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第二章

 椿家から車で2時間。直巳達は、高田との待ち合わせ場所に到着した。

 アイシャは高田を呼びつけるつもりだったのだが、高田の都合により、止む無く指定された場所へ赴くことになった。

 待ち合わせ場所は、郊外の小さなレストランだった。Aは駐車場のスペースすべてを使い、無理矢理にリムジンを駐車する。

 レストランの扉には、貸し切りの表示が出ていた。3人がそれを無視してレストランに入り、名前を告げると、ウエイターが奥にある個室へ通してくれた。当然、他に客はいない。

 個室に入ると、男が1人、テーブルについており、退屈そうにガス入りの水をグラスで飲んでいた。男は黒いスーツを着ているのだが、スーツは所々に凝った意匠がされており、シャツもネクタイも、いかにも高級そうでデザイン性の高いものだった。顔立ちも悪くないのだが、ちょっと濃いせいか、必要以上に人目を引く。

 一度見たら間違いようもない。彼が高田陽治だ。アイシャは高田のことを、「目に入るだけでうるさい男」と評しているが、直巳もそのとおりだと思う。

「こんばんは、高田。待たせたかしら?」

 アイシャがウエイターにコートを預けながら話しかけると、高田は表情を輝かせて立ち上がった。

「やあ! 待ってたよ! さ、高宮さん! こちらへどうぞ!」

 大きな声、大げさな手振り、豊かな表情。

 黙っていてもうるさい男は、話すとさらにうるさかった。

 直巳達が席につくと、高田は待っていましたとばかりに話し始めた。

「すいませんね。僕の都合で、こんな遠くまでご足労いただいて」

「構わないわ。あなたのために遠出するの、これで最後だし」

「ははっ! じゃあ、楽しんでもらわないと! あ、君。始めてもらえる?」

 高田は、アイシャの嫌味をなぜか喜んで受け止めると、ウエイターに食事を持ってくるように伝えた。

「まずは、食事をしましょう。ここは僕が持ちますので、遠慮なく。椿君、足りなかったら遠慮無く追加していいからね! 僕はレストランで食事が終わった時、量が足りないのが何より嫌なんだ! かといって追加するとバカみたいに見られるのも許せないよね!」

「高田、うるさい」

 高田とアイシャが心温まる交流をしていると、料理が運ばれてきた。

 料理は気兼ねないイタリアンで、どれも非常に美味しかった。高田が、あまり堅苦しくない店を選んだのは、若い直巳に対する気づかいなのかもしれない。

 食事をしながら、何気ない世間話が続く。というより、高田が話をしてくれとせがむので、仕方なく直巳が、これまで戦ってきた相手などについて、大事な所は濁しながら話をする。言ったらまずい、ということを聞かれると、Aが上手くフォローを入れて濁してくれた。

「――まあ、そんな感じで。今は静かなものですが」

 直巳が話し終えると、高田はナイフとフォークを置いたまま、呆然と直巳達を眺めていた。

 そして、しばらく黙った後に、一言だけ言った。

「……マジで?」

「マジでって……何が?」

「いやいやいやいや! おかしいでしょ!?」

 直巳が素直に聞き返すと、高田は激しく首を横に振りながら、身を乗り出した。

「戦ってるのは知ってたけど、そんなにずっと戦ってるの!? 毎回違う相手と!?」

「まあ……そうだけど」

 直巳達が戦ってきた相手は、天使教会の力神父、天使騎士、天使付きの聖女、魔術具作成者、民間の組織と様々だ。どれも一筋縄ではいかない相手だった。

「おかしいよ! いや、君達の頭がおかしいのは知ってるけどさ!」

 それは直巳も知っている。

「失礼なやつね。なら、私達がどれだけおかしいか、今から見せてあげましょうか? ん?」

「だから、その発言がもうおかしいんだって」

 高田をシメようとするアイシャを直巳が止めて、続きをどうぞと高田に促した。

「ま、まあさ。普通の人は、天使教会がそんな攻撃的な組織だなんて知らないし、魔術師なんか都市伝説レベルの噂でしか聞いたことがなくて、見たこともない存在だよ? この前、テレビで天使降臨に3回遭遇した人がインタビュー受けてたよ? なのに君達は、それだけ天使を狩って魔術師と戦って……いや、良く生きてるね……」

 直巳はもう麻痺しかけているが、そもそも、天使や魔術師というのはそういう存在だ。普通に生きてれば、一生のうちに一度、お目にかかるかどうかというもの。天使降臨は近くだと撮影機材が壊れるので、遠目から捕らえた光ぐらいしか見ることはできない。魔術師同士の戦いも普通は見る機会がないし、天使教会による報道規制もかかるので、ほとんど架空の話だ。

 改めて言われると、自分でもよく生きてるなと思う。伊武やアイシャほど強くもなく、魔術に対する知識も無い自分がだ。

「いや……僕は魔術師やめてよかったよ……偶然勝った1勝と、君達に見逃してもらった1敗で済んだのは、運が良かったとしかいいようがないよ」

「先っぽから火の弾と氷の塊が出る棒」だけで魔術師として名をあげようとした高田が、自分の強運に感謝している。たしかに、直巳よりも、この男の方が強運なのかもしれない。

「いまさら怖くなったの? あんた、結構深入りしてるわよ」

 黙って高田の話を聞いていたアイシャが、口を開いた。

「怖くなったなら、魔術具収集からも手を引けば? 自分の強運に感謝して、これからは大人しく暮らしなさい。あなたの強運が本物なら、何事もなく普通の生活に戻れるかもね」

「はっはっは! そんなバカな!」

 アイシャのもっともなアドバイスを聞いた高田は、落ち込むでもなく、笑い出した。

「こんな楽しいこと、やめるわけがないでしょう! もう魔術師になろうとは思いませんが、魔術具収集は続けますよ!」

 高田はアイシャの忠告に怯えることもなく、笑顔できっぱりと言い放った。それを聞いたアイシャは、この日はじめて、楽しそうな表情をした。

「いい度胸ね。私達があなたを助けるとは限らないわよ」

 アイシャがにやりと笑いながら言うと、高田は笑顔を崩すことなく言った。

「大丈夫です。僕は運が良いですから」

「高田。相変わらずバカね」

 アイシャがわざとらしく溜め息をつく。だが、ちゃんと高田と目を合わせていた。

「でも、それぐらいの方がいいわ。崖っぷちを怯えながら歩いてる奴より、笑いながら走ってる奴の方が長生きするものよ」

 アイシャは言葉を区切ると、ジェラートに添えられていたラズベリーをスプーンで潰した。

「あなたの命ですもの。酒でも煙草でも魔術でも、好きに使えばいいわ」

「ははっ! 手厳しいなあ!」

 アイシャの忠告に対しても、高田は軽く笑ってそれでおしまいだった。

 アイシャのような老獪な魔術師とまともに付き合えるのは、それだけの器があるか、何も気にしないバカのどちらかで、高田は間違いなくバカの方だろう。

 それでも、高田はこのままやっていくのかもしれないと、直巳は思っていた。

 高田は崖っぷちを走るようなバカだが、崖に飛び込むことはしない。少なくとも、魔術師になろうという目標は、きっぱりと捨てたのだから。

 まあ、愉快な人だから長生きして欲しいなあと、直巳は少し、親しみを覚え始めていた。



「で、これが持ってきた魔術具です。これは全部、お譲りしますので」

 食事が終わると、高田は持ってきたアタッシュケースを机の上に置き、開けて見せた。

 ケースの中には、いくつもの見慣れぬ道具が、きっちりと並べられていた。どの魔術具にも、紙のタグがついており、簡単な説明が書いてある。

「A、チェックして」

 アイシャは食後のコーヒーを飲みながら、Aに指示をする。Aは一言返事をすると、アタッシュケースの中身をチェックし始めた。

 魔術具を触り、タグを見て、高田にいくつかの質問をする。Aの鑑定は、ほれぼれするほどに鮮やかだった。

 Aは10分程度で、高田が持ってきた20余りの魔術具の鑑定を終えてしまった。

 Aは3つの魔術具を取り出すと、アイシャの前に並べた。

「この3つは、なかなか面白いかと。後は全部、魔力を吸っておしまいですね」

 アイシャはちらりと魔術具を見る。タグを見たり、能力を聞いたりはしなかった。

「面白い? 魔術具として?」

「ええ、そうです。今すぐは使いませんが、持っておいて損はないかと」

「あら、そう。Aが目を付けるようなものがあるなんて意外ね。やるじゃない、高田」

 アイシャが言うと、高田は踊り出しそうなほどに喜んだ。

「どうぞ、全部持っていってください!」

「ええ。また何かあったら、ぜひ声をかけてちょうだい」

 アイシャが高田と握手をし、Aは魔術具の入ったカバンを閉じて、自分の足下に置いた。

「遠くまで来た甲斐があったわ。じゃあ、これ」

 アイシャは、折りたたんだ小さな紙片を高田に渡した。

 高田は紙片を開いて中身を確認すると、満足そうにうなずいた。

「はい、たしかに。良い取引きができました」

 取引きは無事に終了したようだ。ようだが――直巳は思わず口を出した。

「あの……高田への代金は?」

「だから今、渡したじゃない。その紙よ」

 アイシャが言うと、高田が受け取った紙片を直巳に見せる。

 どう見ても、手帳の1ページを切って折りたたんだ紙にしか見えない。あれが小切手ということはないだろう。交換に値するような魔術具だとも思えない。

「あの……その紙……何が書いてあるの? 何か、魔術の方法とか、そういうの?」

「はっはっは! 椿君! 僕は自分で魔術を使うことはしないよ!」

 直巳の考えを、高田が笑い飛ばす。高田の悩みがなさそうな笑い声を聞くと、「何がおかしいんだこのやろう」という気持ちが不思議と湧いてくるのだが、何とか押し殺した。

「魔術でもないなら、何を? 魔術具と交換できるような情報……とか?」

「別に何でもいいじゃない。こっちにとっては、タダみたいな情報よ」

 アイシャが面倒くさそうに言って舌打ちをする。

 その時、直巳の携帯にメールの着信があった。後で見ようと思い、気にしないことにする。

「いや……まあ、言えないような情報なら仕方ないけど……」

 直巳が不満そうに口ごもりながら引き下がる。直巳も仲間とはいえ、アイシャのやっていることのすべてを知っているわけではないし、その権利があるとも思えない。アイシャが教えないといえば、それまでのことだ。

「高田様にお渡ししたのは、直巳様のメールアドレスと携帯電話の番号ですよ」

 直巳の隣りに座っていたAが、はっきりと言った。

「え? いや……え?」

 Aの言葉が理解できず、直巳はアイシャとAを交互に見る。

「え……? どうして、俺の連絡先で魔術具もらえるの? っていうか、勝手に……」

「うるっさいわね! いいじゃない! 減るもんじゃないし! 男が連絡先の一つぐらいでグチグチ言ってんじゃないわよ! 女相手なら自分から配り歩く程度のものでしょう!?」

「そうだよ椿君! 僕はね! またこういう風に、色々な話を君から聞かせてもらえれば、それでいいと言った! 高宮さんは了承した! そういう話なんだよ!」

「あ……え? 俺が悪いの?」

 なぜか逆ギレしたアイシャと高田の勢いに押され、直巳が素のテンションになる。

 そして、直巳は先ほど着信したメールのことを思い出し、携帯を開いた。


 件名:高田です

 本文:これ、僕の電話番号です。メールも電話も、いつでもしてね! また今度、一緒にご飯行こうね! それか飲みにでも……って、これは椿クンにはまだ早いか(笑)


 直巳は男につきまとわれる女性の気持ちを少し感じた後、舌打ちしたくなるようなメールを閉じて、いくつかの操作をしてから携帯をポケットにしまった。

 つまり、高田は魔術師の話相手と引き替えに魔術具をゆずったということか。

 たしかに、高田は資産家なので金は欲しがらないだろう。だからといって、アイシャもコレクターの高田が欲しがるような魔術具を渡すとも思えない。そこで、「直巳と話していい権利」で手を打ちましょうということになったらしい。

 落ち着いて考えれば、別にどうということはない。連絡先を教えただけだ。それを高く売りつけたアイシャやAが利口なのだし、直巳は役に立てている。悪い話ではない。

「うーん……ま、連絡先を教えるぐらい、いいんだけどさ……高田がそれでいいなら」

 直巳が了承すると、高田はまた高いテンションで喜んだ。

 ちなみに、直巳は先ほど携帯を取り出した時点で、高田のメールアドレスと電話番号に着信拒否設定をしている。

 連絡先を教えるとは言ったが、いつでも連絡を受けるとは言っていない。高田の連絡先は入手したので、暇な時にこちらから連絡すれば良いだろう。

 取引きも無事に終わり、そろそろ帰ろうかという雰囲気になった時、高田が思い出したように口を開いた。

「あ、そうだ。もう一つ、面白い情報があるんですよ」

「何? とりあえず言ってご覧なさいよ」

 アイシャは何の期待もしていない口調で、Aにコートを着させられながら相づちを返した。

「家を出る前に手に入れた情報なんですけどね。今晩、天使降臨があるらしいんですよ。急な話だから、必要ないかなー、と思ったんですけど、聞きます?」

「早く言いなさいよバカ! 最初言いなさいよバカ! あんた、ほんっとバカね!」

 アイシャは声を荒げると、高田を締め上げるように天使降臨の場所を聞き出し、Aが同時進行でその場所を携帯の地図アプリで表示させる。

 Aが表示させた降臨予測地点をアイシャに見せる。直巳も横から覗き込んだ。地図が示している場所は、ここから車で移動しても3時間ほどかかる。高田の言うとおり、たしかに遠い。

「本当に遠いわね……A、あんた気が付かなかったの?」

 アイシャがAを詰めるが、Aはいつもどおりの軽い笑顔でそれをかわした。

「さすがに、そこまで遠いと範囲外ですから。しかし遠いですね。高田様、降臨の予測時間はどれくらいですか?」

 Aにたずねられると、高田は少し古ぼけた革ベルトの時計を見た。

「えーと……今から90分後ぐらいかな」

 アイシャが頭を抱える。食事を始める前に聞いていれば、もっと余裕があっただろうに。

「参ったわね……こんなおいしいの逃がすなんて……高田、すぐに出せるヘリとかないの?」

「ええ! ヘリ!? この時間だとどうかなあ……」

 一応、検討ができるあたりはたいしたものだと、直巳は素直に感心する。だが、手配してヘリポートまで移動して、となると、やはり間に合わない可能性が高いだろう。

 直巳はAの携帯を借りて、地図を見る。たしかに、ここからではどう頑張っても間に合わないだろう。

 だが、地図の縮尺を変えてみてみると、あることに気づいた。

「なあ、A。これ、高宮家からだと、もう少し近いよね?」

 直巳に言われると、Aは携帯を受け取り、地図アプリの操作をした。

 位置関係でいうと、今直巳達がいる場所から、高宮家を通過して、降臨予測地点がある。

「ええ、そうですね。ですが、間に合わないことにかわりは――」

 そこまで言って、Aは直巳の意図に気づいた。

「なるほど。希衣様ですか」

「うん。高宮家までの移動は、空間転移でノータイム。そこからバイクで移動すれば、なんとか間に合うかもしれない。かなり厳しいし、伊武がやるって言えばだけど」

「そうですね。アイシャ様、どうしますか?」

「言うだけ言ってみなさいよ。バックアップ無しだし、時間的にも厳しいけどね。まれーなら大丈夫でしょう。じゃ、直巳。まれーに電話」

「え、俺?」

「立案したんだから、やりなさいよ。それにあの子、直巳の言うことなら大体聞くでしょ? 大丈夫よ、私達も後から追うし、まれーが天使狩りぐらいでどうこうなると思う?」

「……わかった」

 直巳は少し、伊武に申し訳ないなと思いながら、伊武に電話をかけた。

「……もし……もし」

 着信相手が直巳だとわかっているからか、伊武はすぐに電話に出た。

「ああ、伊武? 実は――」

 直巳は伊武に、天使降臨があるという話と、伊武が急いでくれれば間に合うかもしれないという話をした。

「1人で行くことになるから、伊武がよければ、だけど」

「いい……けど……天使遺骸……1本は……もらっていい? アブエルに……食べさせたい……から」

「ああ、それはもちろん」

「うん……なら……行く……Aに……場所……送らせて……あと……どれが……使えるバイクかも……」

「ああ、わかった。すぐに連絡させる。急にごめんな」

「ううん……いい……の……天使遺骸が……手に入るなら……悪い話じゃ……ないし……」

「そっか。それならよかった。戻ってきたら、何でもお礼するから」

「何でも……? 本当に……何でも?」

「え? あ、うん。まあ、出来ることなら……」

「そっか……なら……死んでも……殺しても……やり遂げる……よ……それじゃ……」

 伊武は最後に、なみなみならぬ気合を見せて電話を切った。

 直巳は何を言われるのかと少し不安になりながら、アイシャとAに伝える。

「伊武、やってくれるって」

「よし! さすがまれー!」

 アイシャが拳を握り、喜びを表わす。珍しくテンションが高い。高田に引っ張られているのだろうか。

「A、伊武が降臨予測地点の情報と、使えるバイクがどれかを教えて欲しいって」

「かしこまりました。すぐに」

 Aはすぐに携帯を操作して、伊武に各種の情報を送る。伊武とAが天使狩りのたびにやっていることなので、もう手慣れたものだ。

 ものの1分もかからず、Aは伊武への連絡を終えて、アイシャと直巳に目配せをした。

「では、我々も向かいましょう。遅れての到着になりますが、出来るだけ急ぎます」

 Aは高田に一礼すると、彼から受け取った魔術具の入ったカバンを持って、車の準備をするため、一足先に店を飛び出した。

 アイシャは、この様子を呆然と眺めていた高田に近寄ると、彼の手を取って言った。

「それじゃ、私達はこれで失礼するわね。天使狩りが成功したら、良い時間を過ごせたということにしておくわ」

 にこっと笑うアイシャ。最後だけだが、良い顔をみせるということは、高田にそれなりの価値を感じているのだろう。2度と会わない相手なら、こんなことはしない。

 高田はアイシャの手を握り返すと、興奮した様子で言った。

「高宮さん。あなた達は、いつもこうやって戦っているんですね」

「そうよ。手慣れたもんでしょ?」

「本当に。準備から行動までが実に鮮やかだ。この手際の良さを見ることが出来ただけで、今日は来てよかった」

 直巳達にとっては当たり前の光景だが、高田から見れば新鮮なのだろう。

 アイシャは高田から手を離すと、振り返ることもなく、足早に店を出ていった。

「じゃあ、俺も行きます。この天使狩りの話は、またいずれ」

 直巳が言うと、高田は軽く手をあげた。

「楽しみにしているよ。伊武さんにもよろしく」

 直巳は高田に見送られて店を出た。

 店の前には、もうリムジンが待機していた。早く乗れ、というアイシャの声に押されるように、直巳がリムジンに飛び込むと、ドアが完全に閉まる前にAは車を発進させた。

「こんなことなら、リムジンで来るんじゃありませんでした」

 運転席のAが言うと、アイシャは苦笑しながら答えた。

「しょうがないわよ。ぶつけても壊してもいいから飛ばしなさい」

「かしこまりました」

 この夜、直巳は全力で走るリムジンに乗る、という珍しい体験をした。



 一方、伊武はAから連絡を受けたころには、出撃の準備が終わっていた。いつもどおり、ライダースーツのような戦闘服を着て、椿家の2階から、空間転移で高宮邸に移動をする。

 庭に出て、Aが使えるといったバイクに乗り込む。400ccのレーサーレプリカだった。Aにしては珍しいなと思いながら、伊武は乗り込み、簡単に操作方法を確認する。

 すぐに運転のコツを掴んだ伊武は、あっと言う間に飛ばし始めた。大抵の事故なら無傷、またはすぐに回復する自信があるので、伊武の運転には恐れが無い。だから、慣れるのも早い。

 この調子なら間に合うかもしれないと、伊武は一人、夜の道をひた走った。

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