フランシス・ハークネスの場合
フランシス・ハークネスの場合
フランシスは激しく鳴る目覚まし時計のアラームで目を覚ました。何事かと枕元の眼鏡を取り、部屋の状況を確認した。部屋にはビールの缶が転がり、吐瀉物がカーペットにしみついていた。同室のルームメイト、フレッドはベッドから半分ずり落ちていた。フランシスは昨晩の状況を思い出していった。
「喜べ、諸君! ついに、我が寮からもA+を取る優秀なる頭脳を持つ人物が現れた! 」フレッドが右手で缶ビールを掲げ、威厳ぶった口調でそう叫んだ。
「馬鹿揃いと囁かれていた我が寮がついに見返す時が来たのである! 思えば、ここに来るまでに……」フレッドがそこまで言った時、前起きが長いぞ、馬鹿代表! という野次が飛んだ。
「……よろしい! 諸君らも我輩と同じく早く酔っ払いたいようだ! それでは、我が寮きっての優秀なる頭脳を持つ、フランシス・ハークネス! 乾杯の音頭を! 」フレッドはそう言い、ビールの缶をフランシスへ差し出した。群衆の視線がフランシスに注がれる。
「あ、あー……みんな、ありがとう。乾杯! 」フランシスが言ったか、言う前か。群衆は各々、乾杯! と言いビールをあけていた。
皆かこつけて酒を飲みたいだけだ。フランシスは知っていたが、それでもTRPG、スラッシュ・ドラゴンズで青き霊氷なる剣を手に入れた時よりも嬉しかった。ハイ・スクールではガリ勉はいじめられる運命にある。この寮では、多少は違っていた。からかわれるような事はあっても、小突き回されるような事はない。フランシスはこの寮が好きだった。
フランシスは一缶だけビールを飲むと、頭がクラクラしたので、フレッドに僕はもう部屋に戻るよ、と伝えた。フレッドはもう大分酔っていた。ああ?ああといううめき声をあげた。フランシスは部屋に戻り、眼鏡を枕元に置いて、騒がしく続く宴会の音をバックミュージックにを目を閉じた。
思い出した。フレッド、この分だとあの後も随分飲んだらしいな。フランシスはそう思った。二日酔いのフレッドに絡まれるのも面倒だったので、そのままにしておき、洗面所で顔を洗った。
フランシスは洗顔を終え、着替え終わると、TRPGのセッションをしている仲間の部屋に向かった。その日は少し、話し合う用事があった。フランシスのキャラクター、百人斬りのエイブラハムがノンプレイヤーキャラクター、エルフの女王、シーラと恋に落ちるのは、セッションを進めるにあたって、展開的に難しい。とゲームマスターが泣きを入れたからだった。
話し合いはすぐに終わった。エイブラハムの魅力値が、シーラの威厳値に達するには、無理があるのではないか?という、ルールブックの片隅にある記述を仲間の一人が引っ張り出してきたからだ。ゲームマスターはホッとしたようだった。フランシスはそれなら、しょうがないね。と笑みを浮かべた。心の中で、この、マンチキン野郎が! そしたら、お前が持ってる永劫なる聖槌の重量値とお前のキャラクターの筋力値はどうなるんだよ? と思ったが、口に出すのはやめた。雰囲気を悪くしたくなかった。そして、流行のコンピュータゲームの話をいくらか交わした後、各々昼食をとりに行くという事で、解散になった。
フランシスが食事を受け取り、席につくとフレッドが注文をしている姿が目に入った。苛立っているようだった。面倒くさい事になったとフランシスは思い、背を縮こめた。
フランシスはプレートだけを見て、なるだけ急いで食事をした。すると、カウンターから勢い良く歩いてくる音が耳に入った。そっと視線をあげるとフレッドと目があった。
フレッドはフランシス目の前で立ち止まると、激しい口調でこう言った。「おい、ガリ勉野郎。なんで俺を起こさなかった? 」
起こしたら起こしたで怒るだろ、君は……。フランシスはそう思ったが、謝った。 「ご、ごめん、フレッド。君、昨晩ひどく騒いでいたから、疲れてるだろうと思って……」
「疲れてるもクソもあるか! おかげで俺は頭に血が登って気球みたいに飛んでいきそうなんだぞ! 」とフレッドは続け、ぶつくさ言いながらフランシスの向かい側に座った。
気球みたいに? そりゃいいや。ますます人気者になれるぜ、フレッド。とフランシスは思い、つい口から出てしまった。もう少し、気を使った表現だったが。
フレッドは何か考えこむように俯いていた。機嫌が悪い時はいつもこうだ。これは、"ウケた"な。とフランシスは思い、気が楽になった。フレッドは俯いたままプレートの上に載ったものを急いで食べると、舌打ちをして席を立った。ビッグ・ブルは今、旅だった。
フランシスのプレートも空になった。フランシスは返却口にプレートを返し、自室に帰って予習をする事にした。おお、優秀なる頭脳を持つフランシス……彼の人の子も地道な努力をせねば、A+は取れぬのだ!
フランシスはデスクに座ると、ヘッドホンをつけ、大音量で音楽を流した。テキストを進め、人気メロディアス・デスメタルバンド、ロングボートのアルバムが1stから3rdまで流れた所で一息つき、ヘッドホンを外した。途端、大きな破裂音が聞こえた。またフレッドが爆竹でも鳴らしたのかな、とフランシスは思った。そして、息抜きに散歩する事にした。
外に出るとどうも、様子がおかしかった。人っ子一人居ないのだ。ブルズが圧勝して、皆馬鹿騒ぎしてるのか? だとしたら、フレッドが面白がって爆竹を鳴らした事にも納得できた。
フランシスは校舎の中庭に向かった。そこで、ぼんやり読書をするのが好きだった。校舎に入ると、廊下の曲がり角から赤黒い液体が流れているのが目に入った。何か少し、異常に感じた。フランシスはそれが何かを確かめるため、近づき、角を曲がった。
何かが足に当たった。その、何かに視線を落とした。ザクロが破裂したような何かに、人間の体をくっつけたものがあった。朝食の時、フレッドが着ていた服を着ていた。酷く、悪趣味だと思った。吐き気がした。フランシスはその場に胃の中身を吐き出した。フレッド、本当に気球になって飛んでいく事ないだろう。背後から足音がした。フランシスが振り返ると、黒い革のロングコートを着た人間が立っていた。
フランシスがその顔を確認する前に、大きな破裂音がした。ロングコートを着た何者かは、銃を持っていた。俺とお前、何が違うんだよ? ロングコートの人間がそう呟くのがフランシスの耳に入ったが、意識が黒く染まっていった。ああ、あの声は……腹からは血が、どくどくと流れだしていた。
そして次の瞬間、フランシスは何か、煙の漂う空間に居た。
なかつぎ
さて、今、フランシス編を書き終えた。後1人、大して出したくはないが、物語の厚みをますため(あるいはマスをかかせてやるため)女キャラクターを出そうと思う。
何故、タブーとされるザッピング方式を取り、退屈な一部を書いたのか?
答えは単純、俺がこいつらを好きになれないからである。完全なデタラメ、エンターテイメント作品、ちょっとした悪ふざけのために考えられた、どこかに居たようなキャラクターだからである。そのため、少しでもこいつらが日常生活を送っていて、感情があるよう、自分の頭に思い込ませ、なんとかまともな話をどうにかつくり上げるため、仕方なくやったことである。
それにしても、なんという悪文だろう。読みにくく、表現のバラエティも貧していて、この上なく子供っぽい。仕方ない。無理に書かれた文とはこういうものだ。特に最低なのは、フランシス編の最後! まるで、よくあるホラー系フリーゲームみたいだ。しかし、2月1日までに規定の文字数まで突き進まなければならない。電撃戦、浸透作戦、そういう事。俺は、ドイツ軍が好きなのだ。
逆に、フレッド編は結構よくかけたと思う。
我思う。世間に評価されているラノベ(あえて、ライトノベル、とは言わない。)を嬉々として書き、何万字も生み出せる人間は、純粋に、神に好かれた人間なのだろうと。そういう人間が、そういうものが商売になる国に、時代に生まれた事は、とてつもない奇跡である、と、故に我あり。
何故、こういう自分語りをするのか?
そうでもしなきゃ、こんなもの最後まで書く気が起きない。自分語りは、射精と同じぐらいの快楽を脳にもたらすそうだ。それに抗えないのは、しょうがない事だ。