十九日目
俺の朝は妹の声を聞いて始まる。
「兄貴、いつまで寝てるの。 朝ご飯冷めちゃうよ」
朝ご飯が冷める? いつもの時間からそんなに経っているのか?
眠い目を擦りながら携帯で時間を確認する。
いつもより30分くらい起きるのが遅い。
いつも通りにご飯を作ってくれているのであれば確かに冷めてしまう。
「悪い、少し寝過ぎた」
「兄貴にしては珍しいね」
「そうだな。 出来たての朝食を食べれないし、やらかした気分」
「私、温め直してくる!」
「そんな気を遣わなくていいぞ」
俺の言葉が聞こえてないのか。 駆け足で去って行ってしまった。
俺が寝坊したばっかりに……。
少し経ってからふと思ったが、今日はいつになく優しく接してくれている気がする。
「頂きます。 わざわざ、温め直してくれてありがとな」
「別に……。 温かい方がご飯は美味しいと思っただけで、他の理由は無い」
「そうか。 でも、おかげで俺は美味しいご飯を食べれているわけだから、可憐には感謝しかないよ」
「ばっ……ばっかじゃ無いの?!」
「え?あ、ちょっ……」
勢いよく立ち上がり、部屋に引っ込んでしまった。
バンッ
そんなにキツく扉を閉めること無いだろ……。
俺なんか気に障る事言ったのかなぁ。
にしてもさっきの可憐顔めっちゃ赤かったし、熱でもあるのかもしれない。
可憐の様子が気になるけど、今行くと追い出されそうだし今はそっとしておこう。
距離が近くなった様な気がしてたけど気のせいな気もしてきた。
やっぱり、俺の事嫌いなのかな。
結局考えがここに至ってしまう。
朝食を食べ終え、食器を洗い、その他諸々の片付けを済ませる。
部屋に戻る途中で可憐の部屋を通るのだが、誰かと喋っている様子だった。
可憐が誰と話していようと可憐の自由だから特に気にもしないが、聞こえて来た会話に思わず立ち止まってしまった。
「うーーー。 どうしよぉ……」
「可憐ちゃん、取りあえず落ち着こう?」
「でも、兄貴に感謝しかないって言われたのが嬉しくて、顔が赤くなってるのを見られるのが恥ずかしくて逃げて来ちゃったからぁ……」
「それはさっきも聞いたよ。 恥ずかしいのはわかるけど、一旦落ち着こうよ」
「優香ぁ……。 私、今まで一番幸せかもしれない」
「ほんと、羨ましいよ。 私だって、言われたもの」
「えへへ。 妹の特権です」
「ずるい……」
「ずるくないもん。 ここ数日優香兄貴にべったりだったし、我慢した私へのご褒美だよきっと」
「勉強教えて貰ってただけだからぁ」
「私知ってるもん。 兄貴の顔が近くなったりした時に、顔が少し赤くなったりしてたの」
「そ、それはそうだけど……。 あ、私これから出かける予定あるあるから切るね」
「あ、うん。 またね」
思わず立ち聞きしてしまった。
今まで一度も聞いた事の無いような可憐の声質にも驚いたが、部屋に引っ込んだ理由が俺が想像していたことと真逆だったことに更に驚いてしまった。
今まで、嫌われていると思っていたが、そうじゃないのかもしれない。
そんな期待を抱かせてくれるのには十分すぎる内容だった。
部屋に入ることも忘れ呆然と可憐の部屋の前で立ち尽くしてしまっていた。
不意にインターホンが鳴った。
「はーい」
慌てて玄関まで行き、扉を開けるとそこには和樹が立っていた。
ずいぶんと久しぶりな気がする。
「よっ、久しぶりだな」
「久しぶりって言っても、二週間くらいだろ」
「前の俺らからすれば久しぶりだろ」
「そうかもしれないな。 それで、どうしたの?」
「いやぁ、実は……、勉強教えてくんね?」
「はぁ……、相変わらずだな。 今回は、来ないと思ってたんだがやっぱり来たか」
「当たり前じゃん。 玲に教えて貰えば、点数獲得間違いなしだしな」
「適当なこと言うなよ」
「まぁまぁ、細かいことは気にするなって」
「ったく……、玄関で話すのもなんだしな。 上がってくれ」
「お邪魔しまーす」
和樹には先に部屋に行ってて貰い、俺は菓子と飲み物をもって部屋に戻った。
和樹の勉強に付き合わされると何故かいつもかなり疲れる。
1から10までを説明しないといけないからかもしれないが、一番は話しが逸れて勉強が止まってしまうことが多々あるからだろう。
何度勉強に戻しても、しばらくするとまた止まってしまう。
そうこうしているうちに気がつけば14時を回っていた。
昼食を作らねばと思い台所まで行くと可憐が何作っていた。
「もう少しで出来るから待ってて」
「お、おう。 今友達来てるんだ。 そいつの分もあるか?」
「ちゃんと作ってあるよ」
「そうか。 ありがとな」
「よし。 後は並べるだけだから、お友達も呼んできて」
「わかった」
和樹を連れ、三人で食卓を囲む。
なぜだか不思議な感じだ。
そー言えば、前は可憐何処かに出かけてて居なかったんだっけか。
特にこれといった会話も無く昼食は終わってしまう。
和樹はひたすらに「美味い」と連呼していた。
確かに、美味い。
それは間違いない。
だが、可憐に食事中ちらちらと見られていたせいか、じっくりと味わって食べる余裕は無かった。
それから夕方まで和樹の勉強に付き合わされていたが、思いの外時間が経つのが早く感じられた。
「んじゃ、俺帰るわ」
「もうそんな時間か」
「毎度のことだけど、長いこと付き合わせて悪いな」
「気にするなって」
「そういってくれると助かるわ。 じゃ、またな」
「おう、またな」
久々に和樹と話しをするとおもっていた以上に楽しかった。
楽しかった反面だいぶ疲れて居るみたいだ。
段々と瞼が重くなって、少しして俺は寝てしまった。
「……き。 兄貴、起きて」
「可憐か。 どうした?」
「晩ご飯出来てるよ」
「寝てしまってたのか。 悪いな、わざわざ」
「昨日は起して貰ったし、これでおあいこ」
「そ、そうか」
今日は可憐に何から何までしてもらっている気がする。
今日の晩ご飯は、餡かけチャーハンだった。
昔可憐に作ってあげたことがあったがまさか俺が作ってもらう側になるとは思っていなかった。
餡が少し甘い気がするがこれはこれで美味しい。
最近可憐の料理の腕が上がったとつくづく思い知らされる。
コーンスープはインスタントだから味は変わらないはずなのに心なしか、俺が淹れた時よりも上手く感じる。
「餡作るの上手くなったな」
「そうでしょ? お弁当を作る時偶に練習してたの」
「そうだったのか。 始めて作った可憐の餡はめっちゃ甘かったな」
「初めてだったし、料理もそこまで上手じゃ無かったから仕方無いでしょ」
「そうだな」
「この調子で、部屋の片付けも完璧にしてくれたら申し分ないんだけどな」
「それとこれとは別でしょ」
「掃除機をかける側の身にもなってくれよ」
「大半は私がするんだし良いじゃない」
「それが普通だっての」
いつもより賑やかな食事だった。
食器を洗うのは俺がやると言ったんだが、可憐が「私がやるからいい」と言ってやらせて貰え無かった。
仕方無くテーブルを拭いたり、洗い終わった食器を拭いて片付ける作業をした。
テーブルを拭いたり食器を片付けるのも可憐がやると言っていたのだが、「今日は色々して貰ったからこれくらいはやらせてくれ」と言ったら渋々やらせてくれた。
そんなにやりたのなら、他の家事も手伝って欲しいのだが、他の家事は一切やってくれない。
やることを終え、風呂から上がった俺は残った疲れを取るために早々と布団に入った。
明日からテストだし、寝不足にならないようにはしないといけない。
朝の出来事をふと思い出し、なんとも言えない気持ちになる。
今まで、嫌われてると思っていたからあんなのを聞けば心が揺らいでしまう。
義妹だからといって相手は妹だ。
そんな感情を抱くわけにはいかない。
これ以上考えても意味が無い。
俺は、自分の気持ちの整理を付けないまま眠りに着いた。
はい、恋夢です!
兄の方に少し心境の変化を入れて見ました。
忘れ去られていたであろうキャラ和樹君を私も重いだあしたかのように登場させました。
今後もちょくちょく登場させようかなって思ってます。
それではまた次の作品でお会いしましょー!