デイヴィッド・マックスの場合
この文ははっきり言って、恥じ入るほど、つまらなく、陳腐で、出来の悪いものである。
これを見て、出来の悪いものだ、と笑いたいのであれば、好きにすれば良い。まったく、その通りである。
いくらか置いてある文を投げ出し、この出来の悪い異世界転生話を書きだした理由は、ただ、ただコンペに出展し、賞金をもらい、オーダーメイドのエレキギターをもらいたいからである。
何度か開催されているこのコンペの入賞作品を見て、ああ、この程度なら俺にでも書けるかもしれない、と思い、つらつら書き連ね、あわよくば金を掠め取れればよい、程度の考えで書かれたものである。
ただ、自分は、理由なく異世界に死んで転生して何か特別な能力を得て女とヤリまくれていつのまにか尊敬される、というもので十万字埋める事は、不可能のように思える。(普通の考えの人間ならば、途中でアホ臭く投げ出すだろう……普通はね。)
自分は、弱い、普通の人間が、等身大で努力し、偉大な事を成し遂げる事が、面白い話だと思えるのである。仮に、あなたが明日、宝くじに当たり、一生何もしなくとも暮らせていけるようになったとして、年を取り、老人となった死の淵、自分が今までやった事、成し遂げた事は、宝くじを当てた事だけ、と思い、死んだら、どう感じるだろう?
墓に、自分の名前しか刻まれず、いや、この男(あるいは女)は、ただ幸運に好かれ、死ぬまでその幸運にものをいわせ女(あるいは男)と寝て、美味いものを食べ、肥え太り、死んだ。としか書かれないような人生を送った時、どう思うだろう?
たかが、くだらないエンターテイメント作品にそこまで考える必要はないかもしれない。しかし自分は頭の弱い人間であるので、物語の登場人物にまで、その考えを適応してしまうのである。なので、このお話は、そういうものが好きな人にとっては、前置きが長く、退屈に感じるかもしれない。
しかし、自分にはこういうものしか書けないので、そういうもので、百万円をとり、マホガニーのボディとネックで出来た、エルダー材の指板を持つ、フライングVを買おうと思う。
ここまでで、九百三十七文字。つまり、全てあわせて、十万九百三十七文字少々のものを書かねばならない……(入賞作品の平均文字数が十万程度だから。)いや、骨の折れることだ。
デイヴィッド・マックスの場合
その日、デイヴィッドはフットボールの試合で大活躍した。タッチダウンを三回決め、そのたびにチアリーダー連中からは黄色い声援が飛んだ。そのたびにデイヴィッドは手を振ってやっていた。連中、世界が終わるとでも思ってるんじゃないか。デイヴィッドはその声援の大きさに少しアホ臭く思いながらも、手を降ってやっていた。
試合が終わり、両陣営がお互いをたたえ合う(という名目の! )握手、抱擁を行っている時、デイヴィッドの陣営のチーム、ストーム・ブルズの、極端にディフォルメされた雄牛のマスコット、ビッグ・ブルが駆け寄ってきて、おい、デイブ。この後はチアリーダー連中に何度タッチダウンを決めるんだ? と下品なジョークをささやいた。デイヴィッドは、三回だよ、今日はコンドームをそれだけしか持ってきてないからな! と言った。神聖な儀式が終わり、ロッカールームにひきあげる時、ビッグ・ブルはデイブの方を向いて、左手に拳を作り、右手の人差し指をその拳に出し入れした。デイブは笑いながら、くたばれ、アホ。と言った。
ロッカールームにヘッドギアやボディアーマーを放り投げる。「おい、デイブ。今日も凄かったな! 」名前のないサイドキック共が同じような賞賛を繰り返す。デイヴィッドは声の方向にむきなおり、「俺を誰だと思ってるんだ? デイヴィッド・マックス様だぜ! 」と言い、右手と左手、両方の手でおおげさに拳銃の形を作った。さながら、西部のガンマン、ビリーザキッドだった。
いつも同じやりとり。デイブが活躍し、チアリーダーが股を濡らし、サイドキック共がはやし立てる。デイヴィッドは満足していた。片や、飽きてもいた。こうして俺はハイスクールを終え、大人になり、親父と同じトラック運転手になる。俺はラジオでハイスクール時代流行っていた音楽を聞き、満ち足りた時代を思い出し、退屈などこまでも続くアスファルトの風景を紛らわす……
デイヴィッドはシャワーと着替えを終え、数人のチームメイトと食堂へ向かった。マカロニ・チーズとピーナッツバターサンドを頼んだ。白いプレートの上に乱雑に盛られたそれを受け取る。席につき、それを口に運ぶと、いつもと変わらない、平均以下、水準以上の味がした。ああ、素晴らしきハイスクール・ライフ。デイヴィッドが半ば自嘲的にそう思うと、背後のドアが勢いよく開く音がし、次に何かが破裂する音が聞こえた。また、フレッドの馬鹿が爆竹でも鳴らしたのか? デイブはそう感じた。
次の瞬間、デイヴィッドは何か、煙の漂う空間に居た。