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高校1年の、4月。


俺はほぼ姉のマンションから学校に通っていた。


マンションから学校までは徒歩でいける。


中学から持ち上がりの、カトリック系私立高校の俺のクラスには、片親が別の人種の奴が多い。


海外生活を転々としていた奴はとくに考え方がすでに大人で、自分の意見をもちながらも人に合わせるのも上手い。

ジェシーはそんな連中のひとりで、なぜか気が合い、中学からの付き合いだ。


「ハルキ、また今日も姉ちゃんとこかよ」


放課後、委員会に出ようとしない俺に呆れてジェシーがやってきた。


「自分ちに帰るだけだけど。親父のマンションだ」


ジェシーは、俺の姉への執着を知っている。


とくに何かお互いにそんな話をしたわけじゃないが、変にカンが冴えているところがある。


「あのな…さすがに今日は初回なんだから出たほうがいいぞ。たしか図書委員会ってオマエと…」


「トマは一人でいいって言ってたよ」


ジェシーはわざとらしく大きくため息をつく。


「あー。あいつはオマエに甘いからなあ」

「じゃあな。帰るわ」

「待て」


ガシッ、と肩を捕まれる。アメフト選手かというぐらい体格のいいジェシーから逃げるのは不可能に近い。

「…わかったよ。出る」

「よし」


ニヤリと笑うとジェシーは俺の肩をポンポンと叩いた。

「送ってってやる」

「…護送か連行の間違いだろ…」


ぼやく俺の背を強引に押すジェシーと二人で廊下を行く。

俺の所属する国際コースは他のコースとは別校舎なため、図書館からも体育館からも全てから遠く離れている。

国際色豊かな連中の自由な空気が、進学コースに伝染らないようにとの学校側からの配慮だとは、トマの言い分だ。


「なあ、ハルキ」

「ん?」


窓から暖かい空気が漂い気持ちがいい。

今日は授業が少なかったのか、校内に他コースの生徒はほとんどいない。


ジェシーは歩く速度を変えずに喋り続ける。


「オマエさ、カノジョとかつくらないのか」

「ん―…別に欲しくないし。なんでいきなりそんなこと聞くんだよ?」

「…まあな」


珍しく歯切れの悪い曖昧な呟き。


「なんだよ」


ジェシーは困ったように厚い唇を歪めた。


「俺たちは友達だから…俺はオマエを信頼してるからな」


「前置きが長いな。なんだよさっさと言え」


俺はジェシーを見上げた。ハリウッド俳優ばりの濃い顔立ちは苦渋に揺れていたが。

やがてジェシーは決心したのか、俺を見つめてきた。


「お前の姉貴が男と歩いてるのを見た」


「里歩ちゃんが?」


「バイトでドラッグストアにいるんだろ?そこのヤツみたいだったな…店長か職員か。バイト仲間って感じじゃなかった」


そうか。




※※※



「カノジョはいっときの存在だが、友達や家族は一生モノだからな」


ジェシーらしい思考だよ。

いつの間にか自分の頬に微笑が広がるのを感じた。

腹がたつ情報を教えられたはずなのになぜかうれしくなって無言で歩く。


そして校舎をいくつか抜け、裏門から近い図書館に着いた。再び窓の外を見ると、桜の花が満開なことに気付く。図書館の2階第2会議室で委員会はあるんだったな。

俺は一人で階段を登って行った。


踊り場で足がとまる。


桜に郷愁を感じるのは日本人ぐらいだと聞いたことがある。


開け放たれた窓から桜の花びらが紙吹雪のように入ってくる。


綺麗、とは感じない。

不自然な過剰さが俺を憂鬱にさせる桜の花。



幼い頃。

俺の家の近くにも桜の木はあった。


階段の踊り場で立ち止まり俺は桜をみつめていた。


思い出したくもないことを過剰に演出するこの花は嫌いだ。

桜の白い光が眩しい。

苦しいくらいの眩しさでしかない。過剰な美しさだ。

光に取り残された廊下から睨むように桜を見上げていた。


さっきのジェシーの話がやはり気になっていたのか余計な感傷に浸ったせいで俺は…一人の少女に出会ったのだった。

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