第三十七章
くるり達が眠った後、アイシャとA、伊武が直巳の部屋に集まる。部屋のせいなのか、リビングに集まっている時とは違い、全員がだらだらしている。
「で、どうするのよあれ。うちで飼うなんて言わないわよね」
アイシャがボリボリとチョコ菓子を食べながら言う。細かい欠片が床に落ちるが、直巳の部屋なので気にもしていない。
「そりゃ、うちで面倒みようとは思ってないけど……放り出すわけにもいかないだろ?」
直巳がアイシャのこぼしたお菓子の欠片を拾いながら言う。
「自分で面倒は見られない。さりとて捨てるわけにもいかない。となれば、方法は1つじゃないですか?」
Aがアイシャと同じチョコ菓子を食べながら言う。やはり、床にこぼしている。執事のやることかと思いながら、直巳はカスを拾うのあきらめた。後で掃除機をかけなければ。
「……里親?」
伊武が言うと、Aが、「そうです」とうなずいた。
里親。誰かに引き取って、育ててもらう。直巳も可能ならばそれがいいとは思うのだが。
「ユアとカサネは、もう魔術も使えないから大丈夫だろうけど……魔術を失うどころか、パワーアップしてる、くるりは難しくないか?」
直巳が言うと、アイシャが面倒臭そうに言う。基本、興味がないのだから仕方ない。
「そうねー。魔術師とか天使教会に預けても面倒だし、普通の家っていうのもねー。魔術に理解があるやつじゃないと駄目よね」
「理解があっても……悪用するような……やつは……駄目……」
「まあ、魔術は関係なく、経済的な余裕はあった方がいいでしょうね」
アイシャ達が、それぞれくるりの里親になる条件を言う。直巳も、その条件に異論はない。
「後は、何かあった時のために連絡が取れる方がいいよね。そうなると、こっちの素性も多少は明らかにしないといけないか……」
経済的に余裕がある。魔術に理解はあるけど悪用はしない、直巳達と連絡が取れる。
あまりにも狭き門。そんな都合の良い奴が――。
「あ」
全員、同じ人間のことを思い浮かべただろう。
「ちょうどいいのが1人いるじゃない」
「ええ。問題ないかと」
アイシャとAの言葉に、伊武も黙ってうなずく。
「じゃあ、お願いしてみようか」
直巳も、その里親候補の連絡先は知っている。携帯を持って連絡しようとする。
「お待ちください」
Aに止められた。
「な、何? 何か問題が?」
「あるかもしれない、ということです。これは事情を話す前に、それとなく確認しなければいけないことです」
「ん? 本人に直接聞いたら駄目なの?」
Aは大きく首を横に振る。
「駄目です。嘘を付く可能性があります。なので、先にその確認をしましょう。準備は私にお任せください。明日、1日もらえれば」
「そ、そう? じゃあ、お願いしようかな」
「はい。ああ、確認の際には、直巳様にもご協力いただきますので」
「え? 俺? 何するの?」
「それもまだ言えません」
Aが何を気にしているのか、何をさせようとしているのか。直巳にはまったくわからない。そして、Aはそれを言うつもりもないらしい。
どうせまたろくでもないことだろうと思い、直巳が怪訝な表情をすると、Aに念を押された。
「嫌とは――言いませんよね? くるり様が不幸になるのは嫌ですよね?」
「そりゃまあ……そうだけど」
「はい。決まりです。それでは、私は準備がありますので」
そういうと、Aはさっさと部屋を出ていってしまった。
3人は顔を見合わせて、首をかしげる。
そして2日後。直巳はAが何を考えていたかを知る。
ろくでもないことだろうとは思っていたが、予想を超えてろくでもなかった。
しかし、大事なことだというのもたしかだった。くるりを不幸にしないためには必須だ。
くるりは俺が守らなくては。直巳の胸には、強い決意があった。
2日後。椿家の直巳の部屋に、高田が呼び出された。
経済力があって、魔術に理解があって悪用はせず、直巳達の素性を知っていて連絡の取れる男――高田陽治が。




