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後編 舞台裏の出来事

 王城を辞して、屋敷に戻った私は、自室でお茶を飲みながら、これまでのことを噛みしめていました。




 笑いが止まらないとは、このことです。

 全ては、予定どおりです。

 シグルド殿下には申し訳ありませんが、私にはあなたが王の器とは思えませんでした。

 良く言えば真っ直ぐな、悪く言えば単純な性格は、市井に生きるなら好ましいでしょうが、貴族としては短所にしかなりません。

 ましてや機を見ることも情勢を読むこともできない愚鈍な王など、国を衰退させるだけ。

 ですから、私は、あなたを廃太子させることにいたしました。

 巻き込まれたブレンダ・カスクとスコッティ・マッカーラは、可哀想と言えば可哀想ですが、それも自業自得と言っていいでしょう。

 少なくとも、きっかけとなったのはブレンダですし、常識を持っていれば、2人ともこんな事態にはならなかったでしょうから。



 ブレンダ・カスクに対する嫌がらせの数々は、実際私がやったものが3割を占めるでしょう。

 私のあずかり知らぬものについても、それが私のせいと思われることについて否定してこなかったのは、単純なシグルド殿下が私に対して不信を募らせる種になると思ったからです。

 最初にブレンダのノートを私の机に隠したのは、私です。

 私は、ブレンダが日記帳代わりに使っているノートを持ち歩いていることを知っていました。

 そこで、彼女が殿下と何をしているかを知るために、そのノートを読むことにしたのです。

 さすがに日記帳がなくなれば、ブレンダは大騒ぎするでしょう。

 ですから、まず、日記帳のノートと、ブレンダが次の授業で使うノートを盗みだし、授業のノートだけを私の机に隠しました。

 これが発見されれば、私の机の中に彼女の私物を隠す者が現れると考えたからです。

 予想どおり、私の机の中にブレンダの物を隠す者が続出しました。

 そこで、私はそれを隠れ蓑に、読み終わった日記帳を私の机の中に入れておきました。

 既に私物が私の机から出てくるのは日常茶飯事でしたから、誰も疑いはしません。

 ブレンダ自身、なくなる物が多すぎて、やがて何がいつなくなったのかすらわからなくなっていたようでした。

 靴については、本当に私ではありません。

 殿下の婚約者の座を射止めたい貴族令嬢が、私に罪を被せるために私の帰宅に合わせて彼女の靴を隠したのでしょう。

 これらは、本当に私が関わっていたものについてのいいカモフラージュになりました。


 ブレンダが廊下を走ってきた時、その気になれば避けきれるところを、わざと足を残して踏ませたのも、私が足を掛けて彼女を転ばせたという因縁を付けさせ、私が彼女の軽率な行動の被害者であることを強調するためでした。


 そして、とどめになった階段の件。

 あれは、本当に私がやったことです。

 誰にも見られぬよう細心の注意を払い、私とブレンダだけの時に、通りすがりにものも言わずに突き落としました。

 目的は、彼女から話を聞いた殿下が私を詰問する状況を作ること。

 私としては、すぐに彼女が殿下に泣きつくものと思っていましたが、彼女自身、謝恩会で華々しく私を断罪したかったのか、1週間も我慢していたのは計算外でした。

 結果として、謝恩会が滅茶苦茶になってしまい、申し訳ないことになりました。



 あの茶番の後、殿下達は謹慎となりましたが、むしろ私が忙しいのはそこからでした。

 まず陛下に、殿下の所業と浅薄さをお伝えし、廃太子するようお勧めしました。

 幸い、第2王子のウィスカー殿下は聡明でいらっしゃるので、その方が国のためになるということで、話はスムースに進みました。

 ウィスカー殿下は私より年下でいらっしゃいますが、私はせっかく王妃教育を受けてきたのだからということで、シグルド殿下との婚約を撤回し、改めてウィスカー殿下の婚約者に指名されました。

 私は、王太子の婚約者でしたから、そのまま王太子の婚約者で居続けることになったというべきでしょうか。


 次に、陛下のご許可をいただいた上で、マッカーラ家に対し、謝罪とスコッティの処罰を求めました。

 罰は、シグルド殿下にお話ししたとおり、私に触れた手を奪うこと。

 これに関しては、完全に自業自得です。

 押さえつけなどせずとも、私は逃げも隠れもしなかったのですから。

 それがなければ、彼の罪は殿下を諫めなかったことくらいで済んだのです。

 勝ち誇って不要なことをした自分の頭の悪さを嘆くといいでしょう。

 まあ、いずれにしても自分が守るべき相手が誰かわからない駄犬には騎士は無理ですから、落ち着くところに落ち着いたというところでしょうか。


 ブレンダ・カスクについては、元々カスク家がシグルド殿下の後宮にブレンダを入れるべく焚き付けていたという背景がありました。

 ですから、既にシグルド殿下とブレンダに肉体関係があったのなら、シグルド殿下と添い遂げるべきだと迫りました。

 既に懐妊している可能性すらある、と。

 もちろん、日記帳で肉体関係があることは知っていましたが、ハッタリで知っている振りをしているという姿勢を通しました。

 カスク家側も、ブレンダが既に殿下に身を任せていたことは知っていたようで、面白いようにうろたえました。

 廃嫡された殿下にブレンダを添い遂げさせてもカスク家には何の旨味もありません。

 それどころか、今後の展開次第では、シグルド殿下が何らかの罪を着せられて表舞台から消える際に連座される危険さえあります。

 何しろ、廃嫡となったきっかけは、未来の王妃に対して確たる証拠もなく公衆の面前で断罪したことなのです。

 結果、カスク家は、シグルド殿下を切り捨て、ウィスカー殿下に近しいフェデリック伯爵の後添いとしてブレンダを嫁がせることにしました。

 ところが、ブレンダは純潔ではなかったわけですから、落胤騒ぎを防止するために月のものが来るまで婚姻できないことになり、シグルド殿下を1か月にわたって謹慎させることになってしまいました。

 殿下にしてみれば、ブレンダに裏切られたという感覚でしょう。

 ブレンダのせいで廃嫡されたのに、見限られ、ウィスカー殿下寄りの貴族に嫁いで自分だけ難を逃れたわけですから。

 当のブレンダがそれを喜んでいるか悲しんでいるかは、私にはわかりませんし、知りたくもありませんが。



 私は、未来の王妃となるべく、幼い頃から教育されてきました。

 公爵家に生まれた以上、恋愛結婚など望むべくもなく、民のため、国のため、家のためと、ひたすら頑張ってきたのです。

 恋愛は無理でも、せめて夫となる方には尊敬できる方であってほしいと願ってきました。 国を衰退させる王に嫁ぐなど、何の意味がありましょう。

 せめてシグルド殿下が、ブレンダと適正な距離感を持って、後々は側妃にと望まれるのでしたら、何の問題もありませんでしたものを。

 王の慰めとなるよう寵姫を持つことくらい、誰も文句を言いません。

 公式には私を立て、安らぎをブレンダに求めるというなら、それで良かったのです。

 それなのに、私と婚約破棄してブレンダを正妃に求めるなど、片腹痛いにも程があります。

 厳しい王妃教育を何だと思っているのです。

 まして、婚姻前に不埒に及ぶなど、国を背負う自覚が足りません。

 あのような後先考えない溺れっぷりは、私が殿下を見限るのに十分すぎる理由でした。

 今後、シグルド殿下は、生涯幽閉されることが決まっています。

 ウィスカー殿下の身に何かあれば、血筋だけは必要になるかもしれませんから、少なくとも私が王子を産むまでは、命の危険はないでしょう。

 さようなら、シグルド殿下。

 私が一介の貴族令嬢なら、きっとあなたを愛し続けられたでしょう。

 でも、私は、公爵令嬢であり、王太子妃候補なのです。



 私は、民のため国のための良き王妃となります。

 恋愛なんていりません。

 私は、この国に嫁ぐのです。


 ああ、それでも。ウィスカー殿下。

 どうか、あなたを愛せますように。

 読んでいただきありがとうございました。

 シェリーファは、血も涙もないというわけではなく、公人としての自分を前面に出している人です。

 シグルドについても、それなりの愛情は感じていました。


 これを書いたきっかけは、本当に悪役令嬢が嫌がらせをしていたとしたら、という思い付きでした。

 単に嫌がらせしているだけでは仕方ないので、国のために必要と信じて苛烈なことをする鉄血聖女が主人公になりました。

 シェリーファの悲しみが伝わればと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >笑いが止まらないとは、このことです。 全ては、予定どおりです。 うわー。やっぱりガッツリ仕組まれてたのね笑。そんな気してましたー。 >私は、あなたを廃太子させることにいたしました …
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