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 「さっきの、なんだったんだろうね?」


 とりあえず、休憩をしようとなりその場に腰をおろす。

 周囲に人の気配は今のところない。

 アルストレーナは言いながら、いまだ震えている自分の手を見た。

 今まで、とても凶悪な魔物を、父のトールとともに狩ってきた。

 倒してきた。

 自分はまだまだ未熟だと、父のように強くはないと、師匠のトゥオーフのように物を知らないと、自覚していた。

 だから、今までは失敗しても教えてくれる人達が周囲にいた。

 しかし、今回は教えてもらった経験が役に立たない出来事に遭遇してしまった。


 得体の知れないものが、怖い。

 師匠トゥオーフの授業で、ある程度の魔物の知識を教えこまれていたのに、先程遭遇した馬頭のような魔物については、アルストレーナは知らなかった。


 「変態かな?」


 レンも、判断に困っているようだ。


 「ボクの横を通った時。なんか人の言葉を喋ってはいたけど」


 「とりあえず、アン、水のんで深呼吸しな」


 「うん」


 レンに言われた通り、アルストレーナは水筒を取り出そうとするが、まだ手が震えていてうまく掴めないようだ。

 それを見ながら、レンはアルストレーナに言う。


 「何度か、ここを授業で使ったことあるけどあんな変なのと遭遇したとか、そんな話聞かなかったけど」


 「怖かった。でも、レンが居てくれて良かった」


 「照れるなぁ。でもまぁ、うんアレは私でも怖かった」


 「また、遭遇したりしないよね?」


 「それは、さすがにわからない。

 でも、また遭遇しても良いように準備はしておこう」


 「うん」


 「とりあえずはドラゴンを狩って食べよう」


 「うん」


 アルストレーナは、話していて落ち着いてきたのかそこでようやく水を口にした。



 どんどん奥地に進んでいく二人には知りようも無かったのだが。

 二人を襲った変態馬頭は次々と、二人を目の敵にしている三組だけでなく、ランダムに一年生全員を襲撃していた。

 と言っても、直接的な攻撃ーー殴る蹴るなどは無く、意味不明な行動と言動と殺気で試験の参加者を次々と行動不能にしていったのだ。

 腰が抜けたり、失禁したり、気絶したりと半日もする頃には脱落者と自主的にこのテストを降りる者達が出始め、夜にはその人数は三分の一以下となってしまっていた。

 その映像は教官全員が共有している。

 エステルは森の中で、実に楽しそうにその映像を見ていた。


 「これなら、特別クラスの話を今回も流せる。

 いやいや、ほんとバカを舐めすぎなんだよな。

 そうは思わん?」


 その問いかけに、その人物は採った果物をかじりながら答える。


 「興味ない」


 「ちょっとくらい興味持てよ、お前が作った学校の生徒だろ」


 「どうして、こんな規模がでかくなったんだか。

 無人島生活時代が懐かしい」


 「そりゃ、お前がラピュタとか雲の王国作るとか言って張り切ったせいだろ。

 これも自業自得だな」


 「結局あっちだと怒られたから、わざわざ未発達の異界に移築したってのに」


 「この学校の噂が口コミで広まって、ここまで大きくなるとは俺も思っていなかったけど。

 おかげで要らない敵も作ることになったしな」


 「それは、エステルが勝手に作ったんだろ」


 「えー、だってムカつくだろ。

 選民思想とか選民意識とか」


 「うん、少なくとも元貴族のお前が言っちゃいけない言葉だな」


 「いや、お前と同じでそう言った意識を持つのは否定しないよ。

 俺がムカつくのは、まぁこれもお前と同じだけど、口にしたり態度に出したりするやつな」


 「あぁ、いるよな。言わなくても良いこと言って反感を買うやつ」

 

 「そうそう、っていうかお前はムカつかねーの?

 お前だってそう言う奴等に殺されかけたじゃん」


 「だって、他人だし」


 「あぁ、うん、お前はそう言うやつだったな」


 「今回は、才能があって優秀で俺を楽しませてくれるやつがいるかもって事で選抜してるってのに、悉くダメだしな」


 そこでエステルが呆れたような笑顔を作ると、答えた。


 「そりゃお前、いきなり『馬面ビンビン仮面』に遭遇して冷静になれるやつなんてそうそういないだろ。

 でも逆に、他の魔物の時と同様に動けるんだったら、まだ見所があるってもんだろ」


 馬面ビンビン仮面と言うのは、試験の参加者を恐怖と不安と不快のどん底に絶賛落とし中であり脱落者を増産し、アルストレーナ達も遭遇した変態の呼称である。

 その正体こそ、今エステルと話している彼であった。

 さすがに今は普通の服を着ている。全裸ではない。

 ちなみに、エステルも言った通りこの学校を作ったバカである。

 彼をこの試験の伏兵にしたこと。

 それを知っているのは、エステルと彼の二人だけである。

 そうでもしなければ、またうだうだと邪魔が入り選民意識やらを助長する生徒を増産するだろうことは目に見えていた。

 そもそも、そんな事を目的にこの学校は存在していない。

 と言うより、最初は学校ですら無かったのだ。


 「そりゃそうだけど、結局ダメみたいだしな」


 「それに、俺もだけどお前もここにいる限りは作った責任くらい負わないとだろ」


 「作った責任、ね」


 心底嫌そうな声をだして、彼は果物を食べ終えた。

 きっと遊びであり、趣味で作ったに過ぎないモノにそこまでを負う価値はないと思っているのかもしれない。

 こいつは昔からそういうところがある。

 

 「あ、そうだ、実力はまだ伴ってないけど、お前なら面白いと思うかも知れない子なら一人いるぞ」


 「誰だ?」


 「銀髪の女の子とは遭遇しなかったか?」


 「銀髪なんて珍しくもないだろ」


 なにしろこの学校は種族のるつぼだ。

 種族さえ気にしなければ銀髪なんてありふれている色だ。

 

 「この子だよ。狩りとかのスキルだったらお前に負けてない。

 一通り生徒達を脅かしたら、しばらく観察してみろ」


 エステルは学生の個人情報が記載された書類を渡し、さらにチェックしていた映像も見せる。

 そこにはアルストレーナとレンが映っていた。


 「やけに推すな。なんかあるのか?」


 「いや何、昔のお前になんか似てるんだよその子」



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