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「あ、お父さんから荷物が来てる」
手紙を出したのは二日前だ。
その返信は当日のうちにきたが、その時は手紙などがなくてがっかりしたのだが、招待状の返事だけだったので忘れないうちに出したのだろうと思われる。
手紙も添えられていたが、ついつい荷物の方を先に開けてしまう。
「なになに? お菓子とか入ってる?」
横でレンがわくわくと覗きこんでくる。
荷物には母特製の焼し菓子や、畑などで取れた野菜を漬けた漬け物、そしてなぜかそこそこにアルコール度数が高いお酒で作った果実酒が数本。
「アンってお酒飲めたっけ?」
「昔、お父さんが飲んでるのを興味本意で舐めてから嫌いになった。
そもそもまだ飲める年齢じゃないし。
お父さんもそれ知ってるはずなのに」
不思議に思いながらアルストレーナは、手紙を開く。
そこには、お菓子は同室の子と仲良く食べなさいとか、頑張りなさいとか、元気そうでなによりとかそんなことが書かれてあり、お酒のことも書いてあった。
ジョセフと、以前のゴタゴタで世話になった先生にでもプレゼントしなさいということらしい。
もし、断られるようなことがあれば遠慮なく送り返すようにとも書いてある。
同じように横で、手紙を読み進めていたレンが楽しそうに言った。
「レンのお父さん。おもしろい人だね。ちょっと国を救ってくるとか書いてある」
「あー、トールお父さん若い頃はよく悪い魔族とか、そんな人達と戦ってたらしいよ」
あははと、けっしてバカにしている笑いではないむしろ羨ましそうな笑顔で言ったレンにアルストレーナはそう返した。
アルストレーナの返しに、レンの動きが止まる。いや固まった。
「トール?」
「うん、なんだったかなケンシンって呼ばれてるって、昔自慢してた」
レンは、ある種、最強の父親じゃねーか、と言いそうになってしまった。
そして、色々納得してしまう。
剣神、あるいは拳神トールと言えば有名人である。
最も古い国であり、そして神の子孫が支配する国ーー神国エリュシオンを初めとした五つの国々。
今から十年ほど前に、その国々に復活した魔族達の神がかつて自分を封印した子孫へ復讐するために襲撃をかけた事件。
そこに颯爽と勇者が登場して、仲間とともに国々を、そして世界を救ったのだ。
その勇者の仲間の一人が、トールである。
剣と拳に神がかりのような、勇者とは違う強さを持っていたことから剣神の称号をエリュシオンの王から、拳神の称号を神聖フェイルート帝国の王からそれぞれ賜ったらしい。
(強いなぁとは思っていたけど、まさか義父がトール様だったとは)
推薦人がトゥオーフだったこともこれでスッキリした。
賢者トゥオーフは、勇者の仲間の一人でありつまりはトールとも仲間であったわけだ。
才能うんぬんではなく、ただ単純に知り合いに家庭教師を頼んだだけだった気がする。
それでも凄いことには変わりないが。
「聖ルクシミリオン王国?」
アルストレーナが手紙に書かれていた国名を読み上げる。
「知ってる、聖女様がいる国だ」
「聖女様?」
「アンは歴史得意だったよね?
なら、現存する国の成り立ちとか知ってるでしょ?」
「まぁ、一応」
現在、世界各地に点在している国の中でも古くから続く国は特別だ。
今から五千年前、幻大陸と呼ばれる海のどこかに沈んだ大陸。
その幻大陸の消滅後、この世界を作った神々は新たに国を作り直すことにした。
五柱の神が別々の場所に降り立ち、その国の始祖となった。
最初の王である神々は、人間と交わり神の血を受け継ぐ半神を産み出した。
その国々と言うのが、【神国エリュシオン】、【神聖フェイルート帝国】、【聖ルクシミリオン王国】、【エリア王国】、【ニューラグーン民国】の五つだ。
これらの国の統治者の一族、つまりは王族には神の血が流れていると言われている。
だから、何よりも特別らしい。
王の支配を正当化するために作られた伝説のような話ではあるが、これは事実らしい。
エルフを初めとした様々な長命種族達が学者達の調査に協力した際、そう証言している。
「聖女様はね、王族じゃなくても神様と話せる存在なんだよ。
神様が愛した女性だね」
聖ルクシミリオン王国は、初代王である神が去ったあとランダムに神託によって【神の言葉を聴いて広める係】が指名されるようになった。
それが聖女である。
レンが神が愛した女性、と表現したのにはもちろん理由がある。
代々の聖女は名指しだが、その女性たちは例外なく美しい女性ばかりなのだ。
美女のタイプは様々だが、とても美しい女性ばかりが選ばれるのである。
「神様って面食いなんだね」
「中身の前に外見ってね」
「それじゃ、この聖ルクシミリオン王国の聖女様はとても美人なんだ。
見てみたいな」
ちなみに、この国の聖女は例外なく王に嫁いでいる。
聖女の代替わりは、これまたランダムらしい。
しかし、王の代替わりと同時期であることがほとんどだ。
「人気はあるけど一応王族で聖女だからね、そうそう簡単にお目にはかかれないよ。
肖像画は出回ってるみたいだけど」
「へぇ」
「それにしても、その国を救うって何があったんだろ?」
レンが首をかしげた。
「きっと大量発生した魔物の駆逐依頼が来たんじゃないかな?」
父が時おり近隣の村から、そういった依頼を受けていたのをアルストレーナは思い出した。
既存の軍だけでは小さい村までは手がまわらず、冒険者などに依頼を出すことも少なくないのだ。
「お父さんの場合、駆除の方が得意だと思うけど」
父と繋がりのある国なら依頼くらいくるだろう。
ちなみに駆逐とは追い払う、という意味だ。駆除とか殲滅するという意味ではない。
「とりあえず、ジョセフさんと先生達にお酒渡してくるよ」
アルストレーナが言う。
「あ、じゃあ私もついてく!
ついでに売店でジュース買って戻ってきたらお茶会しよう!」
レンがそう提案した。




