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第四倉庫とビン詰め




 夢と云うのは大体そうだが、荒唐無稽過ぎる。だけど、凄く恐ろしい夢を見たように、目覚めた時には汗びっしょりだった。

 リアルな緑色のカエルも、まるで子供向け番組のキャラクターのような擬人化されたピンクのカエルも、何かを暗示しているような気がして仕方がない。 

 

「どうしたの? 汗びっしょりだけど」

 あの山口とか云う看護師だ。地下の分娩室なんて無いと言い張っていた。

 時計を見るともう六時過ぎ。朝のバイタルチェックに来たのか。

「いえ……病室暑いっすから」

 もし、あの“カエルのオバケ”の話をしたオバチャン看護師だったら、お前のせいで変な夢を見た。と、毒づくところだったが。

「ああ、どこの病院も病室の設定温度高過ぎるらしいから……よく患者さんから文句云われるのよ」

 文句を云ったつもりは無かったが、入院してから常々思っていた事なので成る程と思った。


 その日は誰も見舞いには来ず、検査や処置なども無くて退屈していたのは確かだ。夢や“カエルのオバケ”や、アキラが何故倉庫から出て来たのかも気になる。

 俺は地下に行ってみる事にした。いや、それは自分の意思と云うより、何かに導かれているような感じだ。



 スロープになっている廊下は平衡感覚を狂わせ、相変わらず午前中だと云うのに薄暗く、人も居ない。

 霊安室を通り過ぎ、倉庫の前まで来た。よく見ると第四倉庫と書かれてある。

 病院やアパート、ホテルの部屋番号は“四”を外すのが日本では当たり前の事だ。理由は“四”は“死”に通じ、縁起が悪いから。それくらい、バカな俺でも知っている。なのに何故、“第四”なんだ? 患者は関係がないからあえてその番号を付けたのか? 

 その番号は、何人なんぴとたりとも立ち入らせない為の護符のようにも見えた。

 取っ手を掴んで開けようとした時、今更ながら自分の手が震えているのに気付いた。

 まるで初めて万引きした時の様だ。そうだ、あの時だって、ビビリまくっていたけど結局は成功したじゃないか。大丈夫だ。何が大丈夫なのか解らないが、俺は自分に強く言い聞かせ、取っ手を引いた……が、開かない。当たり前だ、使わない所は鍵を掛けとくのが普通だ。

 ……じゃあ、何故アキラはあの時、此処から出て来たんだ?

 “開かないから仕方がない”と、諦めて戻ろうとした時だった。

 中から、扉の向こうから、解錠されたような硬い音が聞こえ、取っ手を掴んだままの俺の手に、その手応えが伝わる。

 誰か中に居るのか?

 それとも何かの弾みで解錠したのか? 

 どちらにしても、中にある何かが俺を待っているような気がして、震える手で扉を開けた。 


 中は……まっ暗だった。当たり前だ、地下なんだから。

 廊下には申し訳程度の照明が点いていたが、倉庫の中は窓さえない。まっ暗だ。

 大体、どこでも入り口の付近に照明のスイッチがある筈。俺は扉の脇の壁をまさぐり、それを探し当てた。早くこの暗闇を消したい。その一心でスイッチを入れた。

 

 明るく照らし出されたそこは、俺が持っていた倉庫のイメージを覆すものだった。つまり、器具や機器、書類や資料や段ボール箱、椅子やテーブルなどが雑然と置かれているのを想像していたんだが……これは、このスッキリとした感じは何だ?

 壁に設けられた棚以外には何もなく、その棚には整然と、まるで展示品のように何かが並んでいる。

 標本だ。胆石だの結石だのはそのままコロリと小さなビンやケースに入れられていたが、摘出したガン細胞や様々な臓器、そんないわゆる“生もの”は液体を満たした透明な容器に封じ込められていた。たぶんその液体はホルマリンとか云うやつだろう。

 その展示物の中に一際大きな容器に入れられたものが在った。

 それは、一見、悪趣味なオブジェの様だった。

 赤ん坊だ。たぶん産まれたばかりの赤ん坊。 

 しかし……

 何なんだコレは?

 人間の赤ん坊だよな? コレは。

 

 あまりの異様さに絶句し、立ち尽くして居ると、後ろで扉が勢いよく閉まる音が聞こえた。



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