今残るもの
「食事は1日2回、睡眠時間は5時間。それ以外は、常に働き続けること。破れば、バイオエネルギーになる」
それが、私がこの強制労働所で、最初に言われた言葉だ。馬鹿げていると思うが、逃げようとすれば射殺される。
最悪手持ちのオーパーツを売ればいいと思っていたけど、そうもいかなかったのが、想定外過ぎて、自分を恨む。
「おい、お前サボるな!」
ちょっと腰を落ち着けていたら、監視の人が私に怒鳴り付ける。
「…すいません」
私はフラフラと立ち上がり、持ち場へと戻っていった。
実は、本の少しだけ期待していた。石油採掘所なのだから、オーパーツの力を使って、石油を掘っているのだろうと。
でも違った。確かに中心部では使っているようだが、それ以外は人力。歯車と歯車が噛み合い、それを地下まで連動させている。
動かすのが私達の仕事で、それ以外は石油を運んだり掃除をしたり、同じことの繰り返し。
「やぁ、また会いましたね」
本戦の時に会った眼鏡が、私に話しかけてきた。というよりは、横でハンドルを回している。
「そうね。貴方も連れてこられたのね」
眼鏡は少し残念そうに、頭をかいた。
「そうなんですよ。私は王女の手先だったんで安心してたんですけどね。目が覚めたら連れてこられていて…」
「お互いに残念ね。あの王女様、いい人に見えたんだけど」
オーパーツの国。一見すると平和な国。旧文明の最後の灯火を見せる、小さな国。けど、その平和はちょっと変わった作られ方をしていた。
「ねぇ、フールって知ってる?まだ、私は会ってないんだけど。彼も負けたんでしょ?」
「あぁ、フールですか。確かにここに連れてこられそうになった見たいですよ。でも、来年に王女の手先として大会に出ることを条件に、許されたみたいです」
「へぇ…強い人はやっぱ凄いのね」
眼鏡との話はそれきりで終わり、お互いに会話をする余裕も無くなっていった。
時間は飛んで、夜飯時。
地下に作られた小さな空間に、ひっきりなしに人が来ては、レーションと水を貰って帰っていく。
ここで食べる人は少なく、大体の人は自分の個室に戻って食べる。
ここに来てから時間感覚がないので、あれから何日が経ったのかサッパリ分からない。
しかし、少し嬉しいこともある。食事は、相変わらずのレーション。こればかりは、これ以上悪い物がないので、同じものを食べることが出来る。
「いや、旅人さんじゃーないですか」
聞きなれた声と共に、はげた頭のおっさんが私の横に座った。疲れていた私は、一瞬誰か分からなくて呆然とするが、直ぐに見知った人物であることを思い出す。
「あっハゲ」
ポツリと私は言葉が飛び出る。
「わっはは。思い出してくれて結構。あんたも災難やったな、話は聞いたぞ。外から来た人が引っかかる、テンプレじゃけどな」
ハゲの言葉に、私は少しムッとなる。残っていたレーションを一気に口の中に放り込むと、水を流し込んだ。
「で?何よ。貴方もフールに裏切られたの?」
私の言葉に、ハゲはニヤッとほほを緩める。
「違う。脱出の話を持ちかけに来た」
「…脱出?」
「そうだ。フールはここを正攻法で破壊するつもりだったらしいのだが、負けたことで強行手段に出ると言っている」
「強行手段って、かなり難しいんじゃ」
私は周囲を見渡した。
食堂には銃と剣を持った人が二人。扉を出て、廊下に三人。付近ではこれだけだけど、この強制労働所の戦力は、100名を越える人が、オーパーツで武装しているのだ。
ここに来て数日は脱出も考えたが、不可能と断定して諦めた。
「まぁ、乱戦の最中に脱出する事になるだろうな。けど、あんたが望むならこっちで保護してあげようちゅーことや」
私は真っ直ぐとハゲの目を見つめた。
嘘をついて、私を囮にしようとしているのではないか?そんな疑惑が頭の中で渦巻く。
信じるか。信じないか。
しばらくの沈黙の後に、私は口を開く。
「で、条件は?」
「そうこないとな。こっちの仲間になるんだ。そして、戦う」
「王女と?」
「いや違う。人間とだよ」
人間…?人間ってこのハゲは言ったのか?
それは、世界と?世界征服でもして、あの頃の人類の栄光でも取り戻そうって言っているのか?
それとも…これは、トラップか。
「いいわ。何でもいい。ここから生きて出られるなら、貴方達の仲間になるわ」
私の回答に、ハゲは笑顔で頷いた。そして周囲を警戒しながら、私の手にそっと紙を握らせる。
「これ、地図や。ここに、明日の朝5時に来るんやで」
そう言うと、ハゲは立ち上がって食堂から出ていった。




