番外10話「夜、宿直室にて」
とある一室。
付近の他の部屋の電気は消えているのに、その部屋からのみ光が外に漏れていた。
室内に似るのは一人の女性。二十代後半から三十代半ばぐらいの年齢だろうか?
その女性は、部屋に置かれたソファーに腰をかけ、くつろいでいる。
彼女の前に置かれたテーブルには、空になった数本の缶ビールと、未開封のものが2本、それにグラスに注がれた黄金色の液体にビーフジャーキーの袋が二つ。そのうちの一つには中身はなく、もう一方もかなり減っている。
そのグラスに手を伸ばし、少量を口に含みながら、テレビの画面に目を向ける。そこにはやや簡素なセットの上でパソコンの販売を行っている二人の男女が映っている。
時刻は午前四時を少し過ぎた辺り。まだ夜が明けるまでには時間がある。
女性は今流れている番組に興味を失い、目を離した。
画面の場面は切り替わったが、女性はそれにも気付かない。ただただ何もない空間を眺めている。
「たいくつだなあぁ」
どれくらいの時間が立っただろうか?唐突にその女性がそうつぶやいた。
「今頃二人はなにしているのかな?」
彼女が考えているのはおそらく子供たちのことだろう。いつの間にか視線はテーブルの上に置かれた写真立てに移動していた。
映っているのは女性と二人の少女。サンタのような服を着ている銀髪の子と、ボーイッシュな感じのトナカイに扮した少女。
そんな二人のことを想っているのだろうが、じゃ間が時間である。大抵の子供たちならもうとっくに寝ているのではなかろうか?
しかし女性にはそうではないという確証があった。
「友紀ちゃんはああ見えて意外と頼りになるし、それに成実ちゃんもやる気さえあればなんでの一通りできる子だからなぁ」
ふぅ。そうため息をつき再びビールをあおる。
「それにしても、友紀ちゃんの契約精霊は“あの子”かぁ…………」
その女性はどこか遠い目をしながら、おもむろに携帯電話をとりだした。
待ち受けに映るのはこれまた写真と同じ二人の少女。しかしこちらは振りそでを着せられている。
「さてと、ちょっと雪花ちゃん辺りにでも電話してみようかな。確か番号は、っと……」
アドレス帳から友人の番号に電話かける。しかし、いくらコールしても相手は出ない。
そこでふと、彼女はある一つの事実に気付く。
「そう言えばまだ夜中じゃん。雪花ちゃん寝ちゃってるのかぁ」
そう言って携帯をしまい、壁にかかる時計に目をやる。
現在の時間は午前五時十七分。
もう少し時間がたてば、日も昇る頃合いだろう。
背伸びをして、思考を切り替える。まだ、宿直の仕事は終わったわけではない。
そうしてその女性――古泉ひかりの夜は更けていった。
やっとだ、やっと古泉家のお母さんの名前が出せた。
どうも、妙な達成感に浸っているマチャピンです。
この話でたぶんもうお分かりかと思いますが「月明かりの魔女」=母親です。
もっとも、まだ彼女たちはまだそれを知らないんですが……
それでは、本日はこの辺で筆を置かせていただきます。