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恋とか愛するということ。

言葉なんか信じないのは佐恵と俺の共通してるところ。


佐恵は気持ちも信じない。

佐恵に導かれて彼女の身体を泳いでゆく。

深い水の底に潜む感触を感じ取りたくて、確かめ合う。


砂の中に宝物を探すこどもみたいだ。

手にしたものがたとえがらくたでも価値あるものと信じたがるこどものように。

手を、伸ばす。


そして、軽い落胆。


何も、ない。

わかっていた。


俺は佐恵を好きかもしれない…かもしれないだけだ。これが里歩ちゃんの身体ならよかったとまでは思わないが、でも佐恵を愛することは多分ない。

それはわかる。


佐恵は俺の顔が好きなだけと笑っていた。まるで年寄りの睦言みたいだが変に爽やかに響いた。


気持ちよさそうに時折漏れる彼女の声は鼻唄を抑えている…みたいだった。


わからない女。それとも女はこんな風にわからないものなのか。悪いかな、と思ったけど大丈夫だといわれて最後までやってしまったし。


まるで遭難者が打ち上げられたようにソファーで気付いたら裸だ。

佐恵が随分慣れた様子だったので思う存分やってしまった。


「…少しは練習になったかな?」


貧弱な体格の癖に、中は男に絡み付いて離さない女の身体。

佐恵は経験がかなりある。


「悪かったな、初めてで」

「楽しかったよ。嬉しかったし」


と、身を起こしてにこりと笑う。

意味が解らない。


「初めての男の相手って嫌だろ、普通は」


「わたしは…」


俺を見つめる彼女は裸のままで俺もまた同じ。


白い腕が俺の腕に巻き付く、柔らかく。汗ばんだ俺の胸筋に彼女の髪が触れ、溶けそうな薄い身体が寄せられる。熱い吐息がくすぐったい。


「もう一回…やりたいよ」

「意外にエロいな」


「幻滅した?」


答えの代わりに彼女へいきなり入り込んだ。


「んっ」


行為に溺れていく。


「なあ」


「んっ…なに」


「楽しいのか?」


俺にしがみつきながら登りつめてゆく肌がうっすらと紅い。淫らな音の響き。


「よくわかんないけど…でも余計なこと考えないですむから」


だから嫌いじゃないと佐恵は喘ぎながらもきちんと答えてきた。


そうかもな。

いちいち難しく考えても仕方ないか。

顔が好きなんとなく好きいいかなと思った…そんな程度で付き合って寝て飽きて別れる、ざらだよな、それ。

でも、なんだろう。


苦しい。


里歩ちゃん。

俺はなんで里歩ちゃんにこだわるんだろう。


理由はわかってる。理屈はわかってるけどこんなに苦しいぐらいこだわる自分がわからない。


苦しいだけなのに執着する自分がわからない。


ホントに馬鹿だ。


「葛城くん…笑ってるね」


汗ばむ佐恵を抱きしめてその存在を確かめるように匂いを嗅ぐ。


「サエの匂いがする」


「やめて…変態みたい」


くすくす身をよじって楽しそうな彼女を好きになれたら楽なのに。


「楽しかったよ葛城くん」


佐恵はビルを出た信号の手前で、俺に手を振って走って行った。


それを見て、思った。


恋の始まりも終わりもいつの間にか消えてしまうものなんだと。

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