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番外4話「レムイック平原の歩き方(中)」

  3

「嘘だろ。おいアルフレッド、お前は何を考えている。こんなことしたら国家反逆罪になることくらい、お前もわかっているだろ」

 父が騎士団長――――否、反逆者のリーダーに向けて言う。

「今ならまだ、謹慎処分と降格処分だけで済ませてやる。アルフレッド、冷静に考えろ。お前はアッシュフォードの敵として、この先生きていくつもりか」

「…………」

 アルフレッドは答えない。ただ下を向いているだけだ。

「な、よせよアルフレッド。お前がここでこの国を裏切ったところで、お前に何の得がある。何もないだろ。だから、その剣を収めろ」

「ああ、わかったよ」

 アルフレッドが顔をあげる。

「そうか、なら……」

「お前は何も分かっていないということがな」

 刹那、アルフレッドが跳躍した。自己加速系統の魔法か何かを発動させたのだろう。生身の人間には不可能な速さだ。

 父はとっさに己の剣をとりだした。

「くっ、<鋼鉄フルメタル……」

「遅い」

 だが、硬化魔法の発動前に敵の攻撃が命中する。

 キーンという、金属同士がぶつかるときになる甲高い音が聞こえた。

 直後、父の持っていた剣が中ほどからぽっきりと折れ、高速で回転しながらこちらへと飛来した。あわててよけたが、完全にはよけきれなかったのか左頬に少し熱が生じた。

 痛い。生まれて初めて人から傷つけられた。そこに敵意はなかったかもしれない。いや、確かに敵は父を殺すつもりで攻撃してきた。しかし、それはあくまでも父に対してであって明確に私が標的にされた訳ではない。

 それなのに、こわいと感じてしまった。

 目の前で父が吹き飛ばされる。いつの間にか横に回り込んでいた別の騎士によって。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 母の悲鳴が聞こえる。

 だがそれも唐突に聞こえなくなった。おそらく父たちと同じく気絶させられたのだろう。

 ここから見た限りでは、兄たちも戦ってはいるようだが何分多勢に無勢。次々にかっこ撃破されていった。

 そこでふと、違和感を覚えた。何故私は狙われていないのだろう? 

 まあ、どうせ王家のお飾りでしかない私なんて簡単に倒せるから他の王族から潰して行こうという考えだろうけど。

 その証拠に、騎士たちがこちらへとだんだんと近づいてくる。そのうちの一人が小寺に矢を放ってきた。牽制のつもりなのだろう。私のほんの数センチ横をかすめるようにして飛んで行ったそれは、ちょうど後ろにあった馬車に命中した。

 火炎系統の術式でもあらかじめ施しておいたのだろう。着弾と同時に、馬車が炎上する。

 騎士たちが跳ぶ。己の得物を手にして。

「安心しろ。すぐ楽にしてやる」

 本来肉声が届かないはずのところに居るはずなのに、反逆者の声が聞こえてきた。

 わずか2秒。そんな短時間で100メートル以上の距離を詰めた反逆者が、その剣を振り下ろす。

 ――――私はここで死ぬのか。

 そう思うと、涙が出てきた。

視界がゆがむ。でも、そんなことは関係ない。だってもう間もなく死が訪れるから。

そう思って、目を閉じた。

だから、


何故曇ったうめき声と生温かい液体が自分に付着したのかわからなかった。

恐る恐る目を開く。そこには、上半身に反逆者の剣が突き刺さり、こちらに何かを差し出した状態でこと切れているメイドがいた。

とっさに私は、その緑色の半透明な球体に触れた。

刹那、まるで自分が落ちていくような感覚とともに、私は意識を失った。


 4

目を開けるとそこは、見慣れない部屋の中だった。

家具や調度品はもちろんのことこの部屋の空気さえも、全く知らない物であった。

何故こんなところに居るのだろう? そうだ、護衛の騎士団が裏切って……

ガバっと身を起こし、室内を見渡すと、ベッドのそばに置かれた椅子に座っている1人のメイドと目があった。

「お目覚めになりましたか?」

 椅子から立ち上がり、メイドはこちらへと近づいてくる。

「く、来るな。こ、この反逆者!」

 少し後ずさりながら、湧き出る恐怖を押し殺しながら懸命に言葉を放つ。

 その様子を見てメイドはどこか納得したような顔になった。

「その様子ですと、やはり襲撃でも受けたのですね。お怪我などはありませんか?」

 メイドはさらに近寄る。私もさらに後ずさる。そして壁にぶつかる。

完全に逃げ道がなくなった。逃げられないこの状況に内心恐怖を感じながらも、それを悟られないように、虚勢を張る。

「何を言う。貴様もその襲撃者の一味なのだろ? 捉えた私が逃げられないように監視すらためにここに居るのだろ?」

「…………」

 メイドは答えない。答えない代わりに何かをこちらにつきだしてきた。

「こ、これは…………」

 それは、うっすらと光る赤く半透明な球体だった。

「そう、これは<簡易転移装置インスタントポータル>転移座標を設定する必要がなくなった代わりに、片割れを行きたい場所に設置する必要性があり、主に教会の司祭連中の中央教会と己の教会の行き来などにしか使えないという哀れな消耗品」

「じゃあ、あなたは……」

「申し遅れました、わたくしサフランと申します。王族の護衛から反逆者の殲滅おそうじまで、様々なことを必要とあらば何でも命令を申しつけてください」

 メイド――――サフランが私に向かって深々とお辞儀をした。

 その後サフランは、お着替えをお持ちします、と言って部屋を出て行った。


 数分後、さすがに普段着ているようなドレスはマズイというサフランの提案を受け入れ、普通の街娘が着るような服を一式用意してもらった。

 初めは仮にも王族の私がこんな庶民の格好を、などと思ったが、着てみると案外普段着なれたドレスよりも動きやすくたまにはこんな恰好もいいかな、などと思えてくるから不思議である。

 はじめてきた服の着心地を確かめた終わったころ、ちょうどサフランが紅茶を入れて部屋に入ってきた。

 そこで、疑ったことに対して私はなんの詫びもしていないことに気づきk峰茶を注いでいるサフランに話しかけた。

「疑ってすみません、サフランさん。それに<簡易転移装置インスタントポータル>のもう片方を持っていたメイドは……」

「いいですよ、気にしていませんし。それにあの子は私が生みだしたいわば分身みたいなものですし、変わりならいくらでもいますから」

「……死んでしまって……って、え? 分身?」

「それくらいできなくてメイドの仕事が務まりますか」

 サフランが(そこそこ、少なくとも私よりは大きい)胸を張って答える。

 何故メイドに分身を作る力が必要なのか謎だが、それはきかないでおこう。いざという時に、敵国の軍隊を一つ鎮めるためとか笑顔で言われたらどう答えたらいいかわからないし。

「ところでお嬢様、お嬢様たちを襲った敵の正体はわかっているのでしょうか?」

 注ぎ終えたカップをこちらに差し出し、私がそれを少し飲み、テーブルの上に置くのを見計らって、サフランが話しかけてきた。

「それは……」

 一瞬と絶えないという考えが浮かんだが即座に却下し、そのときの事実を正直に述べた。

「……そうですか。しかし何故聖騎士団はこのような行動を起こしたのでしょうか?」

「それがわかれば苦労しないんですけど。でもなんでだろう……あれ、ちょっと待って

……」

 なにかが引っ掛かる。でもそれが思い出せない。

「なにか思い出されたのですか、お嬢様!?」

 サフランが詰め寄りながら聞く。普段なら上下関係のなっていないその行為はいささかメイドとしてはどうなのかと思うが、幸か不幸かこの場にはそれを気にするものは誰一人としていなかった。


『この俺がなんの計算もなしに、こんなことするとでも思うか?』

 違う。この後アルフレッドは何と言っていた?

『くれぐれも殺すなよ。あのお方の命令だ。それに、腐っても王族だ。新体制が成立した時のいい見せしめにもなるだろう』

 ……あのお方?

「思い出しました、サフランさん。敵は、あのお方の命令って言ってました。流石にそれが誰なのかまでは言ってませんでしたけど……」

「わかりました、私はその辺りを少し探ってみます」

 そう言ってサフランは部屋から出て行った。


どうも、普段の投稿よりも文章量が増えてる気がするマチャピンです。

さて今回は、投稿開始1周年記念作品(仮)の中編でした。本編に出ていない新キャラがまた増えましたが気にしない方針で。3章で出てくるから(少なくともサフランは)。

できれば明日、後編を更新します。

誤字報告キャンペーン絶賛開催中。

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