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佐恵と俺が寝たきっかけを作ったトマと黒髪の女は結局すぐに別れたらしかった。
確か、4月の終わり頃。
ゴールデンウイークに入り学校が休みのある日、珍しく佐恵から誘われ近くの街に来ていた。
周りは観光客ばかりで混んでいたのが人通りの多い通りから歩いて抜け出せば消えたように人がいない。
むしろいつもより空いていた。
「葛城くんち、学校から近いんだね」
例の佐恵の事務所で貪りあった後、休憩に入ったファミレスで飲み物を頼んだ。
佐恵はコーヒーフロート。
俺は珈琲。
「実家は少し距離があるよ。こっちは姉のいる親のマンションだから」
「ふぅん」
場所は何処、とも聞いてこない。佐恵は俺に何も聞いてきたことはなかった。
ただ、ひとつを除いて。
ねぇ、と一口啜った後見上げてくる。
「お姉さんとは、寝れた?」
真面目な顔してとんでもないことを言い出すやつだ。
「まだ昼間なのに何言ってるんだよおまえ」
佐恵は顔付きを崩さずに俺をみつめていた。
「葛城くんこそ…もう童貞じゃないんだからお姉さんと寝れるでしょ。お姉さんたぶん処女だろうし簡単じゃない」
深く、ため息をつく俺を見て佐恵は軽く肩を竦めた。
「ごめんね、でしゃばって」
「いや、そうじゃなくてなんかさ…あんたそんなキャラだったっけ。」呆れる口調にうれしそうに微笑が返る。
「葛城くんこそ…なんでも知ってますって顔してるのにお姉さんのことになると必死なんだね」
「…悪かったな」
「ううん。可愛いんじゃない?」
くすくす笑う佐恵の前でグラスの氷がからりと音をたてた。
「でも残念だなぁ」
「え?」
「葛城くんがお姉さんと寝られたらもうわたしは用済みだね」
「…」
佐恵は人事のように淡々と話している。
「だって、やっぱり真剣にお姉さん好きならわたしみたいなのとズルズルしてるのはよくないよ。お姉さん誤解するかもしれないし、そうなると」
言葉を探して、フロートをつつく。
「…葛城くんもわたしを邪魔になるよ。そしたらもう…せっかく仲良くなれたのにこうしてた時間とか全部なかったことにしたくなるよ」
そっと俺を見上げた。
「それなら、そろそろもう切り上げたほうがいいと思う」
それが佐恵の望みならと言うほど、勝手な人間ではなかった。
ごめん、というのもちょっと違う。
佐恵に言わさせた狡い自分に厭になる。
「サエ」
里歩ちゃんに執着する自分に嫌になる。
「謝らなくていいよ、葛城くんにいっぱい抱いて貰って嬉しかったし」
でも初めてのひとが葛城くんならよかったな、とサエがぽつんと言った。
最後の言葉は、頑張って、だった。
俺はその日、里歩ちゃんの身体に自分の印しを付けた。
それからしばらくして。
俺は里歩ちゃんとただの姉弟以上の関係になった。