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そこに残されていたのは血だった。
蒼白い月の下でも、そうとわかるほどの鮮血だ。
この屋敷に侵入した者の血だ。
致命傷になっていても不思議ではない怪我を負ったはずである。
にも関わらず、その者はどこにもいなかった。
さらに、この屋敷に幽閉していた王妃も奪われてしまった。
ジェフィニスはその血に触れて、記憶を読み取ろうとする。
そこからわかったのは、侵入者がどちらも男であり、目的の人物ではなかったということだ。
そして、怪我をしたのが、王妃の息子である王子だったということ。
血の量の関係で細かいことまでは読めなかったが、それでも十分な情報が手に入った。
王子であるセージが傷をおった直後、別の侵入者がいたことがわかったのだ。それも、二人。
勘。もしくは第六感と呼ばれるそれで、ジェフィニスは別の侵入者達のどちらかが目的の人物ーー聖王だと知った。
ここに怪我を負った最初の侵入者の死体がなく、そして別の侵入者の存在。
これだけ揃っていれば、推測は簡単だった。
おそらく、最初の怪我を負った侵入者のもとに聖王がいるのだ。
ジェフィニスは術式を展開する。
そして、その術式のなかに真っ赤に染まった己の指を突っ込む。
これで、居場所が、現在地がわかるはずだ。
術式が変化し地図と、映像を写し出す。
地図には予想通り現在地が示され、映像の方にはまるで物語に出てくる美しい少女の姿があった。
銀色の髪に金の瞳。
愛くるしい少女だ。
もう数年もすれば、世の男性が放っておかない美少女となることだろう。
ケインにも良い報告ができる。
将来有望な美しさを持っている伴侶を手にいれることが出来るのだから。
しかし、この顔立ちどこかで見たような気がする。
それを思い出そうとする。
この銀髪の少女が誰に似ているのか、記憶をたどる。
しかし、思い出せそうで思い出せなかった。
***
「お、お兄さん?」
そこで、アルストレーナとレイは目を瞬かせお互いを見あった。
レイが珍しく少し動揺して、口を開いた。
「お姫様のお兄さんってことは、王子様ってことだよ、ね?」
何故かアルストレーナに確認するように聞いてくる。
アルストレーナはそれに頷きつつ、意識を無くしぐったりとしているその人物を見た。
(そっか、あの人がお兄さんなんだ)
オオグとエステルは黙ったまま目配せをしたかと思うと、オオグがアルストレーナとレイを振り返った。
「よし、ここはエステル先生に任せるからお前らついてこい」
言いながら部屋を出ていく。
レイは素直にその言葉に従った。
やんごとなき血筋が増えて、しかもかなり不敬かもしれない運び方をしたのでここから離れたかったのだろう。
一方、アルストレーナは後ろ髪を引かれる思いだった。
もう少し、ちゃんと顔を確認したかったのだ。
しかし、ここでは基本オオグ達教師に従わなければならない。
アルストレーナもオオグのあとを追いかけた。
三人はそのまま外に出る。
きょろきょろとオオグは周囲を見回す。
人気はなかった。
当たり前だ。ここは繁華街からそれなりに離れているし、娼館も近くにはない。
そこでレイは改めて、このやる気があるのか無いのかいまいちわからない教師がそれなりに生徒へ配慮をしていることを知った。
そんなことに感心していると、周囲に気配が生まれ始める。
「やっぱり囲まれたか」
そんなことを呟いた瞬間。
どこからともなく、ナイフが飛んできた。
それは真っ直ぐオオグに向かってきたが、彼はいつも通りのバーベキューの時のような動作で、そのナイフを人差し指と中指で挟んで止めた。
「よし、お前ら。コイツらを殺さずに倒せ」
やはりいつもの口調でそんなことを言った。
そして、続ける。
「上手に出来たら期末試験と夏期休暇の課題は無しだ」




