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「ねぇ、レンは将来の夢ってある?」
「将来の夢?」
「そ、大人になったら何になる?っていう意味の、将来の夢」
「どしたの、急に?」
先程のエステルとのやり取りを思い出しながら、部屋に戻るなりアルストレーナは言った。
聞かれたレンは目をぱちくりしてアルストレーナを見返した。
「いや、さっき走ってる途中でエステル先生と会ったんだけど。
あ、お礼はちゃんと言ったよ」
「うん」
「色々話をしたんだけど、その流れで聞かれた」
「将来の夢を?」
「そう、将来の夢を」
「で、何て答えたの?」
「正直に、無いって答えた」
「そっか。そう言えばアンは何でこの学校に入ったの?」
「あれ? 話したことなかったっけ?」
「うん、聞いた覚えは無いかな」
レンの返答に、両親と師匠の勧めで編入試験を受けることにしたことや、どうせ落ちるだろと思っていたら受かってしまったことをアルストレーナは素直に話す。
「じゃあ、アンは本当は来たく無かった?」
「まぁ、そうなるんだけど」
「そっかー。でも話を聞いて思ったけど、アンのお父さんもお師匠様ーー推薦人のトゥオーフ様も中々人が悪いなぁ」
「?」
意味がわからない、とアルストレーナは疑問符を浮かべた。
「要はアンに処世術や人付き合いを学ばせたかったってことでしょ?
で、ここまで学んだ感想は?」
「嫉妬ってこわいなぁ、人ってこわいなぁと思った」
「昨日の件で言うと、愛とか恋とか正義も怖いと改めて私は感じたよ」
「あ、それもある」
「でしょ?」
「あと、証拠の大切さと常に自分を守る魔法をかけておく重要さも知った」
「そっかそっか。それは何より」
「で、話を戻すけど。
ボクの場合、そんな感じでこの学校に入ったから、他の人みたいに『これ!』っていう理由が無いんだよね」
と、そこでレンが口を挟んだ。
「いや、在校生の全員が全員目的や明確な将来の夢があるわけじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。高学年への編入希望だったらまだしも、一年からの人はだいたいやりたいことを見つけるためにこの学校に入る人が多い気がする。
たとえば、騎士になりたいけど他のことも勉強したいとか、事務職希望だけどよくわからないから、いろいろ体験してみたいとか」
「え、でもこの学校って実力主義の超エリート校なんじゃ」
「基本はそうだけど、でもそれが適応されるのって職で言うなら魔法騎士
や、冒険者とか、そういう荒っぽい職業を目指す人達だけだよ。
家政科や商業科、工業科の場合、実力を計る方法って他の学校と同じでペーパーテストと提出物、課題の出来とかだし。
福祉科、要は介護職を目指す人達もやっぱり成績を見られるしね。
あ、でも、どの学科でも護身術は基本教えるんだよ。
介護職で、そんな荒事になるなんて想像もつかないけど」
「実力主義のエリートって、実は嘘?」
「エリートってのは後付けだと思うよ。
私が聞いた話じゃ、ここの卒業生は何故かエリートコースを進む人が多いらしくて、一部の先生達がそこを売り文句にしたのが始まりらしいし」
「え」
「元々は冒険者志望の人達をターゲットにした私塾だったらしいよ、この学校。それが規模が大きくなって現在に至るみたい」
「えっと、つまり」
「通うのが超大変で全寮制にした、ただの総合職業訓練校だよ」
空に浮かんでる時点で普通じゃないとか。
ただの訓練校にしては、設備が整いすぎているとか色々言いたいことが浮かんできたアルストレーナだったが、結局息を吐いただけで終わった。
「まぁ、本来の訓練校よりはいろんな職業の勉強できるし、将来性もあるから『ただの』ってのとはだいぶ違うと思うけど。
だから、アンはクラス中から苛められるとかは無かったでしょ?
普通はって言うのはちょっと嫌だけど、幼年学校とかだと集団で一人をハブにするとかあるある話だし。
でも、生徒の皆が皆、アンを苛めたりしなかったでしょ?」
「助けもしなかったけどね」
「でも、普通に接する人は接してたんじゃない?
連絡が滞ってたって言ったけど、イジメに加担してない人は聞けば教えてくれたでしょ?」
「あ、たしかに」
「学校ってね、社会の縮図なんだよ。
ただ、この学校の場合。大人と子供が同時に生徒をやってるから、今回みたいな、イジメの標的とかそんなの気にしない生徒もいるし、逆に気にしてアンと関わりを持とうとしない生徒と出てきたわけだけど」
「なるほど」
「まぁ、話が脱線しちゃったけど。
私も含めて、たぶんそれなりの人数の人が『何をしたいのか』それを見つけるためにこの学校に来てるよ」
「じゃあ、レンは将来の夢って無いの?」
「うーん、とりあえず旅人になりたいかな」
「旅人? 冒険者じゃなくて?」
「そう、たまには冒険も良いけど。あちこち旅をしたい。
見たことのない物を見て、キャンプして、時間なんて気にしないで自由気ままにあちこち旅をしたい。
だから、旅人」
就職はしないようだ。
「ま、所詮、これは夢だけどね」
そう言って笑ったレンは、どこか悲しそうだった。
「もしかしたら、夢が変わるかもしれないし」
「そっか。あ、だから古代史とか古代語とか必須科目とは別で、中心に取ってるの?」
「うん、遺跡とか興味あるし。って言っても研究したいとかじゃなくて予備知識があった方が良いから」
「なるほど」
「だから、そんな慌てることないよ。三年間、興味のある授業を手当たり次第とって、そして決めれば良いと私は思う。私はそうするつもり」
「うん、そうだね」
「私の知り合いの貴族のボンボンなんて、古郷の、それこそエリート学校を飛び級で卒業して公務員のエリートコースで将来有望だったのに、何をトチ狂ったのか冒険者になるって言って家を飛び出すのと同時に勘当されたからね。
あの時ばっかりはアイツの両親に同情したわ」
「なんで? 自分の道を選んだんでしょ?」
「そうだね。そう表現するならとても物語的で良いと思うよ。
でも、あのバカの学費はその親が出してたわけで、ゆくゆくは後継ぎのために手塩にかけてたっていうのにそれが裏切られたんだから。
んで、自分の道を選んだ結果が両親の死に目にも会えない、家族と同じ墓にも入れない、勘当」
「選択した結果が?」
「そう、選択した結果が。
すべての人に当てはまる話ではないけど、こういうこともあるんだよね。
それも、冒険者がどういう仕事なのかろくに調べも、それこそ訓練もせずになったもんだから、すぐに食い詰めて窃盗を働いていま牢屋。
勘当されてるから、実家の援助も当然なし」
「うわぁ」
いろんな人生があるものである。
「お金の稼ぎかたとか、稼ぐ幅を広げるために学ぶってとっても大事なんだよ」
「うん、ボク慎重に将来の夢を探すよ」




