んでしまった。

まあ 昔は仲良く遊んだ仲だ。いくら今は犬猿の仲になってるとは言っても彼女にも思うところがあったのだろう。


「じゃ」


そういってクヤンは長い長い山道へと足を踏み入れ一度も振り返らずに去っていく。

そして姿が見えなくなった。


両手で胸を苦しそうに押さえつけしばらくするとリンの目からぽろぽろと涙が溢れた。


「……ちがう… 私が本当に好きなのは……… 」




寂しさと 後悔 による涙だった。




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