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新しい教室、新しい同級生。
変わったのは、アルストレーナに話しかけてくる子が多くなったことだ。
その中には同じ授業を取っている子もいたし、逆にはじめて言葉を交わす子もいた。
年齢はやっぱり幅広かった。
その中で、何かとよく話すようになったのは髭を生やした五十代ほどの人間族の生徒であった。
あのテストのあと編入してきたのだ。
専攻しているのは、冒険者科目らしい。
元々、冒険者だったらしいが諸々の事情で腕を磨くことが出来ずに、ずっと薬草などを収集する仕事をしていたらしい。
「アンには、まだわからないかもだけどな。世の中には悪意が溢れてて、俺は運悪くそれに巻き込まれたんだ」
昼休み、学食にて五十代の生徒ーージョセフ・マーティンは面白おかしく自身の半生を語って聞かせる。
さまざまなメニューがあるなかで、アルストレーナは日替わり定食を頼んだ。
学食も基本無料である。
有料は、トッピングやデザートとなっている。
こんな料金設定で、よく学校が潰れないものだ。
学食だけではない、設備費に人件費といったいどうやって稼ぎだしているのか謎である。
ジョセフの言葉に、少し前のゴタゴタを思い出しながら、アルストレーナは思う。
(たぶん、この学校じゃなくてお金がほしかったんだろうな辞めさせられた先生達は)
お金には不思議な魔力が宿るとよく聞く。
「もしかしてジョセフさん、虐められたの?」
図らずも核心をついてしまったアルストレーナに、ジョセフは笑笑顔を作る。
「よくわかったな!」
十歳の小さな同級生であり、しかしこの学校では少し先輩になる少女に豪快にジョセフは笑ってみせた。
「なんとなく?」
その返しにいつかのオオグのようにジョセフも笑った。
そして、やっぱり面白おかしくジョセフは話してきた。
ぞれは、彼の中ですでに過去のことであり、作り話のような括りになっているようだった。
今から約三十年前、若い頃のジョセフは、冒険者を夢見てギルドに登録したのだそうだ。
冒険者としての活動は人それぞれで、少人数のチーム、いわゆるパーティを組んで依頼をこなす者や、一人で依頼をこなす者と様々だ。
まだ右も左もわからなかった彼をパーティに誘う者がいた。
色々勉強できるかもしれない、とそのパーティに入ったのが運の尽きで、勉強どころの騒ぎでは無くなったらしい。
早い話が奴隷紛いのタダ働きを強いられたというのだ。
新入りだから、と依頼の報酬はゼロ。むしろ経験を、それこそ勉強をさせてやっているんだから、と雑用すべてを押し付けたのだという。
食事も満足にとらせてもらえず、このままでは殺されると思いギルドに事情を話、パーティを抜ける手続きをしたのだが、勝手なことをするなとパーティメンバーに袋叩きにあったということらしかった。
その時の怪我が原因で魔物と満足に戦うことが出来なくなり、稼ぎの良い仕事から干されてしまったらしい。
「で、その時の怪我で結局左足は切断することになって、義足になったんだよ」
そう言って、借金をして作った義足の話になった。
その借金と生活費を細々と稼いでいたのだ。
なんとか借金を返し終えて、しかし片足の生活というのはそれだけで心無い人から白い目で、あるいは珍しそうに見られると言うことを聞かされる。
何よりも、足でも腕でも体が欠損しているというだけで、職業差別を受けることもあったし、嫌なこともたくさん言われたらしい。
新鮮な話であり、そして現実の一面でもあるその話をアルストレーナは真剣に聞いていた。
こう言った話を十歳の少女、というか子供にすること、それ自体を嫌悪し否定する者もいる。
嫌悪する者に限って、したり顔で常識ぶるのだ。
だから、ジョセフは他の生徒、あるいは教師に注意されたらすぐこの話をやめるつもりだった。
しかし、この学校は知るということに関してとても寛容だった。
だから、注意も否定もされなかった。
聞きたくない、知りたくないことには自己責任でその意思を表せばそれだけで済む話でもあった。
「足を切断するほどの暴力って、酷いなぁ。ジョセフさんもしあれだったら防御系の術式教えるよ」
「アンはちっちゃいのに、そんな魔法も使えるのか!
やっぱりこの学校はすごいな噂に違わぬ天才ばかりだ」
「ジョセフさんも、必須科目をちゃんと勉強してたら使えるようになると思うけど。ボクの使ってる術式はちょっと弄ってるから、教科書に載ってるやつより効くと思う」
「ほほぉ」
「この学校に入ってから、ボクも集団暴行に巻き込まれたことがあるんだけど、錬度に左右はされるけど掠り傷と軽い打撲で済んだし。
ボクの顔、傷跡ないでしょ?」
集団暴行にあったということでジョセフは驚き、さらに顔を殴られるかしたような言動に言葉を失ってしまった。
だから、つい、
「どういうことだ?」
そう訊いてしまった。
その質問に嫌な顔はせず、アルストレーナは少し前にあったゴタゴタについてジョセフのように面白おかしく話始めたのだった。




