7
色々遠回りをしていたトールが王都へやって来たのは、レイナが王都を出るために馬車に乗った頃だった。
数年遅くなった分、甥っ子か姪っ子かはわからないが、その子供の分もたんまりとお土産を用意していた。
と言うのに、用事があって城から戻ってきたというアスターの母と遭遇したことで事態は一変した。
感動のとまではいかないが、それなりの再会を想像していただけにトールの衝撃はかなりの物だった。
アスターとその母の今までと、もう一人の妹分の置かれた現状、そしてレイナのこと。
元々深くは考えない上、気にしない質であるトールの許容量をはるかに超える事態が起こっていたのだ。
誰にも話さないという誓いなどどうでもいい、お願いだからレイナを探して守ってくれと、トールはアスターの母から懇願された。
子供の頃は、どこか冷たい感じがして、そして怒るととても恐かった近所のおばさんが、涙ながらに土下座をしてきたのだ。
大切な娘を、守ることが出来なかった娘を、助けてくれと、そう願われたのだ。
どういうわけか、世界はそんな風に出来ているらしい。
どういうわけか、世界は誰かが泣くように出来ているらしい。
何が悪かったのか。
レイナを捜しながら考える。
一体何が、どこで間違ったのか。
それを考える。
悪いのは、誰だろう?
悪者は、誰なのだろう?
アスターだろうか?
リトだろうか?
アスターの母だろうか?
それともレイナだろうか?
あるいは、大事な時に家族のように大事な人達の側に居られなかった自分だろうか?
トールにはわからなかった。
今、分かるのは妹のような存在だった少女が独りぼっちになってしまったということだ。
居場所を追い出され、きっと途方に暮れているに違いない。
リトといつも一緒だったから、少しでもお姉ちゃんらしくなるんだ、とがんばり屋だった彼女は、トールの中の記憶の中の彼女はとても泣き虫だったことを覚えている。
まだ、そんなに遠くには行っていないはずだ。
リトやアスターの見ていないところで、彼女は転んではベソをかき、悪ガキに虫やカエルなんかを投げられては泣いていた。
やり返すとか、リトだったらやっているだろうことを彼女は出来なかった。
それでも、お姉ちゃんらしくあることを目指して頑張っていた彼女のことを、トールは誰よりも知っていた。
彼女の弱さを、おそらくアスターよりも見ていたかもしれない。
転んで、膝を擦りむいて、泣きながら歩こうとしていた小さな彼女のことを思い出す。
彼女は、レイナはそういう人間だと知っているからこそ、早く見つけてやらなければいけないと思った。
レイナらしき女性が乗り合いの馬車に乗ったらしいというところまではわかった。
その乗り合い馬車の行き先もすぐにわかった。
一番近い街の一つだった。
同じ行き先の馬車にトールも乗り込んだ。
地図を広げて、確認する。
きっと傷だらけで、泣きながら、それでも彼女は前に進もうとするから。
だから、あの頃のように手を繋いでやらないといけない。
そこにあるのは、恋愛感情ではなくただの家族愛だ。
リトのこともそうだが、レイナのこともトールはそういう意味で昔から大事に想っていた。
誰にも弱音を吐かないからこその、彼女の危うさのような物も知っている。
実家のある村とは逆方向の馬車に乗ったことも、それを裏付けている。
家族のいる村ではなく、全くの逆方向に向かった。
理由はどうあれ、すぐに帰りたく無かったのだろうと思う。
無意識か意図的にかはわからないが、それでもレイナは実家に帰るという手をすぐに使わなかった。
レイナが向かったらしき街に着く。
しかし、すぐには見つからなかった。日もとっぷりと暮れてしまった。
数日滞在して、情報を集めながら滞在しようと決める。
適当な場所に宿を取って、翌日に捜査を再開する。
昼過ぎのことだ。
たまたま、病院から項垂れるようにして出てきた彼女を見つけたのだ。




