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金と抗争





「良太、おめぇ、最近変な奴とつるんでるらしいじゃねえか」

 鮫島がその名の通り鮫の様な眼で睨みながら云う。

 いや、睨んでいるんじゃなくて元々目付きが悪いだけだが。

 こーゆー奴は気の毒だよなあ、目を合わせただけで“睨んでる”とか云われるわけだ。そりゃグレたくなる気も解る。 

「変な奴……ですか?」

 一応そう答えたが、鮫島が誰の事を云ってるのかは察しが付いていた。あいつだ。アキラだ。

「なんかよー、ジャミラクワイみたいな奴よ、デカイ帽子被った」 

 何だ? ジャミラクワイって? 外国のミュージシャンにそんな名前のがいた様な気がするが、微妙に違うような……まあ、そんな事はどうでもいいけど。

「あー、アイツですか、別につるんでる訳じゃないっすよ」

 別に俺が誰とつるもうが勝手だとは思うんだが、そんな事を云ったら何するか判らない、鮫島は。

「ダチじゃねえの?」

「ダチじゃねえっすよ」

 即答してしまったが、ほんの少し後悔した。

 後悔してるって事は、本当は俺、アイツとダチになりたかったのかもしれない。

 などと考えていたら、鮫島が苛々しているっぽい事に気付いた。何故だ?

「良太」強面の取り巻きの一人がふいに強い口調で云う。鮫島と同じ三年生の牛山だ。

「鮫島さんは、ソイツから金を調達出来ないかと云っているんだ」

 何処をどう変換すればそうなるのか解らないが、そういう事か。全く、金金うるさい奴らだ。

「金……ですか?」

 まあ、医者の息子でボンボンなら金に困ってはいないんだろう。でも。

「いや、アイツん家貧乏らしいし、アイツ自身もちょっと頭が可哀想な奴なんです」

 そう云うと、心なしか鮫島の目が変わった様な気がした。まあ、変わったと云っても、鮫の目がエイの目に変わったぐらいの微妙な変化だが。

「そうか……」 

 なんでこう不良ってやつは変な所で人情家になってしまうんだろう? 普段は人情もへったくれも無い事してるくせに。しかし、アキラの事は諦めたようなので安心した。

「これから皆で虎正さんとこへ小遣い稼ぎにいくんだが、良太も行くか?」 

 なんだ、金ヅルあるじゃないか。“虎正”ってのはここらへんを仕切ってる暴走族の頭だ。ヤクザとも繋がってるらしく、たまにちょっとしたパシリを頼んでくる。

 何々を何処かへ届けるとか、何々を盗んでくるとか、何々を痛め付けるとか……それをやればそれなりの“謝礼”を呉れる。

 今回は暴走族同士の抗争で兵隊の頭数を増やす為に呼ばれたようだった。

 俺らは単車は持ってないが、最後には結局白兵戦になるのでそれは関係ない。逆に単車が邪魔になるケースもあるだろう。

 相手のチームは隣の市を仕切っている“護摩蛇羅”。つまり、この抗争に勝てば虎正が率いる“ジャスティス・タイガー”は隣の市も傘下に治める事が出来る。

 と、淡々と思ってはみるが、俺は抗争なんかに参加するのは初めてだ。よく考えたら喧嘩らしい喧嘩もしたことがない。

 いよいよ危ないと云う場合は何処かへ隠れていよう。誰がどう戦ったかなんて虎正チームもいちいち覚えてないはずだ。

「どうした? 行かないのか?」 

「い……行きます行きます」

 ババアの顔も見たくないし、アキラに関してはまだモヤモヤしてるし、少し暴れたい気分は確かに在った。



 

 俺は自分の考えの甘さを呪った。

 “護摩蛇羅”の兵隊の数が半端無いのだ。総勢百人はいるだろうか? こっちは五十人にも満たない。 

「おい……何でこんな事になってんだ?」

「何でも、虎正さんのチーム、抜ける奴が続出して……今日も殆どが俺らみたいな傭兵らしいっす」

 鮫島と牛山はボソボソと小声でそんな事を話合う。当の“ジャスティ・タイガー”の頭、虎正はと云うと苦虫を噛み潰したような顔をして単車に跨がっていた。

 暫くして“護摩蛇羅”の頭らしい男が単車を滑らせ広場の中央に出て来た。それにならい虎正も出て行く。 

「んああああ?」 

「ごるあああ!」

 そのもの自体には意味の無い、日本語ですらない怒号が飛び交う。まるで喧嘩している猫の威嚇だ。

 そうして威嚇しあう其々の頭が、何か合図をしたらしく単車も歩兵も一気に中央へ走り出た。

 俺も後から単車に押し出される様な形で走った。ぐずぐずしてると自分のチームの単車に轢かれる形になるので仕方無く。

 元々面識の無い者達同士の部隊だ。誰が敵で誰が味方なのか判らない。鉄の鎖が、鉄パイプが、金属バットが、乱舞する中を逃げ惑うしかない。

 兎に角広場から抜け出して安全な所へ……そう思った時、頭に鈍い衝撃を感じ、そのまま意識がブラックアウトした。



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