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 五年後。

 この、五年間の事を思い出す。

 不思議と楽しかったことしか思い出せなかった。

 嫌なことも言われた、嫌がらせもされたと思う。

 でも、それ以上にきっと幸福だったのだと思う。


 何もかもが知らないところで決められて、レイナは結局愛人という立場に置かれてしまった。

 アスターは、聖女であるリトを正室として迎えることになり、レイナが産んだ男の子と女の子の双子は、リトの子として発表された。 

 それだけではなく、レイナは子供達に実の母親であることを隠すように徹底された。

 子供達を奪われたことになる。

 アスターもリトも、義母も抗議したがこれは覆ることはなかった。


 母と名乗ることは出来ず、しかし、教育係として子供達の面倒は見るようにというある種残酷な扱いをされてもなお、レイナは子供と居られることに幸福を感じていた。

 それ以上を望むことは我が儘なように思えたのだ。

 捨て子だった自分は今の両親に愛され、育てられた、好きな人と一緒にもなれた、義母にも可愛がってもらえたし可愛い子宝にも恵まれた。

 何よりも、生きて子供達に接していられた奇跡に感謝をしていた。


 だから、幸福だった。

 きっと、幸福だった。

 しかし、それでも、溢れてくる涙を止めることは出来なかった。


 「こんなのってない」


 王都から追い出されることになったのだ。

 いきなりだった。

 城から派遣されてきた者達に子供達を連れて行かれた。

 そして、きっと一生使っても使いきれないだろう金品を渡された。

 所謂手切れ金であり、口止め料だ。

 義母も、急遽、今日城に呼び出されていたから、きっと前から用意されていたことなのだろう。

 義母とも会うことは出来ず、王となったアスターと王妃となったリトは外国を回る仕事のためここしばらく会うことはなかった。


 妹もアスターも、レイナのために子供は絶対に作らないと誓っていた。

 レイナは、リトとならそんなことは気にしないと伝えたのだが、二人は律儀にその誓いを守ってくれていた。

 それは嬉しくもあり、悲しくもあった。

 妹にはとても残酷なことをしていると思っていた。

 妹は、結婚はしていても子供を作らない道を選んだ。

 それも、レイナのためにだ。それが堪らなく悲しかった。

 それを知っているから、今回のことに二人もそして義母も関わっていないとわかっている。

 殺されなかっただけ、良かったとも思う。

 でも、こんな形で歪だけれど幸せな時間が終わるとは思っていなかった。

 こんな形で、自分の宝物である二人を奪われることになるとは思っていなかった。


 とぼとぼと、必要最低限の私物が入った鞄と、それなりに重い金品の入った鞄を持って王都から程近い街へと向かう乗り合い馬車に乗った。

 泣き腫らした目で乗ってきた妙齢の女性に、他の客達はすぐに訳ありであると察し、声をかけることは無かった


 とりあえず、その日は宿を取って早々に休んだ。

 子供達やアスター、リト、義母のことで頭がいっぱいだった。

 よく眠れたとはお世辞にも言えなかったが、それでも休んだことで色々と考えなければならないことがあることに気づいた。

 お金はあるから、食べるものにも寝る場所にも困らないだろう。

 しかし、これからどうしたものか。

 このまま実家に帰るという手もあるが、両親に心配はかけたくないし現状をきちんと説明できるかどうかも自信がない。

 かといって、田舎者のレイナは旅なんてしたことがない。

 お金は、ある。

 働かなくても、食べては行ける。

 しかし、それはなんだか気が引けた。

 生きていく上でお金は大事だ。

 まるで家族を売って得た金のようにも思えて、気分はよくなかったが、それでも大事なものだ。

 悩んで悩んで、それでも答えはでなくて。

 食欲もない。

 そう言えば、ここ最近体調も悪かった。

 と、そこで気づく。

 この体調の悪さは、かつて経験したものと似ていることに。

 そのことに気づいて、レイナの背筋は寒くなった。

 顔色も鏡に写っていたなら青ざめていたことだろう。


 「まさか」


 心臓が嫌な音をたてて、早鐘のように鳴っている。

 違う。きっと、違う。

 こんな時に、まさか。

 まさか、と思いながら、しかし彼女は医者ではない。

 だから、確証もない。

 それは、決してありえないことではなかった。

 

 レイナは、下腹部に触れる。


 「もし、そうなら、隠さなきゃ」


 二度目の妊娠の可能性。

 それを否定する材料はどこにもない。

 何故なら、アスターは可能なかぎりレイナと過ごす時間も子供達と過ごす時間も大切にしていたのだから。


 このことがもし、城へと伝わったらどうなるのだろう?

 それを真っ先に考えた。

 また、奪われるのだろうか?


 「いや、そんなの、嫌。

 もう、こんな想いなんてしたくない」


 これ以上、家族を奪われたくない。

 不幸中の幸いと言うべきか、彼女の手元には使いきれないほどの金があった。

 子供を成人するまで育てるために使ったとしても、きっとお釣りがくるほどの金があった。


 泣きながら、まだ確定していない懐妊であったがそれでも、母としてこれは確実に宿っているのだろうとわかった。


 昼に、宿の従業員に病院の場所をきいてそこに向かう。

 そして、今度こそ、他ならない医師に妊娠を告げられたのだった。

 


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