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本物のオーパーツ

 5時と言われたが、後から考えて見れば時計なんてものは持っていないかった。だから、いつもより少しだけ私は早く起きた。

 一畳ほどしかない小さな部屋の扉を、音を立てないようにそっと開いた。

 真っ暗な廊下をキョロキョロと見渡し、

「よし、誰もいないわね」

 と小声でつぶやいて、外へと出た。

 この時間は警備の数が少ないから、主要な場所にしか存在しない。だから、周囲に気を付けさえすれば、大丈夫。

 働かされている人の寝床を抜けて、聞き耳を立てながら少しずつ進んでいく。

 危ない所を突破したところで、角に身を隠してハゲから受け取った地図を開いた。

 地図は、この石油採掘所の大まかな見取り図を表していた。が、抜け道でも書いてあるのかと思ったがそうでもなく、一か所に大きな丸がされているだけだった。

「…これって、入口じゃないの。こんな目立つところで待ってるっていうの?まさか、正面から攻撃を仕掛けてくるわけじゃないわよね」

 念のために紙を裏返すが、やはり何も書かれていなかった。

 私は大事に紙をポケットにしまうと、先を急いだ。


 強制労働と言う名前の石油採掘所は、入口に旧文明の遺産によって造られた建物や倉庫がある。その後ろに、大きな岩によって造られた施設があり、それが地下まで続いている。私に示された場所が、その旧文明の施設まで来いと示されている。

 これって、私の実力を試しているってことなのかしら。

 

 第一の難関、螺旋階段。

 ここで、大半の脱獄者は命を落とすか諦める。この見通しの良い螺旋階段が、地上へと続く唯一の通路なのだ。しかし、たいていの場合は直ぐにばれて、上から一方的に攻撃される。

 階段が見える位置で、私は立ち止まった。

 知っていた通り、階段の上には見張りが二人、しっかりと警備しているのが分かる。ただ、少し眠そうな表情は浮かべている。

 賭けね。かなり、アナログな方法だけど。

 まず、服を脱ぐ。後は、大きく息を吸い込んで、こう叫ぶだけだ。

「キャァアアア。脱走よぉおおお」

 私の叫び声に、上にいた看守はビクッと身体を震わせる。

「どうした!?」

 私は身体の部位を手で隠しながら、ゆっくりと彼らの前に姿を見せた。

「服を、服を取られたの!」

「何っ、待ってろ今警報を」

「待って、今なさられると、私がこんな姿だし…とりあえず、上に行かせて」

 シュルーナのように、この国は男女格差社会ではない。普通に、見知らぬ顔の女重役がここにやってきていても、何ら不思議ではないのだ。

 そのまま、私は悠々と階段を上り、上へと来た、

「失礼ですが。所属と名前をお願いします。直ぐに、脱走者を捕らえますので」

 優しそうな青年が、私に上着をかけてくれた。が、その瞬間を見逃さずに、手を掴む。そして一気に腕を捻ると、思いっ切り蹴飛ばして、階段から突き落とした。

 何が起きたのか分からず、ポカンとしているもう一人に、肘で顎をつ突くと、同じようにして突き落とす。

 鈍い音がした後、周囲は静まり返った。

 すぐさまに、上着を羽織ると前を閉める。

「死んでたら、ごめんね」

 階段の方に小さくお辞儀をして、先を急いだ。


 第二の難関。といっても、これが最後の難関だ。全長百メートルの、ただの広い通路。これほど厳重な施設は無い。絶対に、ここを通るには全身を10秒以上は晒さなくてはいけないのだ。

 私はもう一度地図を開いた。確かに、この廊下の終わり辺りを、丸が記されている。

「これ、流石に無理よね。行けたとしても、あそこで行き止まりだし」

 廊下に顔半分を覗かせ、周囲を警戒する。

 拳銃より遥かに強力な、確か…機関銃っていうのだったか、それがこちらに向いているのだ。飛び出せば、一瞬で蜂の巣になる。

 その時、大きな怒鳴り声が周囲に響いた。

「おい、貴様!とまれ」

 一瞬、自分に向けられた言葉かと思ったが、声は外からしてきたものだった。

「何をしに来た?」

「ちょっと、友人を迎えに来ましてね」

 その声の後、外から来たであろう男が大きな声で叫んだ。

「アイリさん~そこら辺にいるんでしょ。ちょっと、耳を塞いでてくださいね」

 間違いない。フールだ。良く分からなかったが、私は耳を塞いで、顔を引っ込めた。

 次の瞬間だった。

 目を疑うような、大きな光が廊下を駆け抜ける。遅れて、ツンざめくような轟音が響き渡った。さらに遅れてやってきた爆風が、私の髪を激しく揺らした。

「っ、何よこの威力」

 焦げ付くような匂いに、私は鼻をつまみながら周囲を見渡した。

 そこは地獄と化していた。

 廊下の壁と床はドロドロに溶けて、損先の壁には何層の先にも大きな穴が開いていた。黒い煙が立ち上り、その中からすました顔でフールが顔を見せる。

「やっぱりいましたね。ようこそ私達の仲間へ、歓迎しますよ、アイリさん。これは入団祝いです」

 後ろに隠していた手を、フールは前に出した。

 彼の手には、普通の服でも迷彩服でもなく、シュルーナに奪われた、フリルの可愛いロリータ服が握られていた。

「そ、それ、私の服。いいの?」

「えぇ、早く着替えてください。着替えてる間に、もう一発撃っておきますから」

 私が慣れない手つき手服を着ている片隅で、フールは地図を片手に黒くて細長い銃の狙いを定めていた。そして再び、あの稲妻と轟音が鳴り響く。

「ねぇ、フール。それって、本物のオーパーツじゃないの?」

 それを見た私は、フールに尋ねる。

「おや?ご存知でしたか。仲間に入れて正解ですね。話をしたいですが、今開けた穴から、いっぱい脱獄者が出るでしょうね。私達も脱出しましょう」

 焦げた廊下を歩き、久しぶりの外に出る。すると、入口の片隅に、私の相棒であるバイクが置かれていた。

「さぁ、行きましょう。運転は、貴方の方が得意でしょ?」

「でもそれ、砂が深い地域だと役に立たないわよ?」

「大丈夫です。改造済みなんで」

 笑顔でそういうフールを、私は本物の化け物を見るような目で見つめた。だってこの世界に、オーパーツを改装できる人がいるなんて、聞いたことが無かったからだ。

 


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