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「いや、かなり騒がしいなとは思ってたんだけど」


 保健室にて、アルストレーナは手当てを受けたあと廊下で待っていたレンと合流して寮へと戻る。

 結局、学校全体が今日からしばらく休みとなってしまったのだ。


 「いや、スゴかった。お父さんみたいな強さで、でもお父さんより気性の激しい女の人なんて初めて見た」


 「エステル先生はある意味特別らしいよ。

 権力とか権限とか、普段は使わないんだけどでもその気になれば誰も逆らえないらしいくらい偉くて強い人みたいで。

 というか、この学校が実力主義(物理)ってきいてない?」


 「聞いてる。貴族とかそういう階級とか関係なく純粋に成績を平等に評価してもらえる学校ってことだよね?」


 「そう。だから魔族の生徒だっているんだけど、ほら種族によって能力値って違うじゃない?

 その辺も平等を期すために独自の採点基準があるらしいんだけど、それとは話が別で、先生達の権力とか権限とかも実力主義なわけ。

 エステル先生はこの学校で二番目に強い人らしいよ」


 「二番目、ってことは、一番は?」


 「さぁ?」


 レンも一年生だから、そこまでの事は知らないらしい。

 

 「でも、一つ言えるのはエステル先生には悪事が筒抜けで、その罪を認めて誠心誠意謝らないと今回みたいなことになるってことがよくわかった」

 

 悪いことはしないように気を付けよう、とレンが誓う横でアルストレーナは自分を危ない所で助けてくれたエステルに想いを馳せる。

 

 「ねぇ、レン」


 「なぁに? アン?」


 「学校ってしばらくお休みだよね?」


 「休みっていうか、捜査委員とか生徒会みたいな一部の生徒を除いて全員登校禁止になっちゃったからね」

 

 「そうだよね」

 

 残念そうに言うアルストレーナに、レンが気になって訊ねる。


 「どうしたの?」


 「エステル先生にお礼しそびれたなって思って」


 助け方がかなり過激な気がしないでもなかったが、先生なりの考えがあってのことなのだろうと思うことにした。


 「なんだ。それなら学校が再開したら直接言いに行けば良いよ」


 「まぁ、そうなんだけど」



 出来ることなら、すぐお礼をしたいなと思うが無理なものは無理なので大人しく学校が再開するのを待つしかない。


 そう思っていたのだが、意外にも翌日アルストレーナはエステルと顔を合わせることになった。

 寮周辺と、学生の憩いの場として作られた公園は行き来自由だったので何時ものように自主的な朝練をアルストレーナが行っていると、エステルが現れたのだ。

 悩ましげな体を、お世辞にも可愛いと言えないデザインのトレーニングウェアで包み、アルストレーナと共に並走する。

 素材が良いからか、デザインに劣るトレーニングウェアを着ても様になっている。


 「昨日の今日でアレだけど、怪我大丈夫?」


 「あ、はい。元々そんなに痛く無かったので、軽い打ち身と切り傷だけです」


 「そっかそっか。良かった。いやぁ、女の子の顔に結果的に傷を作るの手伝ったようなもんだし、気になってたんだよ」


 「そんな、こちらこそ助けて頂いてありがとうございました」


 「お礼を言われるようなことは何一つ、こっちはしてないよ。

 むしろアルストレーナさんは、何でもっと早く来なかったんだーって俺に怒るべき」


 「いえ、そんな」


 「だって、俺が見てたこと気づいてたでしょ?」


 言われて、そう言えば昨日、教室に入ってからずっと視線を感じていたことを思い出す。


 「あれって、エステル先生だったんですか?」


 「そう、何を隠そうこのエステル先生だったんです」

 

 そこで、どちらかともなくランニングはウォーキングに変わる。


 「でも、ほんと思ったほど傷が無くて良かった。

 記録の魔法もそうだけど防御系の魔法も使ってたな?」


 「?」


 一瞬、言われた意味がわからずに、アルストレーナはきょとんとなったが、すぐに思い至る。

 

 「あ、すみません。お師匠様やお父さんと訓練してた時の癖で、少しでも痛くならないようにって身を守る魔法使ってました。

 実家にいたときは、あんまり意味をなさなかったんですけど」


 「意味が無かった?」


 「はい。魔法を使っても関係なく痛かったです」


 「あー、それはアレだ。

 アルストレーナさんのレベルが師匠やオヤジさんより下だったんだな。

 ぎゃくに、昨日の暴行が軽い打ち身と切り傷で済んだのは、アルストレーナさんのレベルーー練度がいじめっ子達より上だったからだ」

 

 「え、でも、名前は覚えて無いですけどあの男の子なんて、ボクよりも優秀で」


 「優秀であるのと練度が高いってのは、必ずしもイコールにはならない。

 そうだなぁ。勉強が出来るのと仕事が出来るのは違うってのと同じかな」


 「はぁ。えっとエステル先生」


 「ん?」


 「何か用があったんでは?」


 「あ、そうそう、アルストレーナさんが記録してた録画情報を貰おうと思ってたんだ。

 今後の裁判に必要でね。コピーで構わないんだけど」


 「あ、わかりました」


 歩きながら、術式を簡易コピーしてエステルに渡す。

 

 「ありがとー。

 そう言えばアルストレーナさんは編入生なんだよね?

 学校には慣れた?」


 「慣れつつある、ってところです」


 初日は本当に大変だった。

 とくにシャワーや水洗トイレ、自動で動く階段や人が乗る箱など見たことのないものばかりだった。


 「進路は決まってる感じ?」


 「進路?」


 まだ一年生なのに?

 と、アルストレーナは首を傾げる。


 「いや、最初から目的を持ってこの学校に入る子は選択科目を進路にそった物で選ぶから」


 「いえ」


 進路を見据えて先攻科目を選ぶのは四年生になってからだ。

 三年生まではあらゆる分野の基礎を学ぶ。

 アルストレーナにとって進路はまだまだ先の話だ。


 「そっか、じゃあ将来の夢ってある?」


 言われて、しかしアルストレーナは首を横に振った。


 

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