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 「あの、アルストレーナさん」


 ヴェルサス領内に入ったその日の夜。

 街道沿いにある、宿屋にてバジルは気になっていたことをアルストレーナにたずねた。


 「はい? なんですか? バジル様」


 「レンさんから聞いたのですが、貴女はあの剣神トール様の娘で、賢者トゥオーフ様の弟子なのですよね?」


 「はい。そうですけど」


 「その、本当に失礼を承知でお聴きしますが。アルストレーナさんのお母様はどのような方なのですか?」


 「はい?」


 「あ、その、剣神トール様が愛している方ということなので、ちょっと興味があって。それと、その」


 「あ、ボクが人間寄りに見えて気になったとかですか?」


 「えぇ、まぁ」


 アルストレーナは、エリア王国の冒険者ギルドでのオオグとエステルの二人とのやり取りを思いだし、知らないふりをすることに決める。

 だから、今まで両親に教えられてきたことだけを説明する。


 「ボクとトールお父さんは血が繋がってないんですよ。

 ボクの本当のお父さん、ボクが産まれる前に死んじゃったんで」


 「そうなのですか」


 デリケートな話題ほど、常識を持っている者からすれば深くは聞けない。

 常識と、そしてバジルの場合は品位すら疑われてしまうからだ。

 だから、それ以上バジルが聞くことはなかった。

 代わりに、


 「綺麗な銀髪ですね。瞳も太陽みたいです。羨ましいです」


 そう言ってきた。

 

 「ボクからすれば、バジル様の髪が羨ましいです。すごく綺麗で」


 これはアルストレーナの素直な感想だった。

 キラキラと、これぞお姫様の色だなと思ってしまう。

 お姫様になりたいわけではないが、それでもアルストレーナも女の子なのだ。

 綺麗なものには憧れてしまう。


 「あら、それなら今度この髪を切ることがあったらカツラにでもしようかしら。アルストレーナさんにプレゼントしましょう」


 人毛のカツラはとても高価だ。

 生産職の者達が作る人工のものよりも高値で取り引きされている。

 ましてや、王族のものとなると品質以前に色々と問題が出てきそうだ。


 「そ、そんな畏れ多いですよ!

 それに切っちゃうのは勿体ないです。バジル様、とっても綺麗だし似合ってるのに」


 バジルの髪はとても丁寧に手入れされていて、長いのに痛んでいない。

 一方、アルストレーナの髪は動くことを重視しているので常に短い。

 そう言えば、今まで伸ばそうと思ったことすら無かったことに気づく。


 「アルストレーナさんも、レンさんの様に伸ばしてみたらどうですか?

 とても似合いそうです」


 と、そこでバジルはなにか思い付いたのか、自分の荷物から櫛を取り出したかと思うとアルストレーナに隣に座るよう言う。

 そして、隣に言われた通りにアルストレーナが座るとその髪を櫛でとき始めた。


 「こうして少し整えたりして、違う髪型を楽しんだりも出来ますよ」


 「あ、う、すみません。ありがとうございます」


 なんだか気恥ずかしくて、アルストレーナはそう言うと固まってしまった。


 「いえいえ。このようなことに巻き込んでしまったのでこれだけでは決して足りないでしょう。

 この件が片付いたら、私の髪だけでなくもっと相応の物を贈らせてもらいます」


 国家の重要人物、それも血が繋がっているとはいえ、やんごとなき身分という雲の上の存在からの贈り物など想像もつかない。


 「なにか欲しいものはありますか?」


 だから、そう聞かれて今度は頭が真っ白になってしまった。


 「いえ、特には」


 アルストレーナには、今まで欲しいと思うものはなかった。

 必要だから手に入れてきたものばかりだ。

 筆記用具に、服、全部必要なものばかりだ。

 例外と言えば学校の売店で売られていたお菓子やジュースくらいだろうか。

 しかし、一国の王女にお菓子をねだると言うのも失礼にならないだろうか。

 そんなことをぐるぐると考えて、そもそも髪を整えてもらっているという現状がすでに不敬になると気づいてしまう。

 しかし、そんなアルストレーナ内心には気づかず、バジルは言った。


 「そうですか。

 でも、お仕事とは別で、こうしてると、なんだか妹が出来たみたいで嬉しいです。私には兄しかいませんから」


 その言葉がふんわりとアルストレーナの中に入り込んでくる。

 これには自然と答えられた。


 「ボクも一人っ子なので、もしもお姉ちゃんがいたらこんなことをしてくれたのかなって、ちょっと思いました。

 バジル様、ありがとうございます」


 「この件が片付いたら、是非とも兄に会ってください。

 城に招きますから」



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