ダウト
「決勝進出者の紹介!前大会優勝者フール。その仲間のガルダとハゲ!そして、旅人のアイリ!そして、歌姫!ラピス」
決勝戦進出者の名前が呼びあげられていき、最後の人物の名前に私は少し驚いた。
あの人、出ていたんだ。ということは、あの時の怯え具合は負けた時の保険なのだろうか?
私達は卓上で互に向き合った。
けど、先程までの緊張感は見られない。むしろ、彼らはワクワクしているように見えた。
「まさか、知り合いで埋まるとは思いませんでしたよ」
フールが先陣を切って、口を開く。
「わっはは、本当じゃな。わしは脱毛だよ。って、もう髪の毛無かったわ」
ハゲがつまらないギャグを披露すると、盛り上がりを見せていた会場は一瞬にしてお通夜を向かえる。
えっと…この空気、どうすれば。
「あのぉ…」
そん中で、ラピスが小声で手を上げる。
「わ、私が負けた時、フールさん…保証人になってくれませんか?」
皆の視線がラピスに集まる。
「…なるほど。ですが、僕が優勝するとは限りませんよ。それに、僕とガルダとハゲは連帯保証人になっていますからね。優勝した人が他の人の借金を返す」
「そ、それでも。私は貴方が勝つと思います」
「ほう。王女の手先が弱気でどうする気だ?」
「っ…」
何だかよく分からないけど、私だけ蚊帳の外の感じが強い。
その流れに乗っかって、私は質問をした。
「あのぉ、所で優勝したら何が貰えるんでしょうか?」
私の言葉に、残りの4人はポカンと口を開く。
「えっと…」
頭をかく私に、フールは鼻で笑う。
そして我慢しきれなくなったのか、
「アハハハハ。そうですか。貴方は知りませんでしたか。そうですね、優勝して得られるものは、この国を1回だけ好きにする権利ですよ」
とフールは大きく笑いながら、そう言った。
この国を好きにする権利?それは、王女のようになるという事なのか?
「では、試合を始めます」
カードが配られる、私は手元にある望遠時計に視線を落とした。
私の手札は11。他は、9、7、13、?。
また角度が悪くて一人分見えないけど、気にしない。11ならどんな数字を引いても、大丈夫な数だ。かなり、いい出だしだ。
そう思っていた。
この時までは、普通に試合をする気でいたのだ。
「ダウト」
突然、フールが静かにそういい放った。
その言葉を聞いた審判が、フールの元へと駆け寄っていく。その後、彼から何か小さく耳打ちを受けていた。そして、審判は小さく頷いた。
「…?」
このゲームに「ダウト」なんて言葉は存在しない…という事は?隠語なの?
私は審判を目で追い続けた。
彼はフールの元からゆっくりと離れると、スピーカーの近くまで近づいていく。そして、その目の前で立ち止まって目を凝らしている。
まさか…。
「アイリ様?これは貴方のでしょうか?」
審判の手には、記録の書物が握られていた。
「…そうよ」
私は小さく頷いた。
どうせ、媚を横に振っても、身体を調べられれば望遠時計の事も直ぐにばれてしまう。なら、いさぎよく認めた方が、面倒でなくてよい。
私はフールを睨みつけた。
彼は、つまりそういう事だろう。こんな一瞬にして、オーパーツの事を見抜けるはずがない。最初から分かっていたのだ。
「ねぇ、私を決勝戦まで上がらせたのは、最後の試合を楽に進めるため?」
私の問いかけに、フールは笑顔でニコニコとしているだけだった。
□□□
牢屋の中で一枚だけの布にくるまれ、私は小さく蹲る。
正直、想定外だった。不正がばれることでもなく、負けたことでもない。
身ぐるみの全てを奪られたことをだ。
「まさか。敗者の所持品は全て没収とはね。情報を集めなかった私の負けね」
隅の方で体育座りをして、視線を下に落とした。
まさか、ここで私の人生が終わりとは。オーパーツが溢れるこの国は、私が行き付く最終地点だったのかもしれない。
人が多く行き交い、誰も暇をしていないこの国は、昔の世界の片隅を見せてくれる。
それは良い街の一面でもあるし、こういった悪の面でもある。
足音がして、誰かが近付いてくる気配を感じ取った。
「よう。酷いざまだな」
私は顔を少しづつ上へと移す。
「…シュルーナさん」
「何だ?私の顔に何かついているのか?」
「それ、私の…服」
黒いフリルが可愛い、ロリータ服。それを、シュルーナが身にまとっていた。
それを見た私はゆっくりと鉄格子につかまりながら立ち上がる。
「許さないわよ。人の弱みに付け込んで」
「あら。私は何も嘘はついてないわよ?」
「嘘をついてなくても、悪は悪だわ」
私は口元を緩めるシュルーナを、鋭い視線で睨み付けた。
この女。嫌いだ。今すぐに喉元をナイフで切りさてやりたいが、もうそんなオーパーツ、私は持っていないんだった。
しばらくの沈黙の後に、何かを思い出したかのようにシュルーナは口を開いた。
「そうそう、朗報よ。貴方の不正を暴いたフールはラピスに負けたわ。これで、この国もしばらくはこのままね」
フールが負けた?そんなまさか。あの雰囲気で、ラピスが負けるって事があるのか?
いや、それよりも…この国が安泰って言うのはどういうことなの?
「フールは何をしようとしていの?」
「簡単よ。強制労働所…つまり、貴方がこれから行くところを潰そうとしたのよ。観客の多くもそれを願っているみたいでね。試合のとちゅで、貴方が発行した株式を買ったのは、そういう連中よ」
そうか、あの時に私にチップを投げた人は。私が優勝したら、強制労働所を潰してくれるって思っていたのか。
「まぁ、そんな事されたら、私は嬉しくないけどね。私も、王女の手先になるわけだし」
「…まぁそんな気はしていたわ」
「バイバイ、旅人。貴方の旅はここでおしまい。フールも貴方の後にいくはずだから」
シュルーナはそう言うと、檻から離れていった。
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