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その後。
トールの仕事の関係で移り住んだ先は、とある山の中だった。
それも外国である。
ここに移り住むまでは、各地を転々としていたが子育てのためにもどこかに定住した方が良いだろうと考えて、トールの昔の伝を使って魔物が多く生息する山の管理の仕事をもらったのだ。
この家は先代の管理人が使っていたものを再利用して家族三人が住めるようにした。
やがて、レイナは三人目の子供を産んだ。
名前はトールがつけた。
本当の父親の名前と母親の名前を組み合わせたそれは、いつか本当のことをこの赤ん坊が知るときがきたら、話そうとトールは決めていた。
バタバタもしつつも幸せな時間が過ぎていく。
そんな生活にも慣れ始めたある日。
深夜のことだった。
「さてさて、どんな子になるやらだな。
出来れば、おしとやかな子になってほしいが、俺はお前を鍛えると決めてるしなぁ」
おじさんだ、などと言っておきながら、赤ん坊を抱くその顔は父親のそれだった。
そして、凄まじくデレデレしている。
いや、していた。
ほんの数秒前までは、目に入れても痛くないほどのデレデレっぷりだった。
しかし、今、その表情は真剣そのもので。
「物は相談なんだがレイナ」
「なに?」
「いや、正直に言うとこの子を鍛える、育てるって決めてから考えていたんだ」
「うん」
「まぁ今すぐとかじゃないんだが、そうだなぁ五歳くらいから家庭教師をつけようと思うんだ」
「家庭教師?」
「ほら、ここから町の学校に行くのも大変だろ?
寄宿舎があるところも考えたんだが、それだと俺が訓練をつける時間がなくなるし」
「そう」
「無理はさせない。強制させて嫌がられたら元も子もないからな」
「お兄ちゃんのことだからその辺は信じてる。ただ」
言いながら、レイナは周囲を見回す。
トールも、同じように半壊してしまった家を見た。
「このままだと、ちょっと危ないかなぁと思うんだよね」
「そうだな。その通りだ。
アスター譲りの魔力がここまでとはな。
愚図る度に家が壊れたんじゃ、洒落にならない」
夜泣きとともに、アルストレーナの魔力が暴走したのだ。
三人に怪我は無かったものの、初めてのことでさすがのトールも度肝を抜かれてしまった。
「本来なら訓練をして力の使い方を覚えるんだが、まだちっちゃいからなぁ」
さすがに赤ん坊には無理である。
「とりあえず、魔力は三歳くらいまで封印だな」
そして、あっという間に三年が過ぎた。
トールは、アルストレーナの魔力の封印を少しずつ解いていくことにした。
そして、遊ばせながら魔力の使い方を教えていく。
その筋が良かったからか、トールの遊び心が疼いた。
が、我慢した。
ただ、少し早めに老賢者と呼ばれつつも外見年齢は十代半ばという、外見年齢を大幅に詐称している人物に事情を話、勉強などを見てもらうことになった。
「珍しく頼ってきたから何事かと思ったが。
まさかお主が身を固めておったとはのぅ」
彼の名前はトゥオーフと言う。
「その辺は訊かないでくれるとありがたい」
事情があることをそれとなく口にすると、トゥオーフが揶揄ってくることは無かった。
「それで読み書きを教えれば良いのだな?」
「あぁ、それと絵本が好きだから、物語の本で要らないものがあったら貰いたい」
「なるほど。まぁ、子供向けの物もいくつかあったから譲ろう。
おいで、お嬢ちゃん」
レイナの膝の上にいたアルストレーナは、初対面のトゥオーフに言われ、母と彼を交互に見た。
そして、レイナの膝から降りるとトゥオーフのところまでやって来てちょこんとその膝に乗せてもらった。
その頭をトゥオーフは撫でる。
撫でながら、トゥオーフはアルストレーナの魔力について調べる。
許容量はかなりのものだ。
育てれば、伝説の魔法使いマーリンの再来になるかもしれない。
「あとは、まぁ行儀作法を教えてほしい。
一応女の子だからな。将来のこともあるし」
結婚をするかしないかは、未来の、成長したアルストレーナが決めることだ。
その時に、年頃になったときにそう言った常識がないと恥をかくかもしれない。
そのための家庭教師である。
「なるほどのぅ。あいわかった」
ただ、トゥオーフもそれなりの付き合いというものがあるので流石に毎日は見れない。
なので週三日、トゥオーフはここに通うことになった。
「お嬢ちゃんは将来何になりたい?」
頭を撫でられながら問われ、アルストレーナは愛らしい顔を必死にしかめて考えた。
「うーんとねー、妖精さん!」
その答えに、レイナは目を丸くする。
「よ、ようせい?」
トゥオーフが戸惑って、レイナを見てくる。
「いつも読み聞かせてる、アルストレーナお気に入りの物語に出てくる登場人物なんです」
「スッゴいんだよ! キラキラの羽が生えてて綺麗で可愛いんだよ!
だからキラキラでかわいい妖精さんになるの!」
そして、続けた。
「でもね! お父さんみたいなダークエルフにもなりたいし、なりたいものはいっぱいあるよ!」
そんな言葉を微笑ましげに、トゥオーフは受け取った。
「それじゃ、たくさん頑張らないとだのぅ」
「うん! ボク頑張るよ!」




