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慎ましやかな式を挙げて、翌年にはレイナは懐妊した。
その報告を両親にする前に、レイナは妹のリトが神託によって教会から聖女認定されたことを知った。
そのため王都に行き、神の加護を改めて受ける儀式を行わなければならないらしい。
実家がそんな状態でばたついたため、レイナが懐妊のことを報告したのはリトが王都へ行ってからのことだった。
言う暇が無かったのだ。
聖女の役割は、この国が平和であるように祈り続けることだ。
と言っても、恋愛は自由だし結婚だって出来る。
貴族以上の身分の者、という制限はつくが軟禁や監禁をされるわけではないらしく、行動も想像するより自由が与えられるようだ。
「お義母さん、詳しいですね」
食後のお茶をまったり飲みながら、アスターの母と会話を楽しむのもこの家に嫁いできてからすっかり習慣となってしまった。
聖女の話も、義母が色々話してくれた。
「まぁ、元々王都に住んでたし。いろいろ話は出回ってたわ」
「へぇ。リト、美人だし案外王子様と結婚しちゃったりして」
冗談で口にしたのだが、何故か義母の顔色が一瞬無に代わった。
しかし、それは本当に一瞬で、すぐに苦笑に代わる。
「王族の嫁なんて、おすすめしないわ」
「何でですか? ロイヤルウェディング、素敵じゃないですか」
「見る分にはね。でも、身分なんて関係なく結婚後はいろいろあるものなのよ」
「あー、嫁姑問題とかですか。
私はその点恵まれてますよね。
お義母さん優しいですし」
「レイナちゃんは、本当に可愛いこといってくれるわね」
レイナの言葉に機嫌を良くした、義母が小さな子にするように頭を撫でてくる。
成人女性相手にすることではないが、昔から誉めてもらうと必ずこうしてくれていたので、レイナも受け入れている。
義母はレイナのシルクのような髪のなで心地が好きなのだ。
もちろん、レイナのことも本当の娘として扱っている。
ある程度撫でて気が済んだのか義母は、手を離して続きを言ってくる。
「嫁姑もそうだけど、跡継ぎを産む重圧とか、あとは後宮の問題もあるし」
「後宮って、何人もお妃様がいる、暮らしてる場所ですか?」
「そう、その後宮。王族だけじゃなくて貴族には一夫多妻が認められているから、その男女の縺れとか女の矜持によるゴタゴタとかそう言ったゴシップには事欠かない世界ね」
それだけの経済力と権力があるという象徴でもある。
「女性は男性と違って、その辺り怖いですからね」
「そうなのよ。この辺も私たち平民とそんなに変わらないわ」
やれ後宮な贈り物を貰った。珍しい宝石を貰った。情熱的な愛を寝具の上で囁かれた。
とにかく、いかに自分は主人である夫に愛されているかを自慢しあうらしい。
自慢合戦と言っても良いかもしれない。
「何て言うか、すごい世界ですね」
平民に一夫多妻は認められていない。
だからこそ、レイナは少し安心した。
アスターのことを疑うわけではないが、仮に他に嫁をめとることが出来たなら、きっとレイナはそれらの争いに負けていた自信がある。
レイナはリトと違って気の強い方ではないし、むしろ一歩さがって付いていくタイプだ。
顔も美しいとは遠い。かといってブスかと言われるとそこまでではない。
普通だ。十人並みな容姿である。
「だから、おばさんリトちゃんのこと少し心配してるの」
「心配、ですか?」
「さっきレイナちゃんも言ったでしょ?
王族に見初められるかもしれないって」
「はぁ、まぁ言いましたね」
「仮にそうなったとしたら、さっき説明した女の争いに嫌でも巻き込まれることになるわ。
それが、少し心配なの」