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【天空第一総合学校】への入学試験を受けてみないか?
そう母に言われて、アルストレーナは戸惑ってしまった。
ここにいるだけで十分だと思っていたからだ。
何より、イジメが怖かった。
正直にそのことを言うと、トールに失笑されてしまった。
「大丈夫。一度手を出させたあとボコボコにすれば正当防衛が成り立つからな」
「でも、魔法で人を傷つけちゃダメって、お父さんいつも言ってるじゃん」
「魔法だと加減が難しいだろ。でも、剣や拳を使った方がお前にはあってる。良いか? 自分を守るために相手を傷つけるのはどうしようもないことなんだ。
自分と、大事な人を守るために敵を傷つけるのは、悲しいがよくあることだ。それがどういうことなのかを知る丁度いい機会だ」
そうトールに説得されて、どうせ受かるわけはないという卑屈な考えもあって渋々アルストレーナは入学試験を受けることを決めたのだった。
友達というものに興味はあっても、どうしても欲しいというわけではなかったのだ。
彼女の場合、時期が時期なので受かれば編入ということになる。
それから数日後。
「お疲れさまでした。結果は後日郵送で送ります」
簡単過ぎるほど簡単に学校を発見し、飛行術式で学校まで飛び、これ見よがしに学校を隠しているだろう術式の穴を見つけて、そこをほどいて中に入った。
警報が鳴るとかそんな事はなく、来客用の玄関で手続きをして数日間に及ぶ数々の試験を受けることになったのだが、筆記試験も実技試験も担がれているのだろうかと疑うほど、物凄く易しい内容だった。
五千年前に沈んだ幻と呼ばれる大陸。そこに実在した国を五つ書けとか、歴史上のとある人物が遺した詩、千篇あるうちの十篇を書けとか、そんな感じの簡単過ぎる問題ばかりだった。
実技は実技で、かなり手加減されていたのか担当教官相手だったのだが、襲いくる攻撃をさらりと避けて、アルストレーナは教官を地面に叩きつけクレーターを作ってしまった、魔法に関しては詠唱、図式術式、そして無詠唱と指示されるがままに魔法を披露した。
しかし、よほどアルストレーナのレベルが低すぎたのか、こちらの担当教官は無言であった。
そんな数日間を過ごしたあと、家へと帰宅することになった。
筆記や組み手はともかく、魔法の試験に関しては、あまりの実力の無さに試験を担当した教官達は、呆れて物が言えなかったほどだ。
その表情を間近で見ていたがために、アルストレーナは試験は落ちたものだと思っていたし、そう信じて疑わなかった。
事務員に、まさに事務的な態度と口調で見送られアルストレーナは【天空第一総合学校】を後にしたのだった。
色々貴重な体験は出来たと思うが。
まぁ、ここに入学とかは絶対にないだろうと、アルストレーナは確信していた。
久々に帰宅すると、母がアルストレーナの好物を用意して迎えてくれた。
数日も家を、それも一人で離れた事なんて獲物を追って何日も野営したときくらいだったので、軽くホームシックとなっていた。
だからこそ久しぶりに両親に会えてとても安心したし、組み手をしたとはいえ、いつも規則正しく行っていた訓練が試験で出来ずに鈍ってしまった体を動かすことが出来てとてもスッキリした。
「で、試験はどうだったんだ?」
食事の席で父親にそう訊かれると、少しだけ悪いかなと思いつつダメだったことを正直に報告した。
「筆記もそうだけど、たぶん哀れんで、で良いのかな?
大分手加減されてたよ。筆記試験の内容なんてボクが五歳の時にお師匠様から教えてもらった内容だったし、組み手担当の先生もそんなことしなくていいのに、お父さんよりゆっくり動いてくれたんだ。
どうせ落とすからっていう、ある意味サービスでボクの攻撃を受けてくれたみたい」
アルストレーナの話す内容に、レイナは言葉を失い、トールはくつくつと笑いを堪えようとして失敗していた。
「むー、お父さん酷いよ、ボクはちゃんとしなきゃって思って全力で頑張ったのに」
「そうか、全力で、頑張ったのか」
「確かに問題は簡単だったし、先生はせっかく受けにきた受験生を無下にもできないからボクに合わせてくれたんだろうけどさ」
それでも笑うなんて酷い、と頬を膨らませるアルストレーナに、ますます笑いで腹が痛くなってくるトールであった。
さらに数日後。
受け付けの事務員の予告通りに、手紙が届いた。
そこには、合格の文字と編入までの手続きなどの文字が踊っていた。
「な、なんで?!」
思わず叫んだアルストレーナに、トールが意地の悪い笑みを浮かべて言ってくる。
「お前は手加減されてたとか言ってたけど、ありゃ手加減じゃなかったってことだろ。
魔力数値が高いのは生まれつきだったが、その使い方や実戦はこの俺が直々に教え込んだし、かなりマニアックな知識はトゥオーフの爺が教えたしな。
知識だけなら専門家並みなんだぞ」
「うそ」
「トゥオーフの爺からもお祝いの手紙が来てる。
あの野郎、先に結果知ってやがったな。
どうせなら来年度の新入生として入学させてやれば良かったって、悔しがってる。
そうすればトップの成績間違いなしで、新入生代表として華を持たせてやれたのに、だそうだ」
嬉しそうにするトールとは違い、アルストレーナはただ愕然とするしかなかった。
何故なら、入学すれば外部との連絡手段は制限される上、全寮制のため好き勝手に家に帰ることも出来なくなる。
帰れるのは、学校が定める長期休暇の時くらいだ。
それとこの学校、六年制なのだ。
みっちりと六年間勉強をすることになる。
でも、家族と会えない方が長いのだ。
幼年学校にすら行ったことのないアルストレーナにとって、その事実は刑務所に入るようなものだ。
家族と、何よりも母と離れる。そのことを思って、アルストレーナは表情を暗くした。




