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さすがにジョセフも驚いたようで、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「そんなことがあったのか」
「そんなことがあったんだ」
アルストレーナが説明したのは、サバイバルゲームが行われる切っ掛けとなった教室での集団暴行のことだ。
この学校の汚点ではあるが、責任者であるエステルは別に隠すつもりもないのか、箝口令が敷かれることは特に無かった。
ただ、さすがにその後行われたテストに関しては、アルストレーナとレンが問題のある生徒たちをこの学校から追い出すために協力したことは、口外無用となったが。
「大変だったんだなぁ」
「うん、すっごく大変だった」
「そして、どこにでもそう言うのはいるんだな。
しかし、そうか。一応言っておいた方が良いのか?」
「何のこと?」
「いや、俺がここに入る前に変な話ーー噂を聞いたんだ」
どんな噂だろう?
アルストレーナが思ったときだった。
「それって、どんな噂だ?」
同じ疑問を投げ掛ける人物がいた。
エステルだった。
学食は教師も利用出来るのだ。
ただし、月いくらか払うことになっているが。
エステルの食事はカレーライスだった。
「えっと」
アルストレーナの隣に座ったエステルに、少し困惑しつつもジョセフは説明してくる。
なんでも、この学校から追い出されたであろう者達が、別の似たような学校に流れているらしい。
それは、個人の自由だから別に普通のことだ。
問題は、優先的に退学になった生徒を取り入れている節があるということ。
そして、この学校の卒業生達の一部が、問題を起こして仕事を解雇されつつあると言うことだ。
「解雇、クビってことですよね?」
「そういう意味だな」
アルストレーナにエステルは頷いて答える。
「その問題を告発したのが、ここを退学になった人らしいって聞きました」
ジョセフの言葉に、エステルは考えながら訊ねる。
「お前はその話を誰から聞いたんだ?」
「この義足でお世話になっている職人と、医者先生です。
俺が編入試験を受けると知って、忠告してくれました」
「その話を聞いて、別の学校にしなかったのはなぜだ?」
「まず、奨学金制度が魅力的だったこと。それと念のために、受ける前に体験入学を希望して、実際の授業を見て好感が持てたことがこの学校を選んだ理由です。
体験入学の時に、俺と同じように体の一部が欠損している身体障害者の方とお話ができたことも大きかったですね」
横で話を聞きながら、アルストレーナは思った。
(ボクも体験入学してみたかったな)
そんな制度があるなら利用してみたかった。
そうしたら、無駄に不安になることもなかっただろうに。
「なるほど」
「で、話を解雇の話題に戻しますけど。
人がいなくなったら当然席が空きますよね。
その席に退学者が座っているらしいです」
「あからさま過ぎて変でも何でもないな」
「正直、俺もそう思います。
あとは、冒険者パーティの間でもこの学校の卒業生だとわかると、襲撃される事件が起きつつあると、入学前に聞いていました」
「完全に目の敵にされてるな」
「俺は、入学直前に医者に心底心配されて入学を止められた程です」
「それが頻繁に起こり始めた時期はわかるか?」
「俺の耳に入るようになったのは、さっきアンとも話していたんですが、アンが集団暴行を受けて退学者が出たあたりかと思います。
医者や職人に入学に関して、忠告されたのがそれくらいだったんで」
「そうか」
呟くように言って、エステルはカレーをスプーンで掬って一口食べた。
アルストレーナとジョセフは午後の最初の授業が同じなので、昼食が済むと学食を一緒に出て行った。
それを見送ったあと、入れ違いでやってきたこの学校の創設者に今の話を振る。
「相手からすると、気にくわないことこの上ないんだろうな、退学が」
どこまでも、他人事のように創設者である彼は返した。
「逆恨みに逆ギレ、この感情を良いように利用されてるみたいだ?」
「無理矢理、そうしたのはお前だろエステル」
「無理矢理にでもそうしなけりゃ、黙らせられなかったからな。
加えてこの前のテストでさらに人数減ったし」
他の学年でも、差別意識が酷い者達の追い出し粛清が、まるで祭りのように行われた。
血は殆ど流なかったが、それでも大粛清と言っても良いくらいの混乱だった。
「それに、お前が退屈退屈言うから舞台を整えたんだよ」
「?」
「たまには、昔みたいに暴れてみるのも良いだろ?」
「変身して戦えって? どっかのヒーローみたいに?」
「頭のおかしいバカに倒されたってなったら、心もへし折れるだろ。
プライドの高い、そして歪んだやつなんてどうやっても自分の非を認めないだろうしな。
というか、馬面のやつはお前の黒歴史だよなぁ」
「エステル、お前、そんなに正義感強かったっけ?」
「金と備品」
「ん?」
そこでエステルは話を誰にも聞かれないように魔法を展開させる。
「この学校の運営費に奨学金諸々、そして上級生達が使ってるユニークアイテムの一部が横領、着服、ようはパクられてたのがわかった。
今日中にお前のとこに報告書を提出するから、目を通しておけ」
「やっぱりお前の方が、トップで良いんじゃねーの?」
「いや、一番上は見張らしは良いけどそこまで執着ないし、それに」
「それに?」
「お前はバカなんだから、煙と一緒に上っておけば良いんだよ」
「ひっでぇ」
「それに、だからこそお前が上だってことを隠してるんだろ。
あ、そうだもうひとつ。こっちの方はすぐサインくれ」
言いつつ、エステルはその書類を見せてきた。
「交流訓練試合の許可申請書?」
「そ、退学になったやつらを受け入れたっぽい学校が、実戦を想定した交流試合をやりたいんだと」
「くっそめんどくせぇ行事だな」
「で、アルストレーナさんに対する逆恨みもあるみたいだ。
人目のあるところで吊し上げて、イジメる気満々なんだろうな。
推薦人さんの株も下がるだろうし」
「あー、こっちの世界の有名人が推薦人なんだっけ?」
「そうそう」
「生徒同士だけじゃなく、先生同士の交流試合も企画中だ」
「確実に、喧嘩売る気なんだな」
「それだけの自信があるんだろ。ただ、俺は参加できないっつーか公平さを考えて参加するなって言われた」
「ふーん。で、俺か」
「そう、お前ならこの学校で弱い部類に入るって思われてるからちょうど良いんだよ。
アルストレーナさんのことも舐めきってる奴等にも、わからせるには良い機会だし。
あと、下に見てた存在に加害者がボコボコにされる展開を俺が見たいってのもある」
ただの公私混同だった。




