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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クラブなんか行かない

作者: psalm23

私的には青山・六本木のほうが好きです。あとは横浜とか。

言葉はちょっとだけ過激ですが、内容は甘々です。

君と僕◇◇◇◇◇◇





涙の数を数えるのはもう止めた。




朝起きて、普通に君と顔を合わせて、そしてお互い別々の場所に行く。


なんでもない日常。



少しずつ色あせていく景色。


あぁ、僕は君を愛してたんだっけ?



それとも、お互いにセックスしたいから一緒にいるんだっけ?


もうなんだかめんどくさくなって、この意識さえ投げ出してしまいたくなる。


君といるのなんかめんどくさい。


君と付き合い始めて、少しずつ自分が変わっていくのを感じる。


君は相変わらず、屈託のない笑顔のまま。


でも僕の心は不自然なぐらいに変わってる・・・。


こんな思いするなら、君なんかいなくなってくれればいいのに。


どうなんだろう?


わからない。




何か事件があって、こうなったわけじゃない。


自然に、成り行きのままに任せていただけだから。


君に感じていた胸のときめきも、いや、怒りとか、嫉妬さえも。


このままなくなってしまえば良いのに。


男でも女でも、僕が付き合う人間は皆こんな感じだったから。


少しずつ自然にいなくなっていくのが普通で、君は例外で、そういった存在は気味が悪い。


僕も興味を失っていく様に自分を仕向ける。


飽きっぽい性格だから?我慢が足りないから?


色んな言い訳を用意して、僕は自分の愛していた人から逃げる。


だからあんまり僕は傷つかない。




大昔、僕はそれでも涙が出た。


自分の痛みや他人の痛みがまだ僕の殻を潜り抜けたから。




涙なんて要らない。


少なくとも僕には君と一緒にいる権利なんてない。


早く僕の家から出て行ってよ。


それが駄目なら僕が家出をする番だ。






今日は青山のミハラでカバンを買った。


皮のしっかりしたやつだったけど、どうも今の僕には似合わない。


でも、デザインはいいし、いざとなれば売ればいい。


やっぱり靴も買っとけば良かったかなと思うけど、ま、次でいいや。


それから六本木まで地下鉄。


今から仕事しなきゃいけない、バイトだけど。


始めてからもう3ヶ月。


大学に入ってもう5つ目のバイトは時給4000円。


給料は悪くない。


向こうの要求は高いけど。


色んな会社に引き抜かれて、色んなところを回ったけど、最終的にはここになるのかな。


誰でも知ってる有名な会社。


僕はあんまりその名前が好きじゃないけど、ま、名前なんかどうでもいいか・・・。


バイトが終わったら、新宿のfluid roomのパーティに。


一人で、ただ当てもなく、土曜の夜に。


君からの電話は無視。


どうせ、帰ってきてとかそんなんでしょ?


クラブに行くって言っても、ナンパとかそういう目的じゃない。


まぁ、しいて言えばALECがゲストとして回すってのを聞いたから。


友達や知り合いがいるかもしれないけど、今日の僕の負のオーラの前では話しかける事もないだろう。


多分、おそらく、僕は一人で踊って、ジントニックを飲んで、飲んで、飲んで、500円のクリスタルガイザーを飲んで、ぶっ倒れて寝るだけだ。


クラブなんて安いホテルみたいなもの。


クラブ帰りの倦怠感は、安いホテルでHした子の不細工な寝顔と同じぐらい魅力的だ。


ただ、自己満足のためだけに僕はクラブに行く。




土日のクラブには男と女の駆け引きが深夜まで繰り広げられているけど、僕にはそんなものは何の意味もない。


勿論、お酒もタバコも。


ジントニックを一杯あおって、またドアの向こうの世界に入る。


ここの重いドアにはうんざりだけど、まぁ、この音の厚みじゃしかたないか。


タバコの煙がもうもうとしているフロアーには色とりどりの花が咲いているように照明が乱反射する。


女も男もまるで一晩しか生きられない蝶のように華やかに踊る。




でも、そういった虫達を食べに来る虫もまた存在している。彼らはフェロモンを出して他の虫をおびき寄せる。




一番初めの誘惑は薬。


最近は取り締まりも厳しいから薬で向こうの世界に行っている人はあまりいない。


それでも一人でぽつんとしている僕や見るからに弱そうな子供達は声を掛けられる事が多い。


「Sは?」「Xは?」「Mしてみる?」


無数の悪魔の勧誘とソレに乗ってしまう不用意な子供達。


まるでピノキオが連れてこられたあの遊園地のようだ。


彼ら彼女らの多くは後戻りできずに行くところまでいくのに。




その次の誘惑はセックス。


探せば相手なんか簡単に見つかる。


でも、見つかるだけで、その後のプロセスが必要になる。


どうせお互いにすることだけが目的なのに、高尚な音楽の趣味とか職場とか学校とか年齢とか・・・。


くだらない。


どうせなら、セックスさせてくださいって言えばいいのに。


まぁ、そんな簡単にクラブであった男についていくほどバカじゃないよ。


脳みその半分以上がスペルマで満たされているような男に用はない。


別に、男と話しながら濡らし始めている女にも用はないけど。




最後の誘惑は睡眠。


3時を過ぎると、そこには二つの世界が広がる。


眠るものと眠らないものの世界。


眠るものは硬い椅子や床に体を小さくしてじっとしている。


眠らないものはただひたすら踊り、酒を飲み、体液を交換し、そのループを繰り返す。


僕は始発に乗りたいから寝る事はない。


そういった人たちを観察したり、音楽を聴いていたりするだけ。




三つの誘惑を潜り抜けると、そこには退廃の後の朝。


帰り際の道端ではカラスがマクドナルドのゴミをあさっている。


クラブ帰りの若者があくびをしながら家路についている。


歌舞伎町から新宿までは結構ある。


ドンキホーテの看板が少しだけ懐かしく映る。




僕は始発に乗って、恵比寿で降りる。


ガーデンまでの道のりは遠いけど、まぁ、仕方ないか。


だんだん、体に染み付いた酒とタバコと香水の臭いが嫌になってくる。


クラブでただの様に配給される酒とタバコはどうにかして欲しい。


男も女も自分のにおいに気づかないで盛っているなんて、これはなんて喜劇だろう。


早く家に帰ってシャワーを浴びなきゃ。


いや、バスタブにお湯をためて少しだけ長湯をしよう。


喉が痛い。


目もなんだかしばしばする。


毎回のことながら、クラブなんて最悪。





部屋のドアを開ける。


あぁ、真っ暗だ。


良かった・・・、と安心する。


多分、君は寝てるのかな?


それとも愛想をつかして出て行ったのかな?




「あ、お帰り、風呂なら今ちょうどお湯が入ったところ」




君がお風呂から出てくる。


まだ朝6時だろ。


普通の高校生なら寝てるだろ。


まったく、このガキは。


「バカ・・・」




僕はこの幼い恋人に何も言えなくなる。


子供はそんな風な気の利かせ方なんてするんじゃないよ。


僕は「ただいま」だなんて言わない。


君が「お帰り」とかって言うだろうから。


こんなことが続けば僕はいつの間にか君の「お帰り」に取り憑かれてしまうだろう。


君がいないときも、君の「お帰り」を探してしまうだろう。


そんなのは嫌だから。




「クラブって楽しいの?」って、何も知らない君は夢見るように言う。


「ううん。ちっとも。あんなの・・・。」その後の言葉は続かない。


君は僕が口ごもるのを待っていたかのように、「だったら、行かなきゃいいじゃん」って言う。




馬鹿。




僕は君と一緒にいるのが辛いんだ。だから、週末はクラブに行くって言ってるのに。


僕は君の目をまともに見ることができない。


多分君は僕の嘘を見抜いているだろうけど、それでも嘘をつかなきゃ精神が持たないよ。


悪いけど、僕は子供の頃みたいに素直になれないんだ。


「だったら、俺と一緒にいればいいじゃん?」


君は腕まくりしたその長い腕で僕を抱きしめる。




『馬鹿だなぁ、君は。


そんなに抱きしめられたら、僕は君から抜け出せなくなるよ?


そしたら、僕は本当に君の事を好きになるよ?』




高校生相手にそんなことを言えるはずがない。


その早く腕を振りほどいてもらいたい。


君には僕の事、重いとかって思われたくないから。


それに君と僕の関係はリスクが大きすぎるだろうし、君にはもっといい未来があるんじゃないの?


男のことが好きなくせに、僕が抱えるホモフォビアは強烈だ。


でもまぁ、君も僕と同じでバイなんだろうけど。


だからバイでいられるうちに僕のことなんか忘れて、女の子の方に行ってよ。


向こうの方がもっと柔らかいし、子供だって生めるし、手をつないで歩けるし・・・。


もし僕が君なら、そうするのに・・・。


恋愛なんて一種の熱病。


君はいつまでも僕と一緒にいるって言うけど、そんな思いはいつかは収束する。


その時は年寄りの僕に幻滅するだけだよ?


残念ながら僕は君じゃないし、君は僕じゃないから、聞く耳持たないんだろうけど。


本当に馬鹿だな君は、あきれるぐらい。





大学生の僕はもっと大人のはずで、僕は涙なんか流さないはず。


それでも君の胸に涙の跡を残してしまう。


それがバレないように、僕は君の事を抱きしめる。




涙の数を数えるのはもう止めた。


君の前では僕はあまりにも無力だから。


もっともっと僕は泣かなくちゃいけないんだろう。


この心のサビを全部落とすまで。






とりあえず一緒にお風呂に入ろう。


そして、クラブになんかもう行くなって言ってよ?








Fin



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