手でするのは五ドルから?
女を見てデイヴは思った。眼鏡を探すのに苦労しそうだな……。女の目は異様に大きかった。
フレッドは女の胸と、脚を見た。トーガに包まれているのに、体のラインがはっきりわかった。ほれ、もう少し。とフレッドは思った。
デイヴ、フレッド、フランシス、キャシー。四人全員が女の方を向いた。
「お待ちしていました、異世界からの勇者たちよ。」女はもう一度そう言い、四人の顔を見回すと、あら?ととまどいの声をあげた。
「あなた誰? ここはどこなの? 」落ちつきを取り戻したキャシーが聞いた。
「ええと、ちょっと待ってください。あなた達、お名前と出身地を教えて頂いてもよろしくて? 」と、女は聞き返した。
デイヴ、フレッド、フランシス、キャシー。出身地はフランシス以外はカリフォルニアと答えた。フランシスはユタの出身だった。
「それじゃあ、あなた達は日本の出身ではないのね? それで、お名前に神だとか、入ってる人は居ないの? 」女が聞く。全員が頷く。女は俯き、顔を押さえた。
しばらくして、女が顔をあげた。
「あの、言いにくいのですけれど、間違えてしまいました。ごめんなさい。」女はそう言って、頭を下げた。
「間違ったって? 」とデイヴは聞いた。女は言いづらそうにしていたが、やがて話しはじめた。
まず、デイヴ達は全員現実世界では死んでいること。
今のデイヴ達は肉体を持たない思念体であること。
女は、異世界を救う救世主を連れてきたかったのだが、その者は現実世界で死んでいなければいけない。そして死ぬ瞬間に、脳に流れている電磁波を模倣しなければならない。
「面白い話だな。次はなんて言う? 手でするのは五ドルからってか? 」とフレッドが口を挟んだ。女は無視した。
そして、本来日本に住む神代=アルフォンス=勇一を勇者として迎える予定だったのが、誤ってデイヴ達を連れてきてしまったという事。
「信じられないな」デイヴは顔に手を当て、そう言った。
「俺たちはこうやって話してる、息をしてる。とてもじゃないが信じられない。趣味の悪いリアリティ番組ならここで真実を話してくれよ。」
「それ、本当のことかもしれない。」フランシスが口を開いた。
「僕、見たんだ。たぶん、フレッドの撃たれた姿を。」
「お前、イカれちまったのか? 」とフレッド。
「違う! 本当に見たんだよ。君は頭を銃で撃たれたみたいで、何もついてなかった。服を見てやっとわかったぐらいなんだ。夢にしてはリアルすぎたし、辻褄もあうんだよ。」
「おお、神様。このイカれ野郎共にお慈悲あれ。」フレッドがそう言うと、キャシーが眉をひそめた。
「えっと、信じられませんか? 」と、女が言った。
「ああ、ああ。信じられないね。こんな安っぽい所に連れてこられて、娼婦の恰好した女にそんな事言われてもね。大体あんた何なんだ? 救世主を選ぶだなんて、神様だとでも言うつもりか? 」と、フレッド。
ええ、一応……女はそう答えた後、少し待っていて下さい、と言い残し女は暗闇に姿を消した。デイヴはキャシーが細かく震えている事に気づいた。デイヴが大丈夫か? と声をかけると、キャシーはええ、ありがとう。と答えた。
「すみません、お待たせしました。」女は再び姿を現した。一枚の紙切れを持っていた。
「あなた達の世界ではこれが、情報を伝える上では信頼性が高いと知っていますので。」女はそう言った。一応、私が偽造したものではありませんよ、と付け加えた。
デイヴが紙を受け取った。新聞のようだ。ええと……
--オープン・プッシー紙
サッド・バット・トゥルーハイスクール、銃乱射事件!!
再び、痛ましい事件が起こった。
ベースボールの名門校として知られるサッド・バット・トゥルーハイスクールで一人の生徒がスクールシューターを起こした。
犯人はレイモンド・オズワルド(17)。学校への聞き取りインタビューによると、おとなしい生徒で、からかいのターゲットになっていた事実は確認されたという。
多数の怪我人を出し、犯人を含む五人の生徒が死亡した。
デイビット・マックス(17)
フレッド・ベラドナ(17)
フランシス・ハークネス(17)
キャサリン・サマセット(17)
そして、レイモンド・オズワルド(17)
犯人は被害者の一人であるキャサリン・サマセットの遺体の近くで発見され、頭を撃ち抜かれていた。自殺とみられている。
この痛ましい事件を教訓にし、銃と人との関係を今一度、見直す時が来ているのかもしれない。
デイヴが読み終えた。ああ、やっぱり。とキャシーは呟いた。フランシスは頭を抱えた。
「ええ、手がこんでるな? おい、このビッチ。とっととこの悪ふざけを終わらせやがれ。」フレッドはそう言った。声が震えていた。
「あんた、いい加減にしなさいよ! 」キャシーがそう言った。
「あんたが怖がったり面白がるのは勝手よ。でももう、これは私たち四人の問題なの! つまらないジョークで話を止めないで! 」
フレッドは舌打ちをし、わかったよ、と地面に座り込んだ。
「それで、俺たちはどうすればいい? 」デイヴが女に聞いた。
「ええと、そうですね……元々、あなた達は死ぬ運命だったようなのですが……」女は考え込み、やがて口を開いた。
「代わり、になってしまいますが。異世界を救ってもらえないでしょうか?」
「俺たちになんの得が? 」とフレッド。
「いえ、元々死ぬ運命だったもの、少しぐらい付き合って頂けるかとも思いまして。」
「ふざけんな! 」
「別に、ふざけてはいないのですが……このまま死ぬよりかは、いいでしょう? 」
「仮にそれに成功したら、僕たちを生き返らせるってのはどう? 」話を聞いていたフランシスが口を開いた。
「それは、出来ません。死んだ人間が生き返ったら大パニックになってしまいますよ。」そして、あ、そうだ。と女は口を開いた。
「死体を蘇らせる事は出来ません。しかし、時間を戻し、あなた方の未来を変える事は出来ます。これなら自然に進める事が出来ます。」女が言った。
「どういう事だ? 」とデイヴ。
「過去に時間を戻し、あなた達が死ぬ原因になったものを取り除くのです。そうすれば日常に戻る事もできます。」
「なんでもいいよ」とフレッド。
「要するに、俺たちはその、異世界に行ってその世界を救う。そしたら元に戻る。そうだろ? 救うって何をすりゃ良い? 環境保全のデモでもやるのか? それとも神の教えを広める? 」
「いえ、その。魔王を倒して頂きたいのです。」
「わけのわからん話になって来たぞ。」とデイヴ。
「あなた達には魔王と戦ってもらいます。そして、彼を殺してほしいのです。魔王は異世界のパワーバランスを大きく崩し、世界をすべて自分のモノにしようとしている。それは、所謂環境保全の面から見ても好ましくないので……」
「わかった、わかった。そんじゃとっとと、その異世界に送ってくれ。あんたと話してるとイライラする。」フレッドがそう言うと、女はわかりました、では……と手を掲げた。デイヴとフレッドとフランシスとキャシーの目いっぱいに光が広がった。
次に四人が気付いた時には、四人は草原に立っていた。
フランシスはこう言った。出来の悪いマスターがマスターをやってるTRPGをやってる気分だ。
取り急ぎ書いたのでクソみたいな出来になった。