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 田園と畑が広がっている。

 その中に転々と、家が建っていた。

 どこにでもある田舎の風景だ。

 その家のひとつに、素朴を体現した黒髪の少女と、勝ち気でお転婆な茶髪の少女が住んでいた。

 二人は姉妹であった。

 黒髪の少女が姉で、茶髪の少女が妹だ。

 姉の名はレイナ、妹の名はリト。それぞれ十五歳と十三歳である。

 勝ち気でお転婆ではあったが、それに余りある美しさをリトは神様から授かっていた。

 父譲りの茶髪は、光の加減で貴族だけに許された色、金色に見えるし、顔立ちもまるで噂に聞く舞台女優のように整っている。

 あと数年もすれば、絶世の美女と呼ばれることだろう。

 一方、姉であるレイナはと言えば両親のどちらにも似ていなかった。

 と言うのも、彼女は両親と血が繋がっていないのだ。

 黒髪に黒い瞳。庶民にはよく見られる色だ。

 彼女は、今から十五年前、なかなか子供が出来なかった今の両親に引き取られた。

 その二年後、妹のリトが産まれたのだが両親は分け隔てなく、レイナを育ててくれた。

 妹との仲も悪くはなかった。

 レイナがそのことを知ったのは、十五歳ーーつまり数日前の成人となった誕生日の時だった。

 と言っても、その誕生日も彼女がこの家に来た日をそう定めたらしい。

 しかし、そんなことは特に気にすることでもなかった。


 「レイナ、その、俺と」


 幼馴染みであり、いつの間にか恋人となっていた少年が顔を真っ赤にして、明らかに緊張した声と口調で、彼の畑で採れた、その中でもとても美しい青色の薔薇を一輪、差し出してくる。


 「俺と結婚してくれ」


 少年はそう言い切った。

 少年の名はアスター。

 平民には珍しい銀髪と金色の瞳をした少年だった。

 彼がこの田舎に引っ越してきたのは今から十年前のことだ。

 何やら訳ありだった母と二人で、この村にやってきたのだ。

 どうやら、彼の父が亡くなり母の親戚を頼って引っ越してきたらしい。

 アスターは母と二人暮らしであった。

 どこの田舎でもそうだが、決して生活は楽ではなかっただろう。

 しかし、アスターも立派に成人をして花や野菜、それと手先が器用なのと簡単な魔法を使えるので、それを利用して手作りのアクセサリーを作って街で売り、生計を立てていた。

 

 「俺も、お前も、もう大人だ。

 贅沢はさせてやれないけど、食うに困らない程度の生活は約束できる。

 だからーー」


 「私なんかより、人気者のリトじゃなくていいの?」


 冗談半分本気半分でレイナが訊けば、アスターはきょとんとする。

 コンプレックス、というほどでも無いが、妹の方が美しいのは事実だ。

 体つきも、男性から見ればとても魅力的に映るに違いない。

 それに、競争率の高いリトを落としたとなれば自慢になるだろう。


 「意地悪を言うのはやめてくれよ。

 俺がお前をどれだけ好きなのかわかってるだろ?」


 「ごめん。でも、これだけ聞かせて。

 アスターは私で良いの?

 私、知ってるんだよ。アスターが街の女の子達に人気があるの」


 美貌ではリトに劣るものの、美しい年頃の少女達が彼を目的に商品を買いにきているのをレイナは知っていた。


 「お前が良い。お前だから選んだ。

 レイナ、お前は知らないかもしれないけど、お前は俺のことを救ってくれたんだ」


 「はい?」


 「十年前、初めてここに来た日。余所者だからと白い目で見られていた俺や母さんを、お前だけが受け入れてくれたんだ」


 それは、なんてことないことだった。

 アスターの母も立派な銀髪をしていて、でも平民には珍しい色だから引っ越しの挨拶まわりをしたときどうしても好奇の視線に母子ともども晒されてしまっていた。

 早く終われ、と考えながら家々をまわっていたアスターに、初めて会ったレイナはこう言ったのだ。


 『よ、妖精さんだ!』


 キラキラと、子供特有の無邪気さを宿した黒曜石のような瞳が今でも忘れられない。

 そこには他人を値踏みするような視線も、警戒の色もなかった。

 ただただ、たまに来る大道芸人が話して聞かせる物語の中に出てくる妖精が本当に存在したんだと疑っていないようだった。

 妖精のモデルは、この村にもたまに行商で訪れるエルフらしい。

 エルフ族をモデルに物語をとある作家が書き上げたことで、妖精という架空の存在は認知されるようになった。


 「とても嬉しかったんだ」


 「そんなこと言ったかなぁ?」


 「言ったよ。絶対言った。

 あ、そうだ。これは、付き合う時にも言ったけど、もう一度言わせてほしい。

 レイナ、君が好きだ。ずっと好きだった。これからもずっとこの気持ちは変わらない。だからーー」


 そこから先の言葉は、最初の告白の時とは違っていた。


 「俺と、家族になってくれ。

 トールにも誰にもお前を渡したくないんだ」


 もう一人の、よく遊んだ今はこの村を出てどこぞを旅しているだろう兄貴分の名前をだして、アスターは言い切った。


 「うん」


 レイナはゆっくりと薔薇を受けとる。

 そして、少しだけ潤んだ瞳をアスターに向けて微笑んだ。


 「ありがとう。アスター、私を選んでくれて」


 その答えに、不安と緊張と期待が混じっていた彼の表情は嬉しさで満たされ、優しく恋人だった少女をその腕で包み込む。

 そして、二人の唇が重なった。

 

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